第62話
「その光は・・・今の倍以上の光が降り注ぐと、いったいどうなっちゃうの?
人々は全員が耐え切れなくて死んじゃうの?」
ルーチェはどう文明が滅びるのか想像も付かなかった。
「いや。そうじゃない。通常じゃない光が降り注いだらどうなるか、考えてごらん?」
アルバートはまた問いかける。
「え・・えーと・・・光がうんと増えると言う事は・・・・闇が無くなるんだわ!」
考え込んでいたケイトが思い付いたように答えた。
「そうなんだよ。」
アルバートが深く頷く。
「闇がなくなる!それじゃ私たち闇の魔力の使い手はどうなるの?」
ケイトがすぐその疑問に気づいた。
「私達・・・死んじゃうの?」
ルーチェが不安げに問う。
「ずっとそう考えられていたんだ。今でもその解釈を信じている人がほとんどだよ。
だが、二年前に王宮の書庫からとても古い日記が発見されたんだよ。
至高の魔女が存在していた頃の日記だ。それを解明していくと意外な事実が判ったんだよ。
死ぬのは闇の魔力の使い手じゃない。光の魔力の使い手の方なんだ。」
アルバートの言葉にルーチェは驚いた。
隣のルドルフをじっと見詰める。そしてアルクを・・・次にセーラさんを順番に見回した。
全員が下を向いて唇をかみ締めている。
嘘だ・・・この人達の命があと一週間もない?
こんなに元気なのに!こんなに暖かい血の通った人達なのに・・・・
それだけじゃない。
この世界のすべての光の魔力の使い手たち全員が死んでしまうなんて・・・・・
「光の魔法使いは常に光のエネルギーを吸収しているんだよ。そういう体質なんだ。
もちろん闇の魔法使いは闇のエネルギーを吸収する体質だ。
だが、大量の光が降り注ぐと吸収するエネルギーが自分の許容範囲を超えてしまうんだよ。
自分の器以上のエネルギーを急速に注ぎ込まれると言う状態になるんだ。
それではひとたまりもないだろう。」
アルバートの説明は続く。
「光の魔法使い達が死に絶えると、今度は闇の魔法使いの番だ。
光のエネルギーを吸収する者が誰もいなくなるんだからね。
光のエネルギーはどんどん膨らんでいくばかりだ。
ついには闇のエネルギーも飲み込んで今度こそこの世界にはまったく闇が無くなってしまうだろう。
そうなれば闇の魔法使いも吸収するエネルギーが無くなって結局は死に絶える。
魔法使いが一人もいなくなったこの世界は普通の人々だけになるだろう。
だが、光のエネルギーだけでは異常気象と天変地異が続く事は間違いない。
そして普通の人々すら生きて行けなくなるんだよ。」
「そうやって文明が滅んでいくのね・・・・」
ケイトが静かに呟いた。
「そうだよ。一瞬にして滅んでいく訳じゃない。
そうやってじわじわ・・・でもかなり短い時間にそれらすべてが重なって起きる事になるだろう。
世界はすべて繋がっているからね。一つの種族が消滅するだけで済むはずがない。
この世界に存在すると言う事はなんらかの恩恵を受けているし、また与えてもいるんだよ。
すべてはバランスなんだ。多すぎず少なすぎず・・・バランスが取れているからこそうまく回っているんだ。
そのバランスが一度崩れると、後はなし崩しに崩壊していくだけだ。」
説明を終えたアルバートはガックリと肩を落とし、俯いた。
あまりの衝撃に誰も言葉を発せない。しーんと沈黙が続いた。
「今の説明はアルバートの長年の研究による仮説にすぎない。
私もアルバートを信用しているがあくまでも新説なんだ。
長年信じられている説は闇の魔法使いが滅びるという説だ。
やはり先に滅びるのは闇の魔法使いの方なのかもしれない。
いろんな説があるんだが、一番有力なのはその二つなんだ。
他の研究の解釈だって無視する事はできない。
どちらが先に滅びようともその後の結果は同じだろう。
だが実際のところは起こってみないとわからないんだ。」
長い沈黙を破ったのはアルクだった。両手の拳をしっかりと握り締めている。
そんなアルクの肩をルドルフはポンと叩いた。
「私たちも希望を失った訳ではない。
なんとか回避する方法はないかと色々手を尽くしては来たんだ。
至高の魔女の降臨を信じて長年探し求めてきたのもその一つだ。
私やアルバートはとっくに諦めていたが、アルクは最後まで諦めず探し求めていたんだ。
アルバートは至高の魔女など現れないのを前提にして帝都だけでも救う手立てを考えた。
帝都にたくさんの闇の魔法使いを集めて光が降り注ぐ時、帝都だけでも闇で包もうという方法だ。
今までの研究を総合的に見ても対処法はそれしか考えられない。
おそらく至高の魔女は世界を闇で包んで救ったのだろう。
至高の魔女はそれほどすごい魔力の持ち主だったに違いない。
それに相当するだけの力はないにしても、大勢の闇の魔法使いが集まれば帝都だけでも救える可能性は高い。
可能性があるなら私達は最後まで希望は失わない。
今自分に出来るだけの事を精一杯やるだけだ。」
最後にルドルフが力強くそう言った。




