第48話
「オズ兄貴、今日はラッキーでしたね」
小柄で肉付きのいい体格の男がニコニコ笑いながら話しかける。
「おう。あんな荷物を捨てるだけでまさか金貨が手に入るとは思ってもいなかったな。
今夜はニーナの店で飲み放題だぜ。」
オズと呼ばれた兄貴株の男は背が高く、細くてヒョロ長い感じである。頬もこけて目も鋭い。
「オズ兄貴がご執心のニーナはいい女っすからねぇ。」
男たちはそんな話をしながらゴミ処分場で荷物を降ろしていた。
山に捨てる様に命じられた荷物だけを残してすべてを降ろし終えたオズはふと中身が気になった。
「おいバース、あれの中身はいったいなんだろうな。」
「さあねぇ?ずっしりと重かったっすけど・・・・・
しっかりとカバーがされてるので中身までは確認してないっすけどね。」
小柄なバースは、ちょっと背伸びしながら馬車の荷台にいるオズの様子を覗いてみた。
「神官がまさかヤバい物なんて頼む訳はないけどよ。
ちょっと見てみないか?」
オズは好奇心に駆られて中身を覗く為にカバーを丁寧にはずした。
中身はもちろん檻に入れられたミーアであるる
「な~んだ・・・猫じゃねえか。ずっしりと重かったのはこの檻だな。」
「でもオズ兄貴、ここまで真っ黒な猫はちょっと見たことないっすよ。」
バースも身を乗り出してミーアを見ている
「使い魔用の猫かな?それとも、既に契約済みの使い魔なのか?」
オズは檻の中のミーアを覗き込むようにしながら聞いた。
「そんなの誰にも判断つきませんって・・・・
あ、でも囚人の使い魔はこうやって檻に入れて引き離すってのは聞いた事がありますぜ。」
「おそらく、それに違いねえだろうな。でもよ・・・誰にも判断つかないんだろ?
だったら売っちまっても分かりゃしねえんじゃないか?」
「オズ兄貴はあったまいいなぁ。こいつなら高値で売れますぜ。
それでオズ兄貴はニーナに綺麗なドレスのひとつも買ってやれば、今日こそは色よい返事が貰えますぜ。」
「そ・・そうだな。お前も女房に何か買ってやれんじゃねえかよ。」
二人は鼻の下をのばしてそんな悪巧みを企てた。
「後日使い魔だとバレたとしても俺達はその時にゃトンズラして後の祭りってやつですしね。」
オズとバースはその足で近くのペットショップに行き、大枚を手に入れたのであった。
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まんじりともしない夜を誰も寝る事もなく過ごした。
アルクとルドルフはその夜は各自の部屋へ戻ろうともせず、そのままアルバートの住居の居間で一夜を明かしたのであった。
早朝になって白ねずみのパルスが戻ってきた。
後ろにもう一匹灰色のねずみを伴っている。
「パルスー!帰ってきたー!
待ってたんだぞー!」
『これでも大急ぎで帰ってきたんだ。城中の鼠を総動員してたんだからな。
まあ俺の仲間に任せれば、どんな情報だって手に入れられるってもんだぜ。』
パルスは小さな体で胸を張って自慢した。
『そんな自慢など、どうでもいいから早く報告しなさいよ』
サリーのひと睨みでビクッと体を強張らせたパルスであった。
『そ・・そうだった。俺の調べでは、もうミーアは城内には居ないな。
城中の鼠に聞いてみたが、そんな猫の姿は見かけた事もないらしい。』
『なんだ・・・それじゃあアルクの部下達と同じじゃないか。』
俺は不満を漏らした。
『早まるなよ。ここからが俺たちの情報網のすごいとこなんだからさ。
それでもっと範囲を広げて探してみたらさ良い情報が入ったんだ。』
パルスは灰色の鼠を、前に押し出す様に背中を押した。
灰色の鼠はブルブルと怯えていた。
『やだよー。約束が違うじゃないか・・・・
こんな怖いところなら来るんじなかったよぉ。』
『大丈夫だよ。絶対に食わないって約束してくれたんだからさ。
さっき俺にした話をもう一度話してくれよ。』
パルスは怖がって丸くなった灰色の鼠を説得していた。
『良い情報を持って来た鼠なら食わないとは言ったけど・・・・
ただ震えてるだけの用無しの鼠なら、その手足を引きちぎってやってもいいのよ。』
どうやらサリーはかなり気が短いようだ。
今後の付き合いもあるなら覚えていた方がいい情報だと俺は思った。
『ひぇ~~っ! い・・言いますとも。はいすぐに。』
灰色のねずみは直立不動で話し始めた。
『俺は神殿の調理場の天井裏をねぐらにしているんだ。
夕方になるといつも裏木戸を出た所に止まってる馬車の荷台へ行くんだよ。
なぜかって言うと、その日の残飯をいつもその馬車の荷台に積み込むのを知ってるからさ。
それで昨日も俺は馬車の荷台で積み込まれた残飯を漁っていたという訳さ。
俺はもう腹いっぱいになって、そろそろ戻ろうとした時だったんだ。
一番最後に運び込まれた荷物からさぁ・・・・・猫の匂いがぷんぷんしてきたんだ。
俺は驚いたよ。そりゃ~もうビビったぜ。
あわてて馬車を飛び降りたもんで前歯を折っちまったんだ。』
「神殿だって?・・・まさか神官が関係しているというのか?」
ルドルフが驚いて立ち上がった。
「私も驚きですが、昨日は確かに神殿までは捜索はしておりません」
アルクはルドルフに向かって報告をする。
『それで、その猫は黒猫で首に赤いリボンを付けていたか?』
俺は確認するように灰色の鼠に聞いた。
『まさか・・・。俺が確認なんか出来る訳ないだろ。
その荷物はしっかりカバーがされて中身は見えなかったが、あれは猫の匂いに間違いはないぜ。』
灰色の鼠は話終わってほっとした様にパルスの背に隠れた。
『匂いしか確認は出来なかったが、俺達は猫の匂いには特に敏感なんだ。
間違うなんてありえない。それに今までその馬車には猫が乗り込んだ事なんてないんだ。』
パルスが続けた。
『城内から出た業者の馬車も何台かはあったけどそんな匂いはなかったそうなんだ。』
「まずいな・・・城外に連れ出されたとなると捜索はやっかいな事になりますね」
アルクの表情が曇る。
「でもでも、それがミーアだって決まった訳ではないんでしょ?」
ルーチェはルドルフの顔色を窺がうように聞いた。
「決まった訳ではないが、可能性は極めて高いな・・・」
ルドルフの表情もやはり暗く厳しいものであった。
「ミーアがひどい目にあっていませんように・・・・」
ケイトは両手を合わせて祈った。
確かにミーアは使い魔なので死ぬ事こそないが、暴力を受ければ痛みは感じる。
食べ物を与えられなければ飢えも感じるのだ。
ケイトが心配するのも無理のない事であった。




