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至高の魔女  作者: みやび
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第59話

ルーチェとルドルフが瞬間移動した場所はやはりあの菜園だった。

かぼちゃは山と積まれたままだ。


ぽつんと歪な形の馬車が一台寂しそうに置き去りにされたままである。


「ま・・またかぼちゃ?」


いったいどれだけの馬車が欲しいと言うのだろう。

ルドルフのことだからなんでも大量が好きに違いないのだ。


「そんなにたくさんのかぼちゃの馬車が欲しいなら自分で作ればどう?」


「いったいどういう思考回路を持っていたらそんな話になるのかわからないが、別に馬車など欲しくはないぞ。」


「へ?」


・・・・じゃやっばり罰なのか?


「お前は魔力の使い方がめちゃくちゃなんだ。このかぼちゃの魔法はいい訓練になるんだよ。」


ルドルフはかぼちゃを1つ持ち上げてルーチェの方に差し出す。


「このかぼちゃを前にして魔法を使う時、どんなことを考えてる?」


ルーチェはかぼちゃを受け取り首をかしげる。


「んーんと・・・かぼちゃよ大きくな~れ・・・爆発しないでね。今度こそ成功しますように。

また失敗したらどうしよう・・・とか。」


ルドルフはにっこり微笑んだ。


「ほーらね。色んな事を考えすぎて肝心の事を忘れてる」


「肝心の事って?」


ルーチェはかぼちゃを手にきょとんとした表情をしている。


「かぼちゃよ馬車になれ!それだけでいいんだよ。

一度に色んな事を考えるから魔力がそれらすべてに反応してしまうんだ。


まず、心の中で願う事、そして呪文はその願った事を口にすることで言霊となるんだ。

そして言霊はその魔力を増幅させる。やってごらん。」


ルーチェはかぼちゃを置いて集中する。

俺も毛を逆立てて準備をした。


「かぼちゃよ馬車になれ!」


ルーチェが呪文を唱える。


ボフッ!


かぼちゃは爆発した・・・・・


「・・・・・・・」


ルーチェは絶句したままルドルフの方を見る。


「今のを見ると、このかぼちゃを馬車にする為に必要な魔力よりルーチェの放出する魔力は大きすぎるんだ。

なのでタオがそれを押さえようと小さくする為に分散した。


だがそこへルーチェが呪文を使った事により更に魔力が増幅されて大きくなった。

だからかぼちゃは爆発したんだ。」


『なるほどなぁ・・・ルドルフの言う事は理論的でわかりやすいよ。』


俺は今まで失敗していた理由がわかった。


「つまり、呪文を唱えなければ成功してたってこと?」


ルーチェが爆発したかぼちゃを見つめながら確認する。


「そうだね。普通は呪文を唱えるんだが、ルーチェの場合はもともと放出する魔力が大きいので呪文は必要ない。

この程度の小さな魔法なら呪文は唱えないほうがいいだろう。」


ルーチェは新しいかぼちゃを用意するとさっそく意識を集中しはじめた。

俺もあわてて毛を逆立てた。


かぼちゃは大きくなったり縮んだりを繰り返し・・・・

一瞬目の前が真っ暗になったかと思うと次の瞬間、突然菜園の真ん中にりっぱな馬車が現れた。


「やったー!」


俺とルーチェは飛び上がって喜んだ。

調子に乗ったルーチェはかぼちゃをいくつも均等に並べていく。


その一つ一つの前で集中するルーチェの後を俺は追うように付いていく。

みるみる間にかぼちゃの馬車の行列が出来上がった。


どれをとっても姿、形はりっぱなものだった。

ルーチェは満足そうにそれを眺めた。


『もうこれでルシア先生に叱られる事はないな・・・』


「ええ。帰ったらさっそく報告しなきゃね。」


俺とルーチェは魔力の使い方の基礎をルドルフから学んだのであった。

特別な力を持つルーチェと使い魔としては型破りな種類の俺。


学園にいる子供達と同じ事をやっていたのでは、成功する訳もなかったのである。

それでも生真面目なルーチェは授業で教えられたとおりに忠実に実践していたのである。


皮肉な事にその生真面目さが災いして今まで何一つまともに成功しなかったのであった。

唯一ルーチェが使える治癒魔法は、傷ついた人や動物を本当に治したいと願う思い。


本来のルーチェのやさしさが現れて使えたものだったのだ。

それだってごくささいな、かすり傷程度のものだ。


ひどい傷を見るとやっぱりルーチェは動揺してしまって集中できないからだ。

そんな俺達に教える事ができるルドルフはやはり自身も特別な強い魔力を持って生まれ、特別な教育を受けてきたからに他ならない。


「よけいな事をあれこれ考えない。しっかりと目的だけを心に思い描き集中する事。

大きな力を必要としない魔法には言霊である呪文は使わない。」


ルーチェはその事をしっかり心に刻むように繰り返した。


『ルーチェよかったな。俺達はこれでどんな魔法も使えるようになるぞ。』


はしゃぐ俺達の様子をルドルフはやさしく見守っていた。


「まあ、かぼちゃの馬車の魔法はすべての魔法の基本でもあるからな。

これが出来たなら日常のほとんどの魔法は問題ないだろうな。

だが・・・・・・」


言葉の最後に含みを持たせたとき、ルドルフの笑顔にわずかな影がさした事は誰にも気づかれないままであった。


その後、菜園はすっかりかぼちゃの馬車の行列に飲み込まれその姿は見えなくなった。

自信をつけたルーチェと俺はかぼちゃだけでなく、色んな野菜にも挑戦した。


ピーマンやトマトの馬車も出来上がったのだが・・・・

馬車としての使用は不可能である事が判明しただけだった。


「やっぱり馬車はかぼちゃに限るわね。」


そんなルーチェの言葉に笑いころげるルドルフであった。

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