第6夜 ー告白は突然にー
あれから数時間後…
雅人はボロボロな体のまま杏樹を背中に背負い運んだ。
運ぶ先はモチロン自分のアパートしかない…
街中からアパートまでは意外と距離がある…ましてや杏樹を担いで運んでいるのだから足取りが遅いに決まっている。
だから…
(あ〜重てぇ…てかみんなこっち見ちゃってるょ…無理もねぇけどさぁ…)
確かに無理もない…
さっきみたいなわけの分からない状態で冗談じみた吸血鬼の奴らと争ったおかげで雅人や杏樹の服などは文字通りボロボロのボロッボロだ…
ついでに言えば杏樹の玉のような白い肌はかなり剥き出しになっており、さらに危ない事に杏樹の胸元がかなり厳しい状態となっている。
『おぉ…!!』
などと道行く男どもに歓声をあげられている事に気づき雅人は自分の着ている学生服の上着を着せる事にした。
と同時に男どもから
『サ…サイズ違いの上着…さらにっ!!付け加えてその寝顔!!……グッジョブッ!!』
などと更に感動と喜びの奇声に近い歓声があがったため雅人は眉間にシワを寄せた状態で睨みつけた。
男どもは一瞬にしてその場から有り得ない速度で消え去った。
(お前ら…その溢れんばかりのエネルギーを就職活動とかに使えよ…)
雅人は冷静にコメントする…
そんなこんなで雅人は約1時間…くだらない冒険を繰り広げましたとさ…。
「…つ…着いた…」
ようやく我が家の玄関に着くと改めて家に巣くう鬼神の存在を周囲を見渡し確認する…
「……よし…いない」
雅人は安全だと確認しマイホームの鍵を取り出した。
ただ…早く気づけばよかった…
部屋から聞こえる声に…
「ただい…」
声はそこで止まった…
そこには…鬼神…いえいえ…いつも美しい幸様がいらっしゃいましたよ…
「ウフフ…孝太郎君ってば!!」
なにやら幸様のご様子がおかしいようです…
よく見ると部屋の奥には孝太郎の姿もありました。
「あっ、雅人お帰り!!」
あ…わざわざそこで声掛けなくても…幸様にバレちゃうから…
「あら、お帰りなさい。雅人。」
………………………
おかしいおかしいおかしいオカシイオカシイおかしい!!!
何か今日の幸様はオカシイデス…
おっと…僕もおかしくなるところでしたね…スミマセン
とにかく今日の幸様は変です…何か悪いものでも食べたのでしょうか…
雅人はいっその事それでもいいと考えた…
「それじゃあ私は邪魔みたいだから帰るわね?孝太郎君…じゃあ後は宜しくね。雅人!!」
って気がつけばこっちに幸様が向かって来ています!!
ヤバい!!逃げるスペースも暇もない!!
『おい…お前』
いつものようなドスの効いた声が聞こえました…
『朝からよく問題起こしてくれるじゃんか…その娘は一体誰!?あとでタップリ深夜まで話聞かせて貰うから覚悟して待ってやがれょ…』
雅人は膝が震えていた…
「じゃあ孝太郎君…また今度ね」
今までに聞いた事のないようなわざとらしく優しさに満ち溢れた声で幸様は孝太郎に声をかけてます…
さっきのドスの効いた声はいったいどこに…
雅人は気づいた…
(あぁ!!そっかぁ!!幸様…ネコ被ってるのかぁ…どうりで…)
雅人はなんか…悲しみとある意味安心感に満ち溢れた。
孝太郎は手を振って幸様を送っていました…
「雅人…お前のお姉さん…かなりきれいだね!!」
雅人はとんだ間違いを正そうと言った。
「お前…あの女は――」
雅人はそこで喋れなくなった…
なぜなら玄関のドアから絶え間なく殺気が発せられていたからだ…
もちろん雅人に向けられて…
「ウン!!キレーデヤサシイネェチャンダヨ!!」
そう言うしかなかったんです…
「で…君らどうしたの…?」
孝太郎は雅人に疑問の目を向けている…
「……お前はなんでここにいるんだよ」
「学校終わったから心配になって寄ってみただけ。はい、話題変えないでね」
逃げられなかった…こんな会話をして約1時間…
まだ孝太郎の疑いの眼は晴れなかった…
そりゃそうだろう…
今孝太郎の目の前にはボロボロの格好になった杏樹が雅人のベッドで安らかな顔で寝ているのだから…
「みんな心配してたんだよ?うちの高校始まって以来の大惨事だって…」
孝太郎は必死に話しかけてくる…
「ねぇ…そろそろほんとの事話してくれない?」
それでも雅人は喋ろうとはしなかった…
(んな事言ったって俺にも分かんねぇよ…)
2人の間に沈黙が広がる…
その時だった…
突然杏樹がビクンッ!!と跳ね上がりベッドから転げ落ちた。
『あっ…』
雅人、それに孝太郎はその状況に唖然とし同時に声を上げた…
「キ…」
杏樹は初めて口を開いた…
「キャベツッ!!!」
『キャベツ…?』
あぁ…またサプライズな事が起こりそうだよ…
雅人は正直そう思った…
「てか…気絶してたんじゃなくて…寝てたのかよ…しかも寝ぼけて変な事言ってたし」
「ゴメンナサイ…」
杏樹は転げ落ちた時にオデコをぶつけたらしい…
ヒリヒリするのかさっきからオデコを押さえたままである…
「ほれ。」
投げて渡したのは冷えピタク〇ルだった…
「あっ…雅人君…ありがと…」
杏樹はすぐにオデコに冷えピタ〇ールを張ると目の前にあったホットミルクを飲む…
「あ…おいしい」
「それぐらいしか出せないけどさ…てかそれが限界…」
一同は爽やかに笑い始めた。
「……じゃなくて!!僕が聞きたいのはですねぇ!!ずばり…杏樹さん!!今日2人に何があったんですか!?」
孝太郎はいつにもなく真剣だった…
「だからそれは――」
「この際言っちゃいますけど…」
雅人の言葉は杏樹によってかき消された…
しかも…今の雅人には杏樹が言おうとしている事が鮮明に予想出来た…
杏樹は顔を真っ赤にしてそう叫んだ。
「実は私!!由緒正しきウルスフィードの狼おん――!!」
「あ゛――!!!いい天気だ!!」
2人は雅人の大声に圧倒される…
「雅人…今日曇りだよ…?しかもかなりどんよりとした…」
「はい!!この続きはまた明日!!はい!!また明日!!」
「ちょ…ちょっと!!まさ…」
有無を言わさず雅人は孝太郎をドアの外へと放り出した…
かなり無理矢理な展開である…
後日談だが…テレビで『おい!!お前!!!』と自分の筋肉に向かって叫ぶ某芸人がテレビに出ていたが、雅人は自分となぜが…デジャヴを感じた…
ドアの隙間から孝太郎が首を傾げながら帰る姿が見えた…
「ふぅ…これでなんとか…」
居間に戻ると杏樹が丸い眼を更に丸くしていた…
「あの…さぁ。まず謝っとくな…あの時いきなり怒鳴った事」
「えっ…そ、そんな!!いいですって!!
だいたい悪いのは私でしたから!!」
「ごめん…」
そう言った後その場に土下座する雅人…
「あの…」
精一杯に反省の気持ちを込める雅人…
そんな雅人に杏樹の口からは意外な言葉を言った…
「あの…そんな死ぬ覚悟にならなくても!!」
………?
「なぁ…今なんて?」
「えっ、それってジャパニーズ流“セップク“ってやつですよね…?ダメですよ!!そんな事で大事な命を断っちゃ!!」
そうか…わかった…杏樹は日本の文化を勘違いして覚えたんだ…
そうだ…そうに決まってる…じゃなきゃ切腹と土下座を間違う筈がないさ…
雅人は自分の心を必死で説得させた…
「どうでもいいけどさぁ…ソロソロほんとの事話してくれないかな…俺もいい加減混乱してんだ…」
「分かってます…ソロソロ言わなきゃいけないって思ってましたし…」
いきなり場の空気がシリアスな展開になっていた…
「私…!!」
雅人は唾をゴクリと飲む…
「私…狼男ならぬ…狼女なんですっ…!!」
杏樹は顔を真っ赤にしてそう言った…
雅人は…
「あ、ごめん。それは分かってる。」
辺りにしらけた空気が流れた…
杏樹は更に目を丸くしていた…
その瞳には一筋の雫が…
「えっ、えっく!!せっかく…せっかく勇気出して言ったのに〜!!雅人君のバカァ!!」
(…訂正!!訂正!!もう雫どころじゃないって!!凄い勢いで下の畳に染み込んでるし!!)
「だ〜!!やめっ!!
これ以上アパートだめにするとあの鬼に架空請求取られっから!!」
雅人はその時奇跡の発想が頭に浮かんだ!!
「そうだ!!あれを!!」
雅人は急いで冷蔵庫からアレを持ってくる…
テーブルに叩きつけられたソレは…
「あ〜わかった!!分かったから!!このキャベツでも食って落ち着きやがれ!!」
…辺りが急に静かになった…
ソロ〜っと雅人は顔を上げてみた…
そこには恍惚の表情でキャベツを見つめる杏樹が…
「待てっ!!」
なぜか思わず言ったその言葉は正解だったらしい…
杏樹は欲望を抑えながらよだれを垂れ流しそうな勢いで目の前の宝をただ見つめていた…
「……よし!!」
雅人の言葉と共にキャベツは5秒とかからず消え去った…
(なんか…イロイロ突っ込みたいな〜)
とりあえず…心のなかだけで叫ぶ事にした…
(犬かよっ!!)
雅人の思いが伝わったとは到底思えなかった…
「あ〜…なんか最近訳わかんないなぁ…」
孝太郎は1人帰路を歩いていた…
「それに…最近の雅人の様子といい…それに杏樹さんも…」
そう考えてるうちに家が見えてきた…
「考えるのは明日にしよ…」
その時だった…
家の前の電柱の辺りから笑い声が響く。
(やだなぁ…苦手なんだよな…こういった人達…)
目の前では金髪と茶髪のいかにも不良といった男が2人立っていた…
その2人は罵声に近い笑い声を幾度となく吐き散らしていた…
(関わりたくないしさっさと家に入っちゃお…)
男達は孝太郎が目の前を通るとさっきにもまして下品な笑い声を発していた…
家に入ろうとした時だった…玄関の入り口を踏んだところで孝太郎は茶髪の男に声をかけられた…
「なぁ…お前雅人君のお友達?」
意外にも丁寧な言葉を使われたので孝太郎は返事を返してしまった。
「は、はい…そうですけど?」
「そっかぁ〜♪ヤッパリィ〜」
残る金髪の男も声をかけてきた…こっちのほうはいかにも言語障害のような言い方である…
「ねぇ…君の事もよく知りたいんだけどさ」
「えっ?…」
その瞬間だった…異質な光景が孝太郎の眼前に広がる…
男達の皮膚がボロボロと剥がれ落ち真っ白な肌が剥き出しになった…
続いて歯が野獣の牙と化す…
「え…えっ…?」
孝太郎は訳が分からないでいた…
だけど…一瞬で理解した。
「ばっ…!!化け物!!!」
男達…いやヴァンパイア達はニヤニヤと笑いながら孝太郎に近づく…
「そう言うなよ…お前の事も教えてくれよ…」
「そうそう♪」
それでも吸血鬼達はなおも距離を縮めていく…
「やっ…やめて!!やっ…たっ!!助けて!!」
(雅人………!!)
満月は無情にも怪しく輝いていた…
それは時の始まり…
どうでしたでしょうか…
なんとかスランプ!?を脱出したかに思われる作者ですが…
今回の話はかなり作者もおかしくなってしまったと思います…(>_<)
これもスランプなのですかね…?
こんな作者ですが励まし&支えになってくれる言葉募集です!!
こんな作者ですが…ど〜かよろしくお願いします!!(b^-゜)