第42話
それは豪華な昼食であった。
長テーブルにズラッと並べられた数々の料理たち。
そのひとつひとつが見たこともない高級な食材であった。
すごいボリュームのその料理はいったい何人分であろうか?
何かのパーティでも催されるのだろうか・・・・
だが、その大きな長テーブルの席についたのは二人だけであった。
給仕がそれらを取り分けてルーチェの目の前に置いてくれる。
「これって・・・今日は特別なお祝いか何かなの?」
ルーチェは目の前のごちそうにがっつきながら聞いた。
「お祝いって?」
ルドルフは優雅にスープを飲みながら聞き返す。
「だって、こんなに豪華なお料理がいっぱーい!」
ルドルフは周りを見回すが、これといった変化は見つけられなかった。
「いつもと変わらないが・・・・・」
そう言ったルドルフの横顔をルーチェはじっと見ていた。
こんな豪華な料理をこの広いテーブルで1人で座って食事をするって・・・・
この人はいつもこんな生活をしていたのだろうか?
なんだか寂しいな。ルーチェはそう思った。
この広い部屋で料理が豪華であるほど、ポツンと1人である事がなおさら寂しさが増す気がした。
たとえ質素であってもいつも誰かと一緒にわいわい食事をする。
それがいかに幸せな事であるのかをルーチェは気づいた。
「ところで、どうしてそのサビ猫を使い魔に選んだりしたんだ?」
いつの間にかそんな考えにふけっていたルーチェは突然のルドルフの問いかけに顔を上げた。
「タオを見つけた時はね。一刻を争う状態だったのよ。
たとえ治療魔法を施したとしても、とても助かるようには見えなかったわ。
もう冷たくなりかけてたの。それで私は思いついたのよ。
使い魔にすれば、その生命力で助けられるってね」
そうだったのか・・・俺は知らなかった。
幼かった俺が気づいたときは、もうルーチェの使い魔だったからだ。
けっして選ばれた訳じゃなかったんだ。
動物好きなルーチェの事だ。
死にかけた子猫を見つけたら、見捨てる事などできないだろう。
ルーチェはそういう性格だ。
そんな事は分かりきってるはずさ。
だけど、なんだか俺は情けない気持ちになった。
そうだろうな。そんな事でもなきゃ俺みたいなサビ猫が使い魔になんかなれる訳ないさ。
だれが好き好んでこんなべっこう柄なんか選ぶもんか。
「たったそれだけの理由でその猫を使い魔にしたというのか。」
「だって私はたいした魔女でもないし、両親は普通の人だし、日常の生活に不便がない程度で十分だわ。」
ルドルフの言葉に反発するようにルーチェは言う。
「そういう訳にはいかないよ。至高の魔女には使命がある。」
「だ・か・ら! 私が至高の魔女なんかであるはずないでしょ!」
ルドルフに向かって指をピンと立てて、言い聞かせる様にルーチェが言う。
「だが、あのタジンが認めたのだから間違いはあるまい。」
「誰が認めようとも、違うものはしかたがないわ。」
拗ねたようにプイッと横を向くルーチェであった。
「そうだな。そんな事はどっちでもいいか。
どっちにしても今のままじゃダメだ。魔力の使い方がまったくなってない。
食べ終わったら、続きをやるぞ。」
「え~っ! だって、さっき成功したじゃない!」
「もっと成功率を上げるんだ!」
「ええ~~~っ!」
ルーチェはテーブルに突っ伏した。
「いやだ~!もうちょっと休ませて~!」
嫌がって抵抗するルーチェの言葉は完全に無視された。
ルドルフはルーチェの腕を掴むとやっぱりさっきの菜園に瞬間移動したのであった。
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ことごとく爆発したかぼちゃの屑の山の中でルーチェは思った。
どう考えても、さっきのタジンの言葉はありえない。
そもそも至高の魔女様が、こんなかぼちゃ相手に悪戦苦闘を繰り返すはずもない。
私に女神の降臨などあろうはずもない事だ。
はっきり違うと言える理由なら山ほどある。
自慢じゃないけど、今まで使った魔法はことごとく失敗しているのだ。
ルーチェの出来る魔法といえば、軽い怪我程度の治癒と作物の実りをほんのちょっと良くする程度のものだ。
それすらもタオの力を借りてのこと。
それくらいなら、ちょっと優秀な魔力の使い手なら使い魔などなくても出来てしまうだろう。
学園で学ぶ生活に便利なちょっとした小技ですら、まともに成功しないのである。
どこをどう間違えばそんな誤解が生じるのだろう。
そんな可能性を欠片ほども思いつくなら教えて欲しいくらいだ。
「おい。かぼちゃはまだまだ沢山あるんだ。
考え事をしてたら日が暮れてしまうぞ。」
後ろから容赦ないルドルフの声がした。
「え・・・? まさか・・これ全部ですか?」
「当然だ。その為に用意したんだからな。」
どこまでも非情なルドルフの答えであった。
「うっそ~!ひぃ~!」
ボフッ!
ボフッ!
いつまでもその鈍い響きは続いた・・・・・




