第3話
丹念な毛づくろいもようやく終わりかけた頃、音もなく近づいて来た奴がいた。
黒猫のミーアだ。
首には高級そうな赤いリボンを付けている。
なにかと血統書付きなのを自慢するお高く止まった嫌なメス猫だ。
俺はこいつが苦手だ。
いつもなんだかんだといちゃもんをつけてくる。
おれより1年ほど早く生まれたらしいが子猫の頃はよくいじめられた。
理由は「嫌いだから」らしい。
今じゃ俺のほうがでかいので、そうそういじめられる事はない。
雄と雌との体格差というやつさ。
それでも猫パンチやひっかいたり、追いかけられたりという直接的ないじめははなくなったものの嫌味や皮肉といった類の言葉の暴力はあいかわらずだ。
俺の近くまできてブルブルっとその身を震わせる。
せっかく綺麗に毛づくろいしたばかりの俺の体にまたカボチャのくずが飛び散った。
こういう無神経なところがムカつくんだ。
「もっと離れたことろでやれよ」
「わざとよ。決まってるでしょ。そもそも誰のおかげでこんなことになったと思ってるの。
昨日お風呂でシャンプーしてもらったばかりだというのにとんだとばっちりよ。」
またお得意の嫌味がはじまった。
「ほんとにルーチェはできそこないよ。
もっとも、どこの馬の骨ともわからないタオなんかを選んだ時点で先がしれてるとは思ったけれどね。」
ミーアは俺の隣で入念に毛づくろいを始めながら更に続ける。
「そのきたない毛色をよく選んだもんだわ。
ルーチェは魔女としての自覚が足りないって証拠でもあるわね。
それに比べて私のこの漆黒の美しい毛並みを見て。
これこそが選ばれるべき資格なのよ。」
ツンと横を向き自慢げにポーズをとるが・・・・
頭に特大のカボチャの欠片が付いていることは教えてやらない。
自慢の漆黒の毛並みも台無しだな。
赤いリボンと額のカボチャの欠片がお似合いだぜ。
俺はさっさと場所を移動する。
こいつの嫌味と自慢は延々と続くのだ。
とてもつきあっちゃいられねぇ。
ポカポカ陽気と風が気持ちいい。
どこか昼寝の場所でも探すとするか。
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『タオ 戻っておいで』
ルーチェがテレパシーで俺を呼んだ。
ピクリと耳が反応して、俺が目をさますともう日はだいぶ傾いていた。
風も強くなってきている。
2時間ほど寝ていたのだろうか。
俺はあくびをしながら起き上がると、大きく屈伸した。
勢い良く走って加速をつけて大きくジャンプするとくるりと回転して地面へ着地した。
そしてルーチェの元にまっしぐらだ。