表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
至高の魔女  作者: みやび
73/77

第72話

風の様に速いキースがフィリップの所まで走り、今まさにその牙で噛み付こうとした。

その瞬間、フィリップはふっと消えた。


バサバサ・・・・

上空ではサリーがさっきの白鳩をしっかりと捕まえていた。


瞬間移動したはずのフィリップの白鳩がここに居ると言うことは・・・・

キースはハッとして振り返った。


フィリップは逃げたのではなかった。

すぐ近くに瞬間移動したのだ。


それはルーチェの背後だった。

後ろから左手でルーチェの自由を奪い右手には短剣を持っていた。


その短剣の鋭い刃はルーチェの首元に当てられていた。

フィリップに気を取られて数歩ルーチェから離れたばっかりにルドルフは遅れを取った。


「近寄ると娘の命はない。」


フィリップはそう言って牽制した。

周りの者たちは皆息を呑んで見守った。誰ひとり動ける者はいなかった。


フィリップはルーチェを連れて瞬間移動は出来ない。

使い魔の白鳩はサリーの爪で深く傷ついて床に落ちたまま動けない。


自分一人での瞬間移動も今や出来る状態ではなかった。

ルーチェを引きずるようにじりじりと後ずさる。


ルーチェは驚きと恐怖で声も出ない。

このまま時間が過ぎ去るだけで我等の待望が叶うのだ。


後はライアン様がなんとかしてくれる。

フィリップはそう信じて疑わなかった。


「この剣を使わずとも、このままあと数分でお前の命は事切れるというのに誰も動けんとはな。」


フィリップはルーチェの耳元でそう呟いた。

皆の表情は厳しく緊迫した状態が続いていた。


ただ一人ライアンだけはこの状況を見てほくそ笑んでいた。

しかしその表情は深く被ったフードに隠れて誰にも悟られはしなかった。


その時、神殿の天井が開き始めたのである。

最初はキラリと眩しい光が差し込んだ。


そしてだんだんと大きく開いて行くと共に光が差し込む範囲が広がった。

みるみるうちに塔のすべてが眩しい光で満たされた。


双子星はちょうど真上に差し掛かっていた。

その姿は双子星と呼ぶより、もはや一つの星としか見えなかった。


ライアンの背後では異変が生じていた。

後ろに立っていた光の魔法使いである神官達がバタバタと足元から崩れる様に倒れたのだ。


振り返ったライアンの顔色が変わった。

ふとタジンの方を見てみると闇の魔法使いの神官達は誰一人倒れてはいなかった。


「ま・・まさか!まさか!」


ライアンはよろよろと歩き出した。


「フィリップ!止めろ!止めるんだ!

至高の魔女様・・・どうか、どうかお助けくだされ。


私は死にたくない!死にたくないんだ!

誰か・・・誰かそいつを捕まえろ!」


ライアンはそう叫びながらよろめいて倒れた。

膝をつき、這うようにその手をフィリップに伸ばす。


「ライアン様!」


それを見たフィリップはそう叫んで一瞬の隙を見せた。

キースはその一瞬を逃さなかった。


あっという間にその短剣を持った右手に牙を立てていた。

フィリップはその痛みに耐えかね、ルーチェを離して後ずさった。


だがキースは喰らいついた右手を離さない。

フィリップは倒れてそのまま気絶したのであった。


光の影響は既にフィリップにも及んでいたのであった。

ルドルフとアルクがルーチェに駆け寄った。


「ルーチェ大丈夫か?」


ルーチェの頬からは血の気が引いていた。

その唇はブルブルと震えていた。


ルドルフはルーチェをしっかりと抱きしめた。

震えるその背をそっと撫でる。


「殿下、時間がありません!」


アルバートが悲痛な声で叫んだ。

アルクは汗をかき、苦しそうな表情でその場に膝をついた。


ふとルーチェは自分を抱きしめたルドルフの息が荒い事に気づいた。

見上げるとその額に汗が流れその綺麗な顔は苦痛で歪んでいた。


ルーチェは自分の使命を思い出した。

怯えて震えている場合ではない。


私にはやらなければならない事がある。

ルーチェはその居心地のよい腕の中を自ら抜け出したのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ