第71話
『ねえ。俺とセーラはここでお留守番だけど、どこか光の当たらない地下室にでも篭ってたほうがいい?』
パルスがテーブルの下をチョロチョロ走りながらそんな事を言う。
『ばかね。そんな事で済むなら私達はこんな苦労などしないわよ。
たとえ光の当たらない場所にいたって光の魔法使いは常に光のエネルギーを吸収しているのよ。』
ミーアは首に赤いリボンをケイトに付けてもらいながら答える。
「そうだー!俺達もこんな真昼間だって闇のエネルギー吸収してるぞー!」
カラスも羽をバタバタさせながら言う。
『やっぱり逃げ場なんてないのかぁ。
でも俺はお前達を信じてるぞ。ここで帰りを待ってるからな。』
パルスはそう言いながらセーラさんのポケットに隠れる様にするりと滑り込んだ。
やっぱり小心者のパルスであった。
『・・・・信じてないな。』
まあそれは昨日までの話を聞いてれば当然かもしれないと俺は思った。
アルバートとカラスは準備があるらしく一足先に出て行った。
もう昼前だ。そろそろルドルフとアルクが迎えにくるだろう。
ルーチェの様子は朝からなんだか変だ。
緊張している訳ではなさそうだが、なんだか俺は違和感を覚えた。
妙に落ち着いて、穏やかなその横顔は大人びて見えた。
いつものルーチェとは別人の様だった。
何がどう変わったとかはよくわからない。
俺だけが感じる微妙なものなのかもしれない。
ルーチェとケイトはおとなしく居間の椅子に腰掛けてその時を待っていた。
いつもの様にルドルフとアルクは突然居間に現れた。
二人とも上からすっぽりと白いフードとマントに覆われていた。
少しでも光の吸収を防ぐ為のものだろう。
アルクの腕には二人が着ている物と同じマントが抱えられていた。
アルクは部屋の隅で控えているセーラさんに近づくとそっとマントをかけてやるのだった。
「ほんの気休めですけどね。ないよりはマシでしょう。」
セーラさんはアルクに深く礼をした。
「さあ。行こう!」
ルドルフの合図にルーチェとケイトはしっかりと顔を見合わせ頷いた。
俺達は一瞬の間に塔の最上部に着いたのである。
塔の上部ではもうすっかり準備は出来ていた。
アルバートはなにやら機械を持ち込んで覗き込んでいた。
双子星の重なるのを正確に計測できる機械であるらしい。
塔の天井はまだ閉められたままだ。
訓練の時に比べてずいぶん人が増えていた。
塔の真ん中に立ったルドルフとルーチェに全員が跪いていた。
「皆ご苦労である。後はその時を待つばかりだ。」
ルドルフが皆を労う言葉をかけた。
「女神の祝福を!」
その場にいる者が口々にそう言って自分の持ち場についた。
あとはアルバートの合図を待つばかりだった。
双子星の重なる一番いい時間に声をかけてくれるだろう。
どうやらギリギリまで天井は開かないらしい。
待ち時間というものは意外と長く感じるものだ。
俺は周りを見回した。
タジンの引き連れた闇の魔法使いは訓練時のおよそ倍の人数になっていた。
その隣にルドルフ達と同じ白いフードとマントで全身を覆った団体がいた。
昨日まではみた事のない連中だ。
『ねえ・・あの団体は?』
『副神官長のライアンとその供の者達だ。』
隣にいたキースが答える。
『ふーん。やっぱ副神官長ともなればちゃんと見届けに来たんだな。』
一番前で偉そうにしている太った奴がそうらしい。
まあ光の魔法使いは本番では役に立たないんだけどな・・・
それにしても神官の使い魔ってのはやたらと鳥が多いんだなと俺は上を見上げた。
まだ開いていない天井の桟にサリーを中心にいろんな鳥が羽を休めていた。
鷲や烏や白鳥に鷺・・・・まるで鳥園だ。
その時俺は一羽の白鳩が飛び立つのを見た。
白鳩といえば・・・・
俺は白鳩の区別はつかない。他にも白鳩はいっぱいいる。
そいつがそうとは限らないのだが、なんとなくフードをすっぽり被った団体を見た。
飛び立った白鳩は一直線にその団体の方へと飛んでいく。
フードのせいで顔は見えにくかった。
白鳩が近づいた時、その中の一人がふと顔を上げた。
その時、はっきり顔が見えた。
あれは・・・・フリークだ!
『おい!フリークがいるぞ。あの白鳩が止まった男だ!』
俺は叫んだ。
それを聞いたキースが風のようにそっちに向かって走った。
「フリークだと?」
ルドルフが振り向く。
「あれは・・・フィリップ!やはりあいつがフリークを騙っていたのか!」
アルクもそっちに向かって走り出す。
塔の中の声は響く。
辺りの者達はいったい何が起きたのかとざわめき始めた。




