第14話
朝日の眩しい空を舞うように、真っ白な鷹が飛んでいた。
広い範囲を旋回して、その鋭い目に地上の姿を映しだす。
そこには何もなかった。
草ひとつなく、ただどこまでも茶色い土が続いているだけだ。
そこは、つい昨日までは緑豊かな森であったはずだ。
広い範囲に燃え広がった炎に包まれた森ではあったが、もちろん燃え尽きたのではない。
その証拠に焼け焦げた小枝一本も残っていなかった。
そう。森が消えたのである。
大きな森であった。
そこには百年を超える大木も多数あった。
緑に覆われたそこには、様々な生物が生息し、いつも生命が感じられた。
今ではそれが幻でもあったかのようにポッカリと消えていた。
白い鷹はしばらくその上空を飛び続けたが、突然向きを変えた。
何かを発見したのか、キィーッとひときわ高い声で鳴くと急降下していった。
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「なに? 森が消えただと?」
「はい。今日、早朝の事です。」
その報告を受けたルドルフは驚いて振り向いた。
王家の血筋でないと持つはずのない白銀の髪が乱れて頬にかかる。
成人したばかりの若い皇子であった。
王家の血筋の良い部分ばかりを一身に受け継いだのではないかと思わせるその顔立ちは整いすぎと言ってもいいだろう。
透き通ったブルーの瞳は美しく、通った鼻筋ときりりと引き締まった口元は意志の強さを思わせる。
だが笑顔にはまだ少し幼さが残り、ひとなつっこさを感じさせる一面もある。
受け継いだのはその容姿だけではない。
王家独特のその巨大な魔力さえも持ち合わせていた。
ここは帝都の城内である。
城内でもその中枢となる棟の皇太子の執務室であった。
「山火事の報告が入り、我々も消火の手助けに向かおうとしていたところでした。
大火だと聞いていたのに、着いたときにはもうすっかり・・・・」
しきりに首をかしげながら答えているのは白髪のアルクである。
アルクは幼い頃より、護衛としてずっとルドルフに仕えている側近だ。
護衛と言ってもアルク自身は強い魔力を持ち合わせてはいるが、攻撃や防御に長けている訳ではない。
ただその分野においては、使い魔の白い狼キースの力は強大だ。
ルドルフとは同い年であるが、いつも笑顔で親しみやすいその童顔はひょうひょうとしている様に見えて、その裏で頭は切れるし判断力にも長ける知的参謀でもある。
「跡形もなかったというのか・・・・・
東の森といえば、馬車で抜けるとしても1日半はかかるほどの大きさだぞ。」
「はい。大きな魔力の痕跡は残っておりましたので、現在調査中です。
それとそこに、黒髪の少女2人と猫が2匹倒れていたのをサリーが見つけました。」
「そうか、サリーご苦労だったな」
ルドルフは執務室の片隅に設置された止まり木の上の使い魔に向かって声をかけた。
『私のこの眼で探せないものなどないわ。
どんな上空からでもアリ一匹見逃しはしないわよ。』
ルドルフの使い魔である白鷹のサリーが答えた。
めずらしい白い鷹はどれほど高価であったのだろうか。
自慢の白い翼を丹念に整える仕草も美しい。
「現在は城内の療養所に保護しておりますが、いずれも意識不明の状態で回復しなければ詳しくはわかりません。」
アルクは分厚い書類をめくりながら続けて説明する。
「黒髪ということは2人とも闇の魔女だな」
「はい。一匹は黒猫でしたので使い魔で間違いないでしょう。
しかし、もう一匹はべっこう柄のサビ猫でして・・・・・」
「そっちはただのペットだろう。サビ猫など使い魔のはずがない」
「そうですね。
・・・・・で身元は我が調査部の研究員アルバート・セイラーの娘ケイトとその友人ルーチェである事が判明しております」
「ほう・・アルバートの娘だったのか。」
興味深げにルドルフは身を乗り出して聞いた。
「はい。アルバートは今は療養所のほうで2人に付き添っています。」
「いずれにしてもこの調査は2人の回復待ちということだな。」
アルバートの娘なら強い魔力を持ち合わせていたとしても納得のいくところではある。
それにしては、それほどの力を持っている者をなぜ今まで自分が気づかなかったのだろう・・・
ルドルフは腕を組みながら考えを巡らせていた。
「それからもうひとつ気になる事が・・・」
ルドルフの思考を遮ったのはアルクだった。
「山火事の原因は落雷によるものだと言うことです。雷が落ちるのを目撃した者もおります」
「落雷? この数日は雲一つない晴天だったというのに?」
そう聞きなおしたルドルフだったが、一瞬間をおいてハッとしたような顔をした。
そして、机に山と積まれた書類を無造作にあさりはじめた。
バサバサと書類を放り投げるように退かせると目的の物を見つけたようだ。
「これだ! 三ヶ月ほど前、西のマルタの町にある魔法学園が雷により、全焼している。
これもだ。五ヶ月前に南のサンドルという村の教会も落雷で燃えている。」
ルドルフは呆然と立ち尽くした。
「お気づきになりましたか。いずれも雷雲のひとつもなかったと聞きます。
そして被害者は貴重な闇の魔力の持ち主。前途有望な力の強い少年少女たちが亡くなっています。」
ようやくルドルフはある疑惑に確信を持った。
アルクはその様子を満足げに眺めていた。




