第69話
俺達の意志とは関係なく残酷に時間は過ぎて行く。
最後の夜は早めに訓練は終わった。
明日に余力を残す為である。
今夜の食事はいつになく豪華であった。
最後の訓練も俺達はまだまだ目標に達するものではなかった。
でも誰も俺達を責めなかった。
「お疲れ様でした。今夜はよくお休みになって明日はよろしくお願いします。」
そう言って爽やかな挨拶で別れたタジンと神官たちもそうだ。
むしろおだやかに笑っていたのだった。
なぜか皆心穏やかで何かふっ切れたみたいで妙に落ち着いていた。
あとは神のみぞ知るといった悟りの心境なのかもしれない。
この豪華な食卓を囲んで、皆言葉は少ないが笑顔を絶やすことはなかった。
まるでいつもと同じ明日が来るかのように。
「じゃ、ルーチェまた明日な。」
ルドルフもまったくいつも通りの言葉を残して帰った。
「皆様ゆっくりお休みください。でわ。また明日に!」
アルクも笑顔のまま普段と同じ様に深く礼をしたまま消えた。
人間って強いな・・・・俺はそう思った。
もっと泣き叫び、己の未来を哀れむものかと思ってたんだ。
だって成功の可能性などほとんどないのだもの。
死は誰だって恐ろしい。
それが突然の予期せぬ事故なら仕方ないが、前もって時期が示されたら皆こんな風に平然としていられるものなのか?
やはりそれはルドルフが言った様にやるだけの事をやった達成感だろう。
そしてもう一度だけ最後のチャンスが残されているというわずかな希望。
今はその二つが皆を支えているのだろう。
全員が早めに寝室に入ったのを確かめた俺は窓辺に座ってぼんやりと外の景色を眺めていた。
皆そのまま眠ったのかそれともやはり眠れない夜をすごしているのだろうか?
そんな事を考えていた。
『タオ・・・あなたも早めに寝たほうがいいわよ。』
ぴょんと窓辺に飛び乗って俺の横に来たのはミーアだった。
『俺もミーアの様に全身漆黒だったらなぁ・・・・
そしたらルーチェの魔力を10倍にも増幅する事が出来たのにな。
今の俺じゃせいぜい2倍がいいところだよ。
これじゃ帝都すら守れやしない。』
ミーアは俺の愚痴を黙って聞いていた。
『もし俺がいなかったら、ミーアがルーチェの使い魔になってたんだろう?
そしたらきっと帝都は・・・もしかしたら世界だって守れたかもしれないのに・・・・
俺の存在がじゃまをしたから。それが結局は世界を崩壊させちゃう原因なんだよな。
どうして神様は俺なんかをこの世界に存在させたんだろう?』
俺は溜息をついた。
『私が思うには、小さな猫一匹がたとえ間違って存在したとしても神様は世界を崩壊しちゃうなんてするかしら?
きっとタオはルーチェと巡り会う為に生まれたのよ。
私もケイトと巡り会う為に生まれたの。最初はルーチェかと勘違いしちゃっただけ。
それは間違いのない事だと思うのよ。今は素直にそう信じられるわ。』
ミーアは毛づくろいをしながら言う。
『俺だってルーチェと巡り会えたことには感謝してるよ。
でも本当にこの世界に俺はよけいな存在な気がしてさ。』
俺はゴロンと横になって寝転んだ。
『でも神様はせっかく作ったこの世界を崩壊させるなんて・・・
それはよけいな存在が増えたからじゃなくて、むしろ何かが足りないからじゃないかしら?』
ミーアは毛づくろいを途中で止めて首を傾げる。
『何かが足りないって?』
『それは長い年月・・・たとえば千年も文明が発達すれば・・・・
元々持っていたはずの何か大切な物を失ってしまったのかもしれないわ。
神様はそれをお怒りになっているのかもしれない。
そんな気がしてならないの。』
『大切な物かぁ・・・・
俺にはルーチェしか思い付かないや。』
俺は窓の外をまた眺める。
『そうね。使い魔は皆そうよ。月の光も双子星も関係ない。
主の輝きで生きているのよね。それでいいのよ。』
ミーアも窓の外をぼんやりといつまでも見ていた。
白夜の空はどんよりと曇っていた。
雲のむこうで双子星はすこしづつ重なりつつあった。




