第74話
ルーチェが目覚めた時、そこは見慣れた部屋であった。
どうやら今回は療養所ではなかったらしい。
だとすればそう長くは眠ってはいなかったのだろう。
ふと枕元をみればタオがちょこんと座ってルーチェを覗き込んでいた。
『ルーチェ気づいたのか?』
「タオ・・・私どれくらい眠ってたの?」
『今はもう夜だよ。ルーチェ俺達やったんだぜ!この世界を守れたんだよ!』
それを聞いたルーチェは一瞬目を見開き、そのあとにっこりと微笑んだ。
そしてその両手を伸ばして俺をしっかりと抱きしめた。
「愛しているわタオ。あなたは最高の使い魔よ。」
俺も思わずルーチェにすりすりと頭を擦り付けていた。
その時部屋のドアが開きケイトが顔を覗かせた。
「ルーチェ!気づいたのね。」
ドアを開いたままケイトは駆け寄ってルーチェに抱きついた。
ケイトは振り返って居間にいる者達に声をかける。
「みんな、ルーチェが気づいたわ!」
その声を合図にゾロゾロと皆が部屋に入ってきた。
「ルーチェ、もう大丈夫なのか?」
ルドルフが心配そうに声をかける。
あれほどの魔力を使ったと言うのにルーチェの気分は爽快だった。
体もなんだか軽く感じた。
体の負担も東の森が消えた時とは雲泥の差があった。
闇の魔法使い達から十分な補給があった事ももちろんだ。
だが、なによりかぼちゃの魔法の訓練によって魔力の使い方を覚えた事が大きかったのだろう。
「もう大丈夫よ。なんだか体もとっても軽いの。気分も最高よ!」
ルーチェは体を起こして皆に向かって微笑んだ。
「ルーチェお嬢様・・・・本当に素晴らしかったですわ。
私は思わず神殿の塔に向かって手を合わせていましたよ。」
セーラさんは涙ぐみながらルーチェを見詰めていた。
「双子星もあれから安定して、元のルートに戻りつつあるよ。もう安心だ。」
アルバートさんもいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「ルーチェ様、本当にありがとうございます。
スタートが遅れた事で重傷者は続出しましたが、今のところ命に別状はありません。」
「アルクさん今までどうりルーチェでいいわよ。様なんていらないわ。」
ルーチェはアルクの呼び方が変わった事に注文をつけた。
アルクはとんでもないという風に両手を振る。
律儀なアルクは至高の魔女であるルーチェを呼び捨てに等出来ないらしい。
アルクはルーチェが倒れてからの事を詳細に説明してくれた。
あの光と闇の幻想的な光景はおよそ6分間続いた事。
当初の予定より1分ほど遅れこそしたがほぼ完璧であった。
重傷者が続出したのは予想された光の量より大幅に多かった為であった。
通常の光の量の2~3倍と予想していたが、実際は4倍もの光が降り注いだのであった。
あの1分の間にアルクが床に這い蹲る状態に陥ったのも無理はなかったのである。
それゆえ重傷者も多数出たのだったが命を落とすほどにも至らなかったのは不幸中の幸いであった。
それからフィリップと副神官長のライアンはその後、倒れて気絶しているところを捕らえられた。
今は二人とも治療中であるが、アルクの調査でもその罪状は明らかなものとなっていた。
フィリップはフリークという偽名を騙り、度々ルーチェとケイトの命を狙った事。
ミーアの誘拐も先に捕らえられたゴミ処理業者のオズとバースの証言から依頼主がフィリップであるとの証言も取れている。
その他にも異常気象の調整と称して各地でまだ若い将来有望な闇の魔法使い達の命を殺めた事。
その天を操る魔法に長けた能力を使い、雷の事故と見せかけ世間の目を欺いていたのだ。
それら各地へのフィリップの赴任先は、すべて副神官長のライアンが移動の許可を与えたものであった。
その中には異常気象などみじんもない地方も多かったという事実も明白である。
忘却草の調べからもライアンの罪状は浮かび上がった。
忘却草はもともと珍しい薬草であったが、近年その産地ではひどい水害に見舞われその栽培は壊滅的であったのだ。
そんな事情で忘却草じたいが、この2年ほどは取引が成されていなかったのだ。
わずかに王宮の薬局に在庫が残っていただけであった。
そんな事は知らないライアンはその薬局から忘却草を取り寄せたのであった。
王宮の薬局の控えからもこの近日、忘却草の依頼はライアンただ一人であった事も判明した。
動機は最高神官長の座であった。
闇の魔法使いであるタジンがじゃまであったからだ。
しかしタジンの魔力は強大でライアンのそれとは比較にならなかった。
力でも叶わず、へたな魔力の小細工も薬草による毒も通用しなかったのだ。
そんなところへ双子星が重なれば闇の魔法使いが全滅するという情報を研究室の者から聞きつけたのであった。
それはライアンにとってはすこぶる都合のいい話であった。
それを阻止できるのは至高の魔女だけである。
信心深いライアンもやはり女神の降臨を恐れたのである。
その可能性がある者達を次々に亡き者にしようと行動したのであった。
まったくその後の事を考えない己の欲望のみに囚われた愚かな行為である。
先に意識を回復したフィリップは病床から、ぽつりぽつりと真実を供述しているらしい。
最後に見たライアンの醜い真実の姿・・・・・
つい今しがた殺めようとした者に、なりふり構わず命請いをしようとする極めて自分勝手な行為。
これまでその命令に従ってきた自分なのに平気で捕らえよと命じる冷血漢。
フィリップは悪夢から覚めた気持ちだった。
いや。それも自分の欲と虚栄心から招いた事とひどく悔い改めているそうだ。
これだけの証拠が揃ってしまえば、もはや逃げ隠れはできないだろう。
回復を待って、それ相当の重い罰を科せられることは間違い。
二人が捕らえられた事により、ルーチェとケイトも本当の意味で自由を取り戻せたのである。
影のように付きまとうその身の上に振りかかる危機はようやく消え去ったのであった。




