第52話
北のゴミ処理場に近づくに連れ、周りの景色は一変した。
道も狭くなり、あちこちに細い路地が入り組んでいた。
大きくて立派な館は見当たらない。
小さな家が連なってごちゃごちゃした感じである。
どれも作りは古くてあばら家と言っていいだろう。
手入れもされていない様で、これなら雨漏りもするだろうと思われる。
西と比べてずいぶんと質素すぎる建て住まいであった。
帝都でも低階級の貧しい人々が暮らしているらしい。
パルスはここで俺の背から飛び降りた。
『ここなら俺の仲間もたくさん住んでいそうだな。
ちょっと行ってくるよ。』
そう言ってまた細い路地裏へ消えて行った。
「俺も上から見回ってくるー!」
屋根の上で羽を休めていたカラスもさっきと同様に大きく周回して飛んでいる。
さて俺もさっきの様に役立たずのままでは申し訳ないな・・・・
そうだパルスを見習って俺も猫仲間に聞き込みをすればいいんだ!
俺はいい考えを思いついた。
ここならノラ猫もたくさん居そうだ。
俺は猫が居そうな裏路地を探してみた。
いい天気なんだ。どこか日当たりのいい所なら猫達も昼寝しているかもしれない。
そう思って猫が居心地の良さそうな場所を当たってみるが猫の姿はない。
変だなぁ・・・ここなら猫達が集まって来ても良さそうな場所なのになぁ
こんなにポカポカ日が当たって毛づくろいするには抜群の場所なんだが・・・・
そう思いながら俺は広場と言うには狭すぎるが、少し開けた場所に出た。
椅子や酒の樽なんかが無造作に置かれているが、猫にとってはそんな上に乗ってのんびり日に当たるのは極上の楽しみなのだ。
『おい。よそ者がこんなところで何してやがる』
その時、急に目の前に飛び出して来た猫が俺の行くてを遮った。
大きなトラ猫だ。左の耳が少しちぎれている。
『俺は黒猫を探しているんだ。首に赤いリボンを付けた猫を知らないか?』
俺はさっそく現れたトラ猫に聞いてみた。
『ふん。そんな奴は知らねえな。ここは俺の縄張りだ。
ここらをウロウロするなら俺様に貢物でも持ってくるもんだぜ』
トラ猫はずいぶんと偉そうな態度だ。
『貢物って?』
『食い物に決まってるだろ。さもなきゃ、さっさと出ていきな』
トラ猫は牙をむいて毛を逆立て俺を威嚇した。
こんな奴を相手にしている暇はない。
俺は右手の路地の方へ行こうとした。
『おい。そっちも俺の縄張りだぜ。』
トラ猫はなおも執拗に威嚇する。
ならばと左へ行こうとするとその前に立ちふさがった。
『わかっちゃいねえな。俺様はお前が気に入らないって言ってるんだぜ。』
『なんだと!』
俺はむかついた。
どうあっても俺をこのまま帰す気はないらしい。
俺も牙を出し毛を逆立てて戦闘態勢に入った。
トラ猫の体はでかいが、俺だって負けちゃいない。
売られた喧嘩なら買ってやるぜ。
『ふふ・・なまいきな奴だ』
トラ猫は不適に笑った。
そして威嚇の姿勢のまま俺の周りをゆっくりと回る。
「タオー! 後ろだー!」
カラスの声に後ろを振り向くと、いつの間にか俺の後ろに二匹の猫がいた。
グレーの縞と茶色の斑点のある猫だ。
おそらくトラ猫の仲間だろう。
同じ様に威嚇の姿勢をとっている。
しまった囲まれた!
俺は逃げ場を確保する為に周りを見回した。
その時、カラスが低空飛行をした。
「タオー!逃げろー!」
バタバタ・・・・・
その羽音に三匹の猫は一瞬怯んだ。
おそらく本物の烏と見間違えたのだろう。
烏の爪は鋭い。その爪と口ばしの威力は油断ならないからだ。
俺はその一瞬の隙に大きくジャンプしてトラ猫を飛び越えると右の狭い路地に走って逃げた。
『そっちは行き止まりよ。こっちに来て。』
俺が逃げ込んだ路地の中ほどで一軒の家の裏木戸が少し開いていた。
声はその隙間からだ。
俺はひらりと身を翻してその隙間にすべり込んだ。
入ったとたんにすぐに裏木戸は中側から閉じられた。
『危なかったわね。あいつらは蛇の様にしつこいから今頃探し回っていると思うわ。
あいつ等が遠ざかるまでここで隠れているといいわ。ここなら安全よ。』
そこに居たのは美しい茶トラの雌猫だった。




