望みをかなえるために
「‥…これが運命だというのか」
赤い水晶玉を鋭い目でにらみ、彼はうめくようにつぶやく。
彼はただ、取り戻したかっただけだ。愛する家族を、愛しい人を、美しい故郷を。
取り戻せるはずだった。すべてを。
「いったいどこで間違えた・…?」
取り戻したと思ったものは、掌からこぼれおちていった。まるで、指の隙間から水がこぼれおちていくように、ほんの少しもとどめておくことはできなかったのだ。この手にはもう何も残っていない。いや、初めから何一つ、手にしてなどいなかったのかもしれない。美しいものを創りだす美しい手だと、彼女が褒めてくれた手は、どれだけ綺麗に洗っても決して落ちぬ穢れに染まっている。
『もう一度、繰り返す?』
いつの間にか目の前にいた少女が、くすくす笑いながら、彼に問いかける。
その瞳に、あきらかな侮蔑と嘲笑を宿して。
「‥…そうだな」
すでに世界は、彼では修復できないほどに歪んでしまった。幾筋もの亀裂と、崩壊の兆し。今ならばわかる。かつての親友が、なぜああも必死に彼を止めたのかも。あのときはわからなかった。失ったものを取り戻すことしか見えていなかったから。
「もう一度だけ、繰り返そう。すべてを取り戻すことはできなくても、せめてこの世界だけでも失われることのないように」
ひとり言のように小さくつぶやく彼に、少女は憐みの視線を向け、小さくうなずいた。