第68話
最高神官長のタジンとその他の闇の魔法使いの神官達が加わった事によってその成果は格段に上がった。
ケイトも神官達に混じって懸命に魔力を注いだ。
俺達は連日、早朝から夜遅くまで訓練に励んでいた。
ルドルフが作り出した光の塊も以前に増して輝きを強めていた。
最初の頃の輝きとは明らかにその眩しさと明るさは違っている。
ルーチェの集中が切れた時などは目がくらんでしまうほどだった。
それだけの魔力を継続して使っているのだ。
ルドルフも終わりの頃にはずいぶんと疲労の色を濃くしていた。
まだ塔の中だけでその効果のほどはよくわからないが、この頃ではだいぶ闇で包む事に慣れてきたルーチェであった。
それでもなかなか集中力が続かず、途切れ途切れになっているのである。
時間も当初よりずいぶんと延びたのは確かではあるがまだまだ半分にも満たない。
刻一刻とその時は近づいて来ていた。
「ねえ、タジン様。集中力をあげる為にはどうすればいいの?」
その日の訓練も終わりに近づいた時、ルーチェはタジンに尋ねた。
皆、連日の厳しい訓練に疲れ切った表情である。
こんなに頑張ってくれているのに、自分は皆の期待に応えられない。
ルーチェは藁にもすがりたい気持ちであった。
「集中力ですか・・・・そうですな。これはなかなか難しいことでございますな。
私の場合はやはり祭壇の女神様の前で祈る事で、ずいぶんと心が落ち着くのでございますよ。」
タジンは激しい訓練でうっすらと汗を浮かべた額をハンカチで拭きながら応えた。
「祭壇の女神様?」
ルーチェには初耳であった。
考えてみればそれはそうだ。神殿なんだから祭壇くらいはあるはずだ。
ルーチェはそんな事もすっかり忘れていたのだった。
この帝都に来てからというものほとんど自由などなかったのだ。
行動範囲は極端に制限されたものであった。
それゆえにどこに何があるかすらも考えなかったのだ。
「この神殿には至高の魔女の像があるんだ。当時の姿そのままに残っているんだよ。
この神殿はその像を女神として崇めているんだ」
ルドルフが説明した。
「そんな像があるなんて・・・・知らなかったわ。」
この神殿に出入り出来る者は限られている。厳しい制限があるのだ。
ルーチェが知らないのも当然である。
「見たいかい?」
「え・・・ええ、もちろん。見たいわ!ぜひ見せて欲しいわ!」
ルーチェはすがる思いだった。
当時の至高の女神様に会えれば何か教えがあるかもしれない。
「私も!私も見ていいかしら?」
ケイトもその話を聞いては我慢できない。
おそらくはルーチェと同じ思いだろう。
「君達にはその権利があるよ。いますぐ行こう。」
ルドルフはそう言うと二人を連れて瞬間移動した。
他の者達もそれに続く。
神殿に着いて一番にルーチェの目に付いたのは正面の祭壇に立つ像であった。
それは等身大の少女の像。
ルーチェは周りの景色も目に入らぬ様だった。
誘われるようにその少女の像の前に歩いていった。
俺達もそれを追いかける。
「これが・・・至高の魔女・・・なのね。」
ルーチェはその像に見入っていた。
その身長はルーチェよりかなり背が高い。
もの言わぬ石で作られた冷たい像である。
しかし、その細工は繊細で今にも動き出さんばかりに精密に作られていた。
ルーチェとは似ても似つかぬ容姿であった。
どちらかと言えばケイトの方が似てるだろう。
最初にアルクが間違えたのも無理はない。
やはり女神様は間違えて降臨したのだろうか・・・・
いやそうではない。
なぜならルーチェの中に至高の魔女である証など欠片すらないのである。
私の中に女神様が降臨したのであれば、何らかの証を残すだろう。
その意志をあるいはその力を女神が降臨したという啓示があってもいいはずだ。
なのに何もない。
ルーチェはルーチェのままだった。
ルーチェは像の前に跪き、一心に祈った。
「至高の魔女様。どうか助けてください。
私では無理です。無理なのです。いったいどうすれば・・・・」
ルーチェの問いかけに答えはなかった。
至高の魔女の像は無言でその頭は天を仰ぎその手を上に差し伸ばしているだけだった。




