第30話
赤い星はこの世界の破滅を意味するものだ。
それは過去に何度も繰り返されているのだった。
赤い星とは星が消滅する最後の姿である。
その星が消滅する事により、宇宙の引力のバランスが崩れるのだ。
その時、この世界では常に輝く太陽である双子星に影響が現れるのである。
常に一定の距離を保って移動している双子星が引力のバランスが崩れたことにより一時的に重なってしまう瞬間が訪れるのである。
その時、何が起こったのかは解明はされてはいない。
だが、確かにその時代に繁栄していた文明は滅びているのである。
それでも人類の力は偉大である。
わずかに生き残った人々はまた新たな文明を築いていくのであった。
そんな歴史を繰り返してきたこの世界では赤い星は不吉の前兆なのである。
人々が恐れ、とてつもない不安に怯えるのも無理のない事であった。
だがしかし、前回だけは違った。
赤い星は現れたが破滅には至らなかったのだ。
巨大な力を持つ至高の魔女が現れ、その偉大な魔力を以て破滅からこの世界を救ったからだ。
それゆえ、この文明はその後1000年以上も繁栄を極め今に至っているのだった。
今回も至高の魔女は現れるのか?
魔女なのか、それとも魔法使いなのか?
それは誰にも分からなかった。
どんな破滅が訪れるのか、それはいつ訪れるのか?
それすらも分からなかった。
教会にわずかな文献が残ってはいるが、すべて古代語であった。
各地の遺跡にもその時の様子が記されてはいるが、そのほとんどは長い年月により腐敗と崩壊で一部が残っているだけだ。
専門家があつまり、その解明を日々研究しているが、なかなかその成果は上がっていない。
こうして赤い星が現れてからおよそ15年もの月日が費やされているのである。
ルドルフの父である皇帝サミエルは、本来なら成人した皇子に政務を手伝って貰いたいところではあるが、壮年とはいえまだまだ働き盛りでもある。
政務の全てを一身に引き受け、世界の存亡を息子であるルドルフに託したのである。
そんな訳でルドルフが成長してからはずっと、至高の魔女の捜索と、その伝説の解明に陣頭指揮を執って携わっているのだった。
本当に至高の魔女が存在しているのかどうか、もし存在するのであればたとえ幼子であったとしてもその魔力は強大なものであるに違いない。
各地に有能な聖職者を配置したのは、どこかでその魔力が使われた痕跡がないかを察知する為だった。
ルドルフ自身もその察知能力は強大である。
もしこの世界のどこかで大きな魔力が使われたなら誰かが必ず察知できるはずであった。
それにもかかわらず、この15年それらしき魔力が使われた影跡は微塵もなかったのだ。
突然あの東の森が忽然と消えるまでは・・・・・
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ケイトが戻って来る!
その吉報がルーチェに知らされたのはまだ早朝の事だった。
その日も昨日までと同じ様に療養所に行くつもりで早めの朝食を取っていた時だ。
その知らせは丁度その時に朝帰りしてきたアルバートさんからだった。
「昨夜はすまなかったね。またもや仕事に没頭してしまって、すっかり時間を忘れてしまってたよ。」
「俺の食事も忘れられてたんだぞー! はらぺこだー!」
「それでね、ここに帰る前にちょっとケイトの様子を見に療養所に寄ってきたんだよ。」
「ケイトはやさしいんだぞー! 俺にバララッキー・・・あれ? バラララターだっけ?
そいつを食べさせてくれたんだぞー!」
いちいち会話に口を挟むカラスだった。
『バララッタよ! このばかカラス!
あんたが口を挟むからちっとも話が進まないじゃないのっ!
ちょっとは黙ってなさいよ』
ケイトの様子が知りたいミーアはじゃまをするカラスに噛み付いた。
前足でカラスを押さえつける。
「痛てててー・・・ごめんよー!
もう話さないから許してー!」
バタバタと羽を広げて暴れている。
ようやく逃れて上空へと逃げた。
ミーアは全神経をカラスに向けて睨んでいた。
カラスは今日もいい仕事をしてくれる奴だった。
「ケイトは昨日の午後あたりからはすっかり熱が下がったようだよ。
それでまだ完璧ではないんだが、療養所での治療はもう終了だそうだ。
あとは自宅療養で、時間が経てば自然と良くなるってことらしいよ。」
アルバートさんはカラスに治療魔法を施しながらそう言った。
「よかったぁー! じゃあすぐに帰ってくるの?」
ルーチェは手を胸に当て喜んだ。
ミーアはしっぽをビンビン振っていた。
「いや、午前中は最終検査があるので、ここへ戻って来るのは午後になると思うよ。」
「そっかぁ。じゃ午前中は行っても検査で会えないのね・・・・」
「そうだね。戻ってくるまでここで待ってるほうがいいだろうね。」
少しがっかりしたルーチェではあったが、それでも午後にはケイトは帰ってくるんだと思い直すことにした。
「食わないって言ったクセにー!・・・・嘘つきー!・・・」
話さないと約束したはずのカラスが小さな声でブツブツと文句を言う。
『食わないとは言ったけど、噛まないとは一言も言っていないわ』
ミーアは捨て台詞を言うとゴロンと横になり、毛づくろいを始めた。
そうだぞカラス。ミーアはひっかかないとも一言も言ってない。
ミーアの爪はいつだって完璧なまでに研がれているんだ。
せいぜい気をつける事だな。
そう思いながら俺は子猫の頃を思い出して身震いした。




