第43話
「鬼よ! 鬼! ルドったら本当にありえないわ!」
夕食時になって、ようやく解放されて戻ってきたルーチェだった。
かなりひどい目にあったようだ。
出迎えたアルクとケイトは、ボロ雑巾の様にぐったりとなってルドルフの腕にぶら下がってるルーチェを見て呆れていた。
「だ・・大丈夫?」
ケイトは心配そうにルーチェの顔を覗き込んだ。
アルクは苦笑いをして困った顔をした。
「もうダメ・・・体がバラバラになりそうよ。」
『俺も、もうダメだ。節々が痛いぜ。』
俺とルーチェはもうふらふらだった。
食事も取らずにベットに倒れこんだのであった。
アルクは一旦ルドルフと戻っていった。
もちろんキースは置いたままだ。
その夜、俺は夢を見た。
もうすっかり忘れていた遠い遠い昔の夢だ。
それはどこかの建物の軒下だ。
薄暗いが俺の周りは木屑や藁で暖かい。
立てかけた板の隙間から光が少し入ってくる。
一匹・・・二匹・・・三匹・・そう確か、俺の兄弟は三匹だ。
俺を含めると四匹の子猫がそこに体を寄せ合っていた。
茶トラとハチワレと・・・キジだ。
俺達は腹ぺこだった。
もう何日も母猫が帰ってこなかったからだ。
なぜ帰って来なかったのか、なんて俺らにはわからない。
単に育児放棄だったのか、それとも事故にでも遭ったのか・・・
それでも俺達は待ってたんだ。
一番小さく弱かったキジの奴が動かなくなるまで。
「お兄ちゃん、キジが動かないわ。」
茶トラがそう言うので、俺達は皆でキジを舐めたんだ。
でもキジは動かない。目も開けなかった。
眠ってるんじゃないのに・・・なぜかわからないが、とても不安な気持ちになった。
「母さんを探しにいこう。」
俺はそう言った。
「ここから出ちゃダメだって母さんが言ってたよ。」
ハチワレが言う。
「そうよ。外はとっても怖いところだからって母さんが言ってたわ。」
茶トラもそう言いながら後ずさる。
「じぁいいよ。俺が探してくる。」
俺は板の隙間から飛び出した。
外は明るく、眩しかった。
右も左も分からぬまま、俺が恐る恐る前へ踏み出すと後ろから声がした。
「お兄ちゃーん、待ってー!」
茶トラとハチワレだ。
茶トラはまだ足がヨロヨロとしている。
俺を追って出てきたのだ。
もう空腹も限界をむかえていたのだからしかたない。
俺たちは当てもなく母猫を探してウロウロとしていた。
一番先に目が開いて足もしっかりしていた俺がかなり前を歩いていた。、
何か食べれる物がないか、そこらをキョロキョロと見回っていた時だ。
がうぅぅぅ・・・・・。
大きな茶色い化け物が牙をむいて俺たちの前に立ちふさがった。
目が血走って、よだれを垂らした山犬だ。
茶トラとハチワレは恐ろしさのあまり、うずくまってしまった。
山犬はゆっくりと二匹に近づいていく。
危ない!
俺は勇気を振り絞って二匹の側に駆け寄った。
山犬は茶トラに向かってその牙を振り下ろそうと顔を近づけた。
俺はその鼻先を思い切りひっかいてやった。
キャイン!
山犬は一瞬その痛みに怯んで後ずさった。
逃げろー!
そう叫んで俺は走った。
がうぅぅぅ・・・・・
山犬は俺を追いかけてきた。
するりとかわして俺は側にあった馬車の車輪の隙間を抜けた。
ポタリポタリ・・・と血が落ちる。
山犬をひっかいた時、その前足で振り払われた時の傷だ。
俺のわき腹は大きく裂けていた。
それでも俺は走った。
木々の間をすり抜け、隙間をくぐって懸命に走った。
血の匂いを追って、山犬は執拗に付けてくる。
どこをどれだけ走ったか、覚えてはいない。
目の前に見えたのは大きな倒木だ。
土がえぐられその下に隙間が見えた。
山犬はすぐ後ろに迫っていた。
俺はその中に飛び込んだ。
中は思ったより奥行きがあった。
山犬は前足で土を掘り、入り口にその長い口先を突っ込んでくる。
鋭い牙と赤い舌が俺の目前に迫る。
俺は一番奥に身を寄せてその恐怖に耐えていた。
山犬はしつこく諦めようとしない。
俺はそのまま意識を失った。
どれくらい時間が経ったのだろう。
その痛みで目が覚めた。
腹が痛い。そして喉が渇いていた。
茶トラとハチワレ・・・あいつらは無事だろうか。
山犬の姿はもう無かった。やっと諦めたらしい。
あたりは薄暗く月の光が辺りを照らしていた。
月が美しかった。
その光はなぜか暖かく俺を包んでくれた。
俺はそのままずっと月を見続けていた。




