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至高の魔女  作者: みやび
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第53話

『私はチャチャよ。ここらでは見かけない顔ね。

どこから来たの?』


チャチャは警戒しているのか少し距離を取って俺を上から下までジロジロと見た。


『ありがとう。助かったよ。

俺はタオって言うんだ。今は城内に世話になってるんだけどさ。』


俺は素直にチャチャに礼を言った。


『まあ。城内ですって? お金持ちの飼い猫なのね。

どうりで、この辺りの猫とは違って礼儀正しいと思ったわ。』


チャチャはちょっと安心したのか俺の側に近寄ってクンクンと匂いを嗅ぐ。


『変ね。なんだかなつかしい匂いだわ。お兄ちゃんの匂いと似ているからかしら・・・』


そんな事を言って首をかしげるしぐさはなかなかにかわいらしい。


『俺は首に赤いリボンを付けた黒猫を探しに来たんだ。ミーアって言うんだ。

すごく綺麗な漆黒の毛並みをした猫なんだけど、見かけなかったかい?』


俺はとにかくミーアの情報が欲しくて聞いてみた。


『そんな黒猫がこの辺りに居たら、たちまち噂になるはずよ。

だけどそんな話は聞いたこともないわね。』


チャチャは後ろ足で耳を掻きながら答えた。


『私だって夕方にはここら辺をウロウロするけどそんな猫は知らないわ。

まったくあいつ等のおかげで日にも当たれないので体がムズムズと痒くてしかたがないわ。』


やっぱり知らないか・・・・

それを聞いて俺はガッカリした。


ガタン・・・・

奥の部屋から誰か出て来た。


「おや・・・みかけない猫だね。チャチャのお友達かい?」


そう言って近づいてきたのはこの家の主なのだろうか。

ずいぶんと年老いてはいるが、優しそうなおばあちゃんだ。


チャチャはその足元に絡みつく様に擦り寄る。


「おやおや。お腹が減ったのかい?

すぐに餌を用意してあげるよ。お友達の分もね。」


そう言うとおばあちゃんはカサスの煮物を皿の上にたっぷりと乗せてくれた。

もう昼もとっくに過ぎている。


俺は腹ぺこだった。

そう言えば朝飯も食わずに飛び出したんだっけ・・・・


カサスが大盛りの皿を2つ俺たちの前に置いたおばあちゃんは又、奥の部屋へと戻って行った。

俺はしっぽを立ててカサスにがっついた。


そうだ。この一匹はカラスとパルスの為に咥えて持って行ってやろう。

そんな事を考えた。


『チャチャってスリムな体なのにそんなに食べるのか?』


ふと気になった事を隣で食べてるチャチャに聞いた。


『まさかぁ。全部は食べないわよ。お兄ちゃんの分はとっておくのよ』


『へえ。お兄ちゃんがいるんだ・・・』


『そうよ。お兄ちゃんはとっても強いのよ。』


チャチャは自慢そうに鼻を高く上げてそう言った。


『あのトラ猫はギルって名前なんだけど、お兄ちゃんが居た頃はびびって小さくなっていたのにさ・・・・

この辺りも半年前までは、とっても住み易い所だったわ。

お兄ちゃんの縄張りだった頃は、飼い猫もノラ猫もとっても仲良く暮らしていたのよ。


なのに今ではギル達がのさばって、この辺りの猫達の餌を取り上げたり、弱い者いじめを繰り返しているのよ。

しかたなくここを出て行ったノラ猫も多いけど、飼い猫だって昼間は外に出られなくなってるのよ。』


チャチャは暗い顔で下を向いた。


『ふ~ん・・・それでそのお兄ちゃんはどうしたの?

病気で寝込んでるとか・・・・・』


俺の言葉にチャチャは首を振る。


『私たちは元々あのおばあちゃんと帝都のもっと東の田舎の方に住んでたの。

だけど、おばあちゃんがもう高齢なので帝都に住む息子さんが心配して引き取ったのよ。


こっちに来てお兄ちゃんはすぐにこの界隈のトップになったわ。

強くてその上、子猫や弱い者にすごく優しいから皆とっても慕っていたわ。


なのにこの家の孫息子ときたら、すっごい不良でね。

遊ぶ金欲しさにお兄ちゃんをペットショップに売っちゃったのよ。』


チャチャはしょんぼりして耳としっぽを垂れた。


『今はお兄ちゃんはペットショップの檻の中よ。

そこは餌も悪くて、檻の掃除もろくにしてくれないってお兄ちゃんがぼやいていたわ。


私は毎日お兄ちゃんの様子を見にそのペットショップに通っているの。

せめて餌だけでもと夕方にはカサスを届けているのよ。』


『そうかぁ・・・色々事情があるんだな。でも俺じゃ役に立てそうもないなぁ。

ギル達は三匹でグルになって力でも敵いそうもないしなぁ。』


俺は自分の無力をここでも思い知った。


『大丈夫よ。お兄ちゃんならきっといい人が買ってくれるわ。

そして自由になったら、またこの界隈を平和で暮らしやすくしてくれるわ。』


チャチャは気を取り直したのか、しっかりと前を見てにそう言った。


『そうだな。頑張れよ。』


俺はそう言うしかなかった。


『そろそろお兄ちゃんのところへ行かなきゃ。』


チャチャはそう言うとカサスを一匹咥えた。

俺も同じ様にカサスを咥えると一緒に路地裏に出て行った。


外にはもうギル達はいなかった。諦めて戻ったのだろう。

上空にカラスの姿を発見した俺はそっちに向かって走った。


振り返るとチャチャは反対の方向へ走って行くのが見えた。

俺たちはそこで別れたのであった。





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