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至高の魔女  作者: みやび
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第60話

「ねえ、見てケイト。私こんな事も出来るようになったのよ。」


夕食のテーブルに出された皿やスプーンが宙に浮いてブンブンと回っていた。

もっともこんな事ならケイトはもっと子供の頃に出来ていた事だ。


「すごいわルーチェ。コツを掴んだのね!」


それでもケイトはルーチェを褒め称えてくれた。

学園での生活をしていてもルーチェはこれまで、ほぼ普通の人間と変わらぬ生活をしていた。


日常生活のちょっとした事でも、他の生徒が簡単にやる事をルーチェがやると大変はた迷惑な結果となるのが常であった。

その為ルーチェは授業以外では魔法は使わない様にしていたのだ。


『これを学園で学んだ時には、皿を割りまくったもんなぁ・・・・』


俺は昔の事を思い出して感慨にふけっていた。

ルーチェの魔女としての生活は今から始まるんだ。


『本当にあの時はひどかったわ。大騒ぎになったわよね・・・・

そういえば、何人か怪我人も出たんだったわね。』


ミーアは宙に浮かぶ皿を目で追いかけながら過去の悲惨な出来事を思い出す。


「で・・・でも、おかげて食堂のすべての食器が新しいのに買い替えられたと皆、喜んでいたわ。」


あわててケイトがフォローしようとした。

だがそれはフォローになってはいなかった。


ルドルフとアルクは顔を見合わせた。

かなり悲惨な状況であったであろう事を想像できたからだった。


「お父様はまだお帰りにならないのかしら。遅いわね・・・」


ケイトが玄関の方を気にしながら言う。


「アルバートさんにも私の魔法を見て貰いたいのになぁ・・・」


ルーチェもせっかくの皿とスプーンの空中ダンスを見て貰えないのが不満そうだ。


『どうせまた研究に没頭してな~んもかも忘れちゃってるんだよ。

いつものことだ。』


パルスがそう言った。


「さあさあ。先に食事にしましょう。

待っていても、いつ帰ってくるかわからないわ。」


セーラさんはそう言うとさっさと食事の準備を始めた。

今夜はルドルフやアルクもここで食事をする事になっていた。


ルーチェがルドルフを強引に誘ったのだった。

最初は抵抗もあり、遠慮していたルドルフとアルクであったがその誘いを断りきれなかった。


「さあ、ここに座って。」


ルーチェに強引に席に座らされたルドルフであった。

アルクは勧められた席に座るのには抵抗した。


いくらなんでも皇太子殿下と同じテーブルに座るなんて許されない事である。

断るアルクだったが、ルドルフの命令で無理やりその席に座らされたのであった。


それは礼儀や作法などまるで無視した食事光景であった。

最初のスープこそセーラさんが給仕をしてくれたが、それ以外はテーブルの真ん中に無造作に置かれた大皿の料理を各自が自分で取って食べるのだ。


こんな食事方法は初めてである二人は戸惑った。


「ほらルド、こうやって欲しい分だけ取るのよ。」


ルーチェは手本を示すように自分の取り皿に料理を取り分けた。

ルドルフは見よう見まねでルーチェのやった通りに自分の皿に料理を取った。


「なかなか面白い趣旨だなぁ」


ルドルフは初めての給仕の真似事の様なこの作業を楽しんでいた。

あちこちテーブルの上にこぼしたのは言うまでもない。


アルクはお腹は減ってはいたが、緊張のあまり料理には手が出せずにいた。


「はい、どうぞ。」


そんなアルクの目の前に綺麗にいろいろな料理が盛られた皿が差し出された。

ケイトがアルクの為に料理を取り分けてくれたのだ。


「ケイトさんが私の為に・・・・」


アルクは感動していつまでもその皿を見つめていた。

なんの感動なのかはその場の誰一人わかる者はいなかった。


「こらっ!タオったら私が楽しみに残しておいたデザートなのに・・・」


『いつまでも食べないから、いらないのかと思ってさ。』


タオに横取りされたデザートをルーチェはうらめしそうに眺めている。


「ルーチェこれを食べたらいいさ」


ルドルフが自分の分をルーチェに差し出した。


「そ・・そうはいかないわよ。それはルドの分だもの。

で・・でも・・・じゃ半分だけ。」


一旦は断ったものの、やはり未練は捨て切れない。

ルーチェは丁寧に半分に取り分けた。


小さくなって返ってきたそれをルドルフはスプーンですくって口に含んだ。

口の中でほわりと溶けたデザートは甘くて少し、しょっぱい味がした。


自分が分け与えたそのデザートを大事そうに少しずつ味わう様に口に入れる。

そんな少女を横目で見ながらルドルフはなんだかとても幸せだった。


身分やルール等なにもなく全員が同じテーブルを囲んでで食事を取ることの楽しさは二人には新鮮だった。

何種類もの豪華な料理ではない、高級な食材でもなかった。


それでもルドルフとアルクにはなぜか今まで食べたどの料理よりもおいしい物であった。

宮廷の名のある専属シェフ達の料理をしのぐのだ。


セーラさんはもしかしたら料理の天才かもしれない。

二人は本気でそんな事を考えたのであった。


そしてその夜アルバートは帰っては来なかったのであった。

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