第40話
アルバートの住居にほど近いテラスの一角で、一匹の白鳩が羽を休めていた。
中庭を見渡せる場所に設置されたベンチには青年が1人優雅に座っていた。
以前ルーチャがかぼちゃだらけにしてしまったテラスだ。
今は係りの者がきれいに掃除したのか、元の美しい姿をとりもどし、落ち着いた憩いの場となっている。
「ちっ・・・警備が固いな」
『キースがあのように側にいたのでは、うかつに近寄れない』
「まあよい。いずれチャンスはある」
青年は手にした袋から豆を取り出しその足元にばら撒いた。
白鳩はそれを嬉しそうに啄ばむ。
通りがかりの者がたとえ目にしたとしても、別に怪しむ事もないだろう。
誰が見てもそれはどこかの公園などでもよく見かける姿であった。
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ここは皇居の中庭にある庭園である。
よく手入れされた美しい花々が咲き誇っていた。
だがその美しい花々を愛でることが出来るのは、限られた者だけであった。
皇居に住む皇族たちとその皇族を訪れるわずかな客人達である。
ボフッ!
ボフッ!
そんな庭園の片隅で、かぼちゃが爆発する鈍い音だけが響いていた。
もうかなりの時間をルーチェはかぼちゃと戦っていた。
いくつのかぼちゃが犠牲になったことだろう。
それでも山ほど積まれたかぼちゃの量は減ったようにも見えない。
ルーチェは恨めしそうにチラッとルドルフを見るが、当の本人は涼しい顔をして腕組みをしたままずっとこちらを見ている。
「こ・・・これって・・・牢ではなかったけど、罰?」
『ルシア先生の罰より、数段きついぜ!』
ボフッ!
今回はルドルフが防御魔法を施してくれたのでかぼちゃが体に付く事はなかった。
「思う存分やるといい。無駄にはならないさ。
いい肥料になるだろう。」
ルドルフはそう言ったが適量なら肥料にもなるだろうが・・・
こんなに積もるほどとなると本当に肥料になるのかどうか、はなはだ疑わしいもんだ。
今度は趣味でやってるとか言う宮中専属のシェフに怒られはしないかと俺は心配だ。
ボフッ!
こうして長くやってみて、俺は気づいたのだが、このカボチャの魔法はなかなか微妙な調整を必要とする魔法だった。
魔力が多すぎても爆発する。もちろん少なすぎても爆発するのだった。
つまりジャストサイズの魔力でないと成功はしないのだ。
それにはルーチェと俺の呼吸がぴったりと合わないことには難しいものだった。
ボフッ!
今まで俺もルーチェも自由奔放にやっていたので、こういった訓練は初めてである。
ルーチェの方もそれが分かりかけてきたようだった。
ようやく俺たちは成功への糸口を見つけた気がしていた。
その時、ルドルフの背に近づいてきた人影に俺は気づいた。
ずいぶんと高級そうな金糸が施された祭服を来た老人だった。
6人もの神官を引き連れているのだから、ずいぶんと偉い人なんだろう。
一旦は作業を停止してそちらを振り返った俺とルーチェだったが・・・・・
「そのまま続けて。」
ルドルフの指示に従って、あわててルーチェはかぼちゃに向かった。
ボフッ!
まあ、どっちにしても知らない人だし、俺達には関係ないか・・・・
「陛下に呼ばれてこちらへ参りましたが、なにやら音がするので来てみれば殿下でしたか・・・・
これは・・・何をしておられるのかな?」
「タジンか。」
ルドルフに声を掛けてきたのは最高神官長のタジンである。
かなりの老齢ではあるが、かくしゃくとしてその背筋もピンと伸びて年齢を感じさせない。
魔力の事に関しては、かなりの知識人でルドルフも幼い頃はこのタジンに教えを受けていたのである。
その表情は穏やかでいかにもやさしそうである。
「もしや・・ようやく見つける事ができたのですかな?」
「いや。まだなにも判らないんだ。
なんの確証も得られないんだが、使えそうな気はしてる。」
「ふむ。このじいも少し見ていてもいいですかな?」
タジンはかぼちゃと格闘している少女と、その側で毛を逆立てる使い魔であろう猫を見つめた。
あの猫が使い魔? これはめずらしい・・・・
ボフッ!
これは・・・! 何かに気づいたのかタジンはそのべっこう柄の猫をくいいる様に見る。
ボフッ!
ボフッ!
次々とかぼちゃは爆発し、散乱する。
さっきまで穏やかにその顔に笑みを浮かべていたタジンが真剣な厳しい表情に変わった。
ルーチェは次のかぼちゃを用意すると、次こそはと意気込んで呪文を唱える。
俺はルーチェが発する魔力が一定のものに定まってきているのを感じていた。
俺も毛を逆立て次に発せられる魔力を待つ。
かぼちゃはさっきと同じ様に膨らんでは縮みとその息遣いを繰り返す。
すると、突然その菜園の真ん中に馬車が現れたのであった。
形はずいぶんと歪であった・・・・・
俺とルーチェは顔を見合わせた。
「やったぁー!」
ルーチェは大声で叫んだ。
ついに、かぼちゃは馬車へと変身したのであった。




