第26話
先ほど買い物をした店に戻ると店主がルーチェに声を掛けて来た。
「ほい。お嬢ちゃん忘れ物だよ。」
そう言うとルーチェにカボチャを手渡した。
セーラさんが袋に入れ忘れたのを取り置きしてくれていたようだ。
「よかったぁ。ありがとう。」
ほっとしたルーチェは微笑んで店主に礼を告げた。
胸にカボチャを抱え、今度こそ帰路に向うのであった。
『セーラさんも意外とうっかり者なんだなぁ』
「タオったらそんな事を言うもんじゃないわ。忘れ物は誰でもするものよ」
『人一倍忘れ物が多いルーチェだもの。他人の事が言えるはずないわよね』
ルーチェには聞こえないのをいい事にミーアは好き勝手な事を言う。
俺は叱られ、このミーアが叱られないなんて世の中は不公平だ。
「そう言えばセーラさんの使い魔はどうしたのかしら?」
『まったく見かけないわね・・・・』
歩きながらミーアも首をかしげる。
俺はその時、ピンときた!
『帰ったら、セーラさんのエプロンのポケットを見たらいいさ。
きっとモソモソ動いてると思うよ。』
そう。あの時の御者の胸ポケットと同じようにね。
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ルドルフは瞬間移動でアルバートの住居の前に現れた。
そうしてドアをノックしようとした時、その手を止めた。
廊下の向こうからカボチャを胸に抱いた、黒髪の少女が現れたからだ。
ルドルフは目的の少女の方へスタスタと歩いて行った。
前から歩いてきた白銀の髪の青年にルーチェは覚えがあった。
「ルドさん!」
そう呼びかけるとルーチェは駆け寄った。
「昨日はありがとうございました。
おかげでケイトも食欲が出てきたみたいで、今朝はずいぶんと顔色が良くなってたんです。」
昨日の事を思い出してルドルフはちょっと眉間に皺を寄せたが、ケイトが良くなったと聞いて少しは救われた。
「それはよかった。なによりだな。」
あいかわらず憮然とした表情だった。偉そうな態度も昨日と同じだ。
「こんな所で何をしているんですか?」
「お前に用があって来た。昨日聞きそびれた事があったからな。」
こんな綺麗な顔をしているのに仏頂面とは残念だ。少しはアルクさんを見習えばいいのに・・・・
ルーチェは心の中でそう思った。
「あら? 今日はアルクさんは一緒じゃないの?」
「置いてきた。その・・・お前がキースを怖がるから」
背の高いルドルフは下から見上げてくるルーチェの大きな黒い瞳と目が合うのを避けるように、プイと横を向いた。
気のせいかその頬は少し赤らんだようにも見える。
「ところで、そのカボチャは何なんだ?」
ふと、ルーチェが大事そうに抱えるカボチャに目が止まる。
「これは今夜のパンプキンパイの材料ですよ。メイドのセーラさんはパイ料理が得意なの。」
「だろうな。まさか子供のようにカボチャで馬車など作って遊ぶ訳はないか」
この時やっとルドルフの整った顔に笑顔が見られた。
その冷たい表情が一転してひとなつっこい表情に変わる。
「ルドさんも馬車を作ったことがあるの?」
「そうだな。子供の頃は野菜を使っていろんな乗り物を作って遊んだ覚えがあるな。」
ルーチェはルドルフが一気に話し易い雰囲気に変わったのを感じた。
「それって、いくつくらいの時?」
「うーん・・・三歳位だったかな。」
「え・・・三歳・・・・・・」
ルーチェはつい先月の失敗を思い出したようである。
ルドは三歳でそれをやってのけたと言うの?
ルーチェは悔しさが表情に滲み出た。
「そうだ! そのカボチャでちょっと馬車を作ってみてくれないか?」
ルドルフはちょっと思いついて言った。
ルーチェが魔法を使うところを確かめようとしたのだった。
そうすればミーアが本当はルーチェの使い魔なのかどうかも判ると思ったのだ。
ルドルフは王家の血筋なのでその魔力は強く、使い魔などまだ持っていない三歳であっても簡単に馬車が作れたのである。
しかし、一般ではなかなかそうはいかない。
この魔法は微妙な魔力の調節と、器用さを必要とするものなので普通は魔法学園で使い魔を使っての練習となる。
ルドルフはそんな事は知らなかった。
子供でも出来る単純なものだ。当然、出来て当たり前であると認識していた。
「え? ・・・・でもこれは大切な夕食に必要なものだし・・・」
ルーチェは引きぎみになんとか回避しようとしていた。
「カボチャならいくらでも、後で住居に届けよう。」
「そ・・それに、ここは狭いし・・・」
「そこのテラスなら大丈夫だろう。」
確かにこの廊下のすぐ先に庭に面して広いテラスが見えている。
渋るルーチェのいい訳をものともせず即座に返したルドルフはルーチェの手を引いてテラスへ向かった。
「まさか出来ないとか?」
ルドルフはほんの冗談のつもりでからかうように言った。
「ま・・まさか・・・それくらい出来るわよ!」
ルーチェは意地になったようだ。
テラスの真ん中にカボチャを置いた。
「タオ やるわよ」
ルーチェは俺に向かって準備を促した。
『ルーチェ・・やめた方が・・・』
俺は渋々その全身の毛を逆立てた。
『え・・また? 冗談じゃないわよ。もうごめんだわ』
ミーアはするりと身を翻してテラスの扉の裏へと避難した。
それを見ていたルドルフが驚いたように尋ねた。
「え? タオって・・? まさかこいつが使い魔?」
ルドルフが最後まで言い終わらぬうちに・・・・
ボフッ!
カボチャは爆発した。




