第63話
「それで結局は至高の魔女は見付からなかったの?」
ケイトがアルクに向かってそう問いかけた。
するとアルクは真っ直ぐにルーチェの方を見詰めて言った。
「ルーチェを至高の魔女であると、最高神官長のタジン様がお認めになった。」
ルーチェはその視線を受けてビクンと体を強張らせた。
そしてブンブンと首を振る。
「ルーチェが!」
ケイトは驚きの声をあげその口を両手で覆った。
アルバートもセーラも驚きルーチェの方を見詰める。
この場の全員の視線を集めたルーチェは体を縮込ませ両手を胸に合わせて震えていた。
「わ・・私じゃない。私はそんな力など持っていないわ。みんなも知っているじゃない。」
ルドルフはルーチェの震える肩をそっと抱いた。
「いいんだルーチェ。君が至高の魔女であろうがそうでなかろうが・・・・
そんな事は関係ない。君だけにそんな大きな重荷を背負わせるもんか。」
ルドルフはぎゅっと今度は力いっぱいルーチェを抱き寄せた。
「だけど君は東の森を消した。そんな大きな魔力を使える闇の魔法使いは他にはいない。
今いる者でなんとかしなきゃいけないんだ。手伝ってくれるかい?」
ルーチェはルドルフの体温を感じていた。
その暖かさは震えるルーチェをだんだんと落ち着かせた。
「どんな事でも手伝うわ。私に出来るなら・・・」
ようやくそう答えることが出来たルーチェだった。
「アルク時間がない。できるだけ多くの闇の魔法使いを集めてくれ。
それからアルバートはもっと正確な時間を割り出してくれ。それと他にも情報があれば頼む。」
ルドルフは二人にそう命じるとルーチェを抱いたまま消えた。
残された者たちはそのまましばらく二人が消えた空間を呆然と見ていた。
「ルーチェがそんな事になっていたなんて・・・
私にも何か手伝える事はないかしら?」
我に返ったケイトはルーチェが心配でたまらなかった。
「もちろんケイトにも手伝って貰うよ。我々にも出来る事はあるからね」
アルバートの言葉にケイトはうんうんと頷いた。
「闇の魔法使いがたくさん必要なんでしょ?もちろん私もその一人よね?」
「ええ。そうですよ。しかもとても優秀だ。
きっとルーチェの一番の助っ人になるでしょう。」
アルクがそう付け加える。
「ただ近頃、闇の魔法使い達が襲われています。
恐らくは我々の計画を誰かがじゃまをしているものと思われます。
警備は怠りませんが、くれぐれも気を付けてくださいね。」
そう念押しをするとアルクはテーブルの書類をもう一度確認し始めた。
「予定ではあと一月はあるはずだったんだ。
力のありそうな闇の魔法使いには既に招待状を送っているんだが、間にあうだろうか・・・・」
アルクは独り言の様に呟いた。
「アルク様、私の方で用意した格安ツアーでかなり闇の魔法使いの観光客が増えております。」
アルバートがアルクに報告する。
「招待状に格安ツアー?」
ケイトはきょとんとした表情で聞きなおす。
「そうなんだよ。いくら帝都に闇の魔法使いをたくさん集めたいからと言って・・・・
いきなり文明の崩壊だなんて告知したらそれこそ世界中がパニックに陥ってしまうだろう?
なので、自然な形で集めるにはどうすればいいか色々考えたんだよ。
魔法学園で優秀な成績を修めた闇の魔法使いは帝都の城で表彰する事にして招待状を出したんだ。
もちろん費用は全額こちらで負担すると言う事でね。
それ以外でもできるだけ多い方がいいかと、こんな観光ツアーのパンフレットを世界中に配布したんだよ。」
アルバートはそう言ってテーブルの上の書類の中から一枚の紙を取り出すとケイトに差し出した。
「闇の魔法使いは半額!格安!楽しい帝都の旅・・・・」
チラシを受け取ったケイトは呆れていた。
「そっちも無料でよかったんだけど、あんまり安いとむしろ怪しい業者と間違われても困るからね。
それでは私はまた研究室に戻るよ。、もっと正確な時間を割り出してくるとしよう。」
アルバートはそう言うとテーブルの上の書類を集めて元通り胸に抱え居間を後にした。
「私も招待状を出した先に、表彰式の日取りが早まったと変更の知らせを出しておこう。」
アルクもそう言い残してすっと消えた。
「大丈夫ですよ。殿下達にお任せしましょう。
きっと女神様のご加護がありますよ・・・・・」
残されたセーラさんはケイトの肩を抱きそう言ったのであった。




