第32話
セーラさんがうやうやしくドアを開けた。
とたんにバタバタという羽音と共にサリーがスィーと部屋に飛び込んで来た。
一瞬驚いたセーラさんとアルバートさんは一歩後ずさったがそのまま深くお辞儀した。
サリーを見たとたんルーチェはハッとした。
あの鷹はっ!
そしてドアの外にその姿を発見したルーチェの行動は早かった。
あわてて飛び出し、その後ろ手でドアを閉めたのだった。
「出迎えご苦労。私はルド・・・・」
そこまで言ったルドルフの目の前でドアは閉められた。
こんな扱いはルドルフにとって生まれて初めて・・・・ではなかった。
つい最近も経験した事であった。
「・・・・・・・」
隣にいたアルクは絶句した。
「ルド! こんな時に来てはダメよ!
これから大切なお客様が来るのよ。最悪のタイミングだわ!」
ルーチェはそう言いながらルドルフの向きを変え、背中を押す。
「えっ・・・他に誰か客人でも?」
ルドルフはアルクと目を合わせた。
アルクはきょとんとして首を振った。
「それにセーラさんがルドが来たらとっちめてやるってすごく怒ってるのよ。
早く逃げて!」
ルーチェはなおもぐいぐいと背を押す。
だがビクとも動かない。
「アルクさんも早く!」
そう言ってルーチェがアルクの方に向き直った時・・・・
動転していたルーチェはキースの事をすっかり忘れていたのであった。
ぐがぁるる・・・・・・・
アルクの横にはキースがいたのであった。
不審な動きをするルーチェに主を守ろうとするキースは、鋭い牙を剥き出して今にも跳びかからんばかりだった。
「ひぃーーーーっ!」
全身総毛だったルーチェはまるで高い木によじ登るかの様にルドルフに飛びついた。
「ルドルフ殿下、何事か・・・・?」
再びドアが開かれ、そう声をかけたアルバートがそこに見たものとは・・・・
まるで子供の様にルドルフの首に腕を回してベッタリとすがりついて抱かれているルーチェ。
真っ赤な顔をしてそのまま立ちつくすルドルフ殿下・・・・
それを側でポカーンと口を開けたまま見ているアルクの三人の姿であった。
「こ・・これはいったい・・・」
「ま・・んまあああ・・・どういうことでしょうか・・」
オロオロとするセーラさんとアルバートさんだった。
ルドルフはルーチェをその手に抱いたままスタスタと入ってきた。
我に返ったアルクがあわてて後を付いて来た。
「・・・どうやら、私をなんらかの危険から守ろうとしてくれたらしい。」
ルドルフはそう言いながらチラっとセーラさんを見た。
「そ・・そんなめっそうもない! そんなおこがましい事、とんでもございません。」
セーラさんはしきりに畏まって小さくなった。
どうやらドアの外の会話はまる聞こえだったらしい。
「殿下・・・この様なご無礼・・誠になんと言っていいやら・・・」
アルバートさんも同じ様に畏まっていたが、この難局をどう切り抜ければいいのかと必死のようだ。
『ルーチェ・・・ルドって皇太子殿下だったのか?』
「へ?・・・皇太子殿下って・・・」
俺の問いかけにルーチェはきょとんとした顔で呟いた。
「私がルドルフだ。 初めてちゃんと名前が言えたな・・・」
ルドルフはルーチェと目を合わせてにっこりと微笑んだ。
とたんにその整った無表情で気難しそうな顔は、ひとなつっこい表情に変わった。
「ル・・ル・・ルド・・ルド・・ルドル・・・フ・・で・・殿下!」
驚きと戸惑いでルーチェは噛みまくった。
「ルドでいい。お前にはその名で呼ぶ事を許そう。」
ルドルフはそう言ったが、ルーチェは今自分がどういう状況にあるのかを初めて気づいた様だった。
首に回した腕をゆっくりとほどき、降りようとした。
だがルドルフはそれを許さなかった。
もう一度しっかり抱き上げると、そのまま用意された椅子に腰掛けたのであった。
アルバートさんは、殿下が真っ赤な顔をしていたのは怒りからではなかった事を悟った。
とりあえず内心ホッとして胸を撫で下ろしたのであった。




