第2話
ここは帝都から遥か東に位置する小さな村だ。村の中にある唯一の魔法学園なのである。
木造でかなり旧式な作りなのではあるが、誰も不便を感じることはない。
なぜなら、教師から生徒に至るまで全員が魔法使いなのだから温度管理や照明など、設備などなくてもすべて自分で快適な環境を作れるのだから。
窓から飛び出した俺はするりと雨どいを伝って日当たりのいい屋根の上へ着地した。
ここは俺のお気に入りだ。
学園の全体も見渡せるし、かなり高い丘の上に位置する為、村全体さえも見渡せる。
展望は最高だ。なによりポカポカと気持ちがいい。
体のあちこちに付いているカボチャをブルブルとゆすってあらかた落としたところで、ここでゆっくり毛づくろいだ。
このところルーチェの魔法は失敗続きである。
前回は毒りんごを作るというものだったが、出来上がったのは焼きりんごだった。
意地になったルーチェは次々と挑戦したが、結果出来上がったのは大量の焼きりんごの山だったのである。
しかたなく周りの者に配ったのだが、大変喜ばれた。
りんごも皆においしく頂いてもらって、りんごに生まれて本来の目的を遂げられりんご冥利につきるというものだろう。
そして誰ひとり腹痛すら起こさなかったのだから、わずかな毒も作れなかったという証明でもある。
こうしてルーチェは今ではすっかり周りからできそこない魔女と認識されているのだった。
でも俺は知っている。
ルーチェはけっしてできそこないなんかじゃない。
原因は俺にあるってことを・・・・・
通常魔女は10歳の誕生日を過ぎれば使い魔との契約が可能になる。
光の魔法を使う者は白い生き物、白鳩、白蛇、白猫、白犬等・・・・
ルーチェのように闇の魔法を使う者は黒い生き物、蝙蝠や烏、黒猫や黒犬などさまざまだ。
それぞれの特色をより象徴する色の生き物がよいとされている。
使い魔の役目はいろいろあるんだ。
使いっ走りはもちろんだが、それだけではない。
その象徴する黒色が魔力を発動するエネルギーに同調して魔力を増幅させる役目も果たすのだ。
魔女は使い魔を持ち、側に置くことによって魔力の増幅や補給などがたやすく出来る様になり、より強大な力を発揮できるようになるのだ。
もちろん使い魔の方にだってメリットはある。
その一つは強大な生命力だ。
たとえば、普通の猫なら長生きしたって20年そこそこだが、使い魔として契約した猫はその主が生涯を終えるその時までだ。
通常の寿命の何倍も生き続けるんだ。けっして死ぬことはない。
二つ目は人の言葉を理解し会話が出来るようになることだ。もちろんテレパシーで話せるのは主とだけなのだが。
だから魔女は使い間を慎重に選ぶ。一生を共にする相手だ。
ゆえにその契約は生涯に一度限りだ。
その色はエネルギーの象徴だ。
一点の曇りもない純白なほど、どこまでも果てのない様な漆黒であるほどその効果も大きいようだ。
だが現実はなかなか難しい。
その様な生き物は高価な取引がされていて庶民がたやすく手に出来るものではない。
よく見かけるのはあくまで黒に近い焦げ茶であったり、黒に近いグレーであったりするのだ。
それでも魔力を持つ者達は、より特色を強く持つ生き物を生涯のパートナーにと選ぼうとするんだ。
けっしてそれに反するようなバカな者はいない。
いや若干1名だけ・・・そんなバカな奴がいた・・・
なぜなら俺は・・・
黒猫じゃない!
サビ猫だ!
この体はみごとなべっこう柄だぜ!
黒い部分なんて体の三分の一程度しかないんだ。