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至高の魔女  作者: みやび
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第22話

ルーチェはパニックに陥っていた。

この人達は・・・・森が消えた件で来たと言ったその言葉が頭の中を駆け巡る。


やはり損害賠償だろうか?

ルーチェの家はケイトと違って金持ちではない。


その金額はイサンとマリアには重すぎるものだろう。

ルーチェが大人になって働いたとしてもその一生を掛けても払い切れるものではないのではないか?

そう思うと、おのずとルーチェの態度はおどおどしたものになっていくのであった。


「どうぞこちらに座ってゆっくり話しを聞かせてくださいますか?」


入り口で立ち尽くすルーチェをアルクがやさしく促すように声をかけた。

まるでこの家の主がどちらなのかわからない展開である。


言われるまま椅子に腰掛けたルーチェではあったが、目の前に座ったルドルフの憮然とした態度に体を堅くして萎縮しているようである。


それを見てとったアルクはその場をできるだけ和やかになるように勤める。

まったく殿下も、もうすこし気を使って笑顔のひとつでも作ってやればいいものを・・・・


その整いすぎた顔立ちは無表情だとものすごく冷たく見えるんだよ。

アルクは心の中でだけルドルフを責めていた。


「この度は大変怖い思いをなさったようで・・・・

もうお体は大丈夫なのですか?」


ルーチェは何を怒っているのかというほどの冷たい表情のルドルフと、その対極のような親しみやすいアルクの表情を見比べながら戸惑っていた。


「もう大丈夫です。もともと怪我はたいした事はなかったので。」


ようやくルーチェから言葉が発せられたのを見てアルクはほっとしながら続けた。


「それはよかった。

私たちもあなたの回復を心からお待ちしていたんですよケイトさん」


「え?」


驚いたように顔をあげたルーチェにアルクは首をかしげた。


「・・・・・・・・?」


「私はケイトではありません。ルーチェです。」


今度はアルクとルドルフが驚いたように顔をあげた。


「・・・・・・・・」


ルドルフはアルクを睨んでその調査不足を目で責めた。

一方アルクは一瞬呆気にとられたが、戸惑いながらもふと足元の黒猫に気づいた。


「でも此処にこの黒猫がいるということは?」


万が一の可能性にでもすがるようにアルクは問うた。


「ケイトの使い魔のミーアです。今は私が預かっているんですけど・・・・

おいでミーア。」


ルーチェはそう言うと両手をミーアの方へ向けた。

ミーアはひょいと身軽にルーチェの膝の上に飛び乗るとその身を摺り寄せた。


その様子をルドルフは見入るように眺めていた。


「そうでしたか・・・・。」


どうやら決定のようだ。アルクは肩を落とした。


「ケイトはまだ療養所で回復にはしばらくかかりそうなんです。」


ルーチェはあからさまに落胆した目の前の二人に、目的が自分ではない事を悟った。

少し安堵したのか余裕がでたようだ。そしてふと思いついた。


「でも私、ケイトが早く回復する方法を思いついたんです。」


「ほう・・・」


一旦は気落ちしていた二人が再び身を乗り出して興味を示した。


「バララッタなんです。それさえあればきっとケイトの回復は早いと思うんです。」


ルドルフは眉をしかめて初めて聞いた名前を記憶しようとした。

市井にはそのような良薬が出回っているのだろうか・・・・


「アルク・・・バララッタなるものを知っているか?」


「いえ。私も聞いたことはないです。調査不足で申し訳ありません。」


アルクは頭を掻きながらルドルフに詫びた。

ルーチェは地図を広げて赤く印をつけた場所を指差して二人に示した。


「ここに売っているんですけど、私は帝都の地理には疎くて買いに行けないんです。」


「帝都であれば私は瞬間移動でどこへでも行けるんだが・・・・」


そう言いながら地図を覗き込んだルドルフの手をルーチェは縋るように両手で掴んだ。

そうして大きな黒い瞳をうるうるさせながらルドルフの瞳を真っ直ぐに見つめた。

ルドルフは一瞬、固まったが無表情なその整った顔がすこし赤らんだ。


そもそも皇太子であるルドルフに許しもなく、体に触れた者などいなかった。

本日2度目の初めての体験であった。


「お願いします。ルドさん!急がないと売り切れてしまうんです。

どうかこれでバララッタを買ってきてください」


ルーチェはポケットから取り出した小銭の入った小袋をルドルフに握らせた。


「ルド・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


ルドルフとアルクは顔を見合わせた。だがアルクはすぐに目を逸らした。

なんとも複雑そうな表情で顔を歪めたルドルフを見てはいけない気がしたからだ。


「そ・・それほど入手困難なものならば、急いだほうがいいでしょう」


アルクはさらりと流して話題を切り替えた。


「わかった。そうしよう。」


そう言い終わらぬうちルドルフとアルクの姿は消えた。

そしてシャンデリアに止まっていたサリーと、ドアの外で護衛をしていたキースも消えていた。


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地図に示された場所に移転したルドルフの顔はひきつっていた。

アルクは唖然としたまま固まってしまっている。


そこは市場の中ほどにあるかわいい装飾が施された小さな店内であった。

市井の若い少女たちがたくさん訪れていて賑わっていた。


突然現れた場違いな二人に皆驚いてしーんとしていた。

ルドルフは頭痛がするのか、こめかみを押さえながらスタスタと店主の元に歩いた。

そして、この店のバララッタのすべてを城に届けるように指示するとあっという間に消えた。


店主は驚いて口をポカーンとあけたままであった。

その後この店は急遽、本日閉店となったのである。


ルドルフにとって生まれて初めての使いっ走りであった。

こうしてたった1日にしてルドルフは3度も初めての体験をしたのであった。


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