第39話
一瞬にして目の前が真っ白になったかと思えば、ルーチェと俺はなんだかとても開けた場所に立っていた。
なんだか体がふわふわして、眩暈もしている。
しばらくは何が起こったのか、把握できない俺とルーチェだった。
ルーチェも俺も瞬間移動は初めてであった。
瞬間移動は、とても多くの魔力を使うのである。
ルドルフやアルクにとっては、難なく使える魔法ではあるが普通はそうはいかない。
そもそも瞬間移動が使えるほどの魔力を持つ者は少ない。
瞬間移動が使えたとしても魔力の量によってその回数や距離も制限されてくるのだ。
そこそこ魔力を持つ者でも通常は自分1人が1日に一度使える程度のものである。
アルバートもその1人で一応、瞬間移動は使えるがその消耗は激しく、よほどの時でない限りは使いはしない。
それを日に何度も、しかも自分以外の者まで瞬間移動させるだけの魔力の持ち主ともなると、皇族くらいのものだろう。
さすがのアルクであっても日に何度もの瞬間移動は出来ても自分以外の人を連れての移動はできないのだ。
自分で瞬間移動の出来ないルーチェとタオが初めてであるのは無理のない事だったのだ。
ルーチェの腕はルドルフに掴まれたままであった。
ルドルフはそのままスタスタと歩いていく。
ルーチェは引っ張られるようにルドルフに付いて歩くが足元はふらふらしていた。
まだ頭がくらくらしている俺もあわてて後を追った。
ルドルフは普通に歩いているのであるが、歩幅が違うのでルーチェはほとんど小走りであった。
「こ・・ここはどこ? どこへ連れて行こうっていうの? 」
『まさか、罪人として牢屋にでも入れられるんじゃないだろうな?』
「え・・え~っ! 牢ですって? いやだぁ~!」
ルーチェは掴まれている腕を必死で振り解こうとした。
「牢?・・・よく見ろ。ここに牢屋などある訳がないだろう。」
ルドルフは立ち止まって暴れるルーチェを落ち着かせようとした。
しまった。つい、いつもの調子で行動してしまった。
ルーチェの事を思いやれなかった事にルドルフは少し落ち込んだ。
視界がはっきりしてくるにしたがって、そこはどうやら大きな庭園のようであった。
よく手入れされた綺麗な花々が咲き誇っていた。
「綺麗~!」
ルーチェが目を輝かせた。
思わず花の方に誘われるように近づく。
「ここは皇居の中庭だ。気に入ったか?」
中庭というには広すぎるほどであった。
ルーチェの住んでる学園の敷地が丸ごと入ってしまうほどだ。
季節の花々がすべてここに集結したのではないかと思わせるほどの豪華さである。
もちろん、気に入りましたとも!
ルーチェはうんうんと頷いた。
「そうか。それはよかった。
これから少し付き合って欲しいんだが・・・・」
ルーチェは大きい目を、もっと見開いた。
付き合って欲しいって・・・付き合って欲しいって・・・・
こ・・これはもしかして・・・デートのお誘い?
それにしてはルドルフの顔はあいかわらず、気難しそうである。
少しは昨日の様に微笑んでくれればいいのに・・・
そう言えば今日のルドルフはまだ笑顔を見せた事はなかった。
ルドルフ自身もそれには気づいてもいないだろう。
「こっちだ。」
ルドルフはそう言って、さっきと同じ様にルーチェの腕を掴んで歩き出す。
今度は、さっきよりかなりゆっくりと歩いている。
綺麗な花々を通り過ぎてどんどんと歩いていく。
そうして庭園の片隅にルーチェを連れて行った。
もう綺麗で豪華な花たちはかなり遠くなってしまった。
そしてここに植えられている物は、さっきとは打って変わって実用的な野菜たちであった。
「ここは宮廷専属のシェフが趣味で作ってる菜園なんだ。」
ルドルフの説明など無くても、ここに植えられている野菜たちならルーチェにもよく馴染みのある物だ。
「ここなら大丈夫だ。存分にやっていい。
あれを見てごらん」
ルーチェはルドルフの指差す方向を見た
そこには、かぼちゃが山ほど積まれていたのであった。
「げっ! かぼちゃ・・・」
思わずルーチェが叫んだ。
俺は逃げたくなった。
どうやらデートのお誘いではなかった様である。




