第1夜 ーファースト コンタクトー
「そーいう事なんだよ。雅人。」
「ああ…。」
俺の名前は山本 雅人[やまもと まさと]。17歳。
…はっきりいってもう俺はこの人生に半ば飽き始めている。
何が楽しいわけでもない17歳…高校二年生だから受験勉強もあるわけなく部活もやってない俺は毎日に落胆していた。
だから今もこうして暇だから、友人の手伝いをしているのだが…。
「で…なんで俺がこんな寒空の中天体観測の手伝いなんてしなきゃならないんだ?」
「ホラー研究会の人数が雅人も知ってるかぎり全然いなくてさー、ゴメンね。
…そうだ!!この映画[死霊の生焼けのハラワタ]の特別割引券あげるからさ!!
ゴメン!!ほんとあと一時間ぐらい手伝って!!」
さっきからゴメンと連続して言うのは
片瀬 孝太郎[かたせ こうたろう]
実は俺の幼なじみなんだが、どうも気が弱いくせに現在人数不足の[ホラー研究会]の部長を勤めている。
俺はコイツと違ってホラー、オカルトのたぐいはだめなんだが…。
「んなのいらねーよ!!
だいたいなんだ!!
今の時代にこんな健全な若い少年が肌寒いなか怪しく男2人で月なんか見なきゃならんのか俺にはわかんねぇ!!」
「だからなんで月が満月のままで1ヶ月以上保たれてるのかその謎を僕は解き明かしたいんだよ!
最近ニュースや新聞に大きく取り上げられてるでしょ?
これは科学的上あり得ない類のない発見なんだってば!!」
「……」
「どしたの?雅人」
「…もう帰る」
そう言うと雅人は暗い表情で孝太郎にはもうついていけませんと訴えた。
きっとマンガで言えば多分額にその気持ちがハッキリと映っていたに違いない…。
孝太郎が何か言っていたが雅人にはもう聞こえない事にした。
二十分ぐらい自転車で走っていただろうか…。
いつもと変わらぬ満月が輝く。
金曜日の夜だというのに辺りに人は見えず薄暗い道路は月明かりによって映し出されていた。
「そういやほんとにこの満月っていつまで続くんだ?それにしても今日は一段ときれいだな…
(いかん、いかん。また孝太郎のペースにはまるところだった。)」
雅人はそう思いつつ気を戻して自転車のペダルを踏んだ。
あと、少しで家に着く…。
追いつめられてる…。
少女はそう悟った。
自分が追われる理由は分かっている…。
だが、今それを考える余裕などない。
「……ッ!!」
少女は自分の上肢をひねって飛んでくる攻撃をかわす…。だが次に着地した場所が悪く無様に転んでしまった。
今の攻撃によって腕に傷を負ったらしい。
傷は意外に深く少女の細い腕は痛々しく見える。
「もうだめ?お父様…」
諦めかける少女などお構いなしに確実にソイツらは迫ってくる。
実際何者かも知らぬ敵に少女は怯えた。
…来たっ!!
その何者かの一撃目をなんとかかわすと、怯む間もないまま二撃目が迫る。
少女は攻撃を避けきれずにマトモに体に受けた。
「…っきゃぁああぁあぁ!!!」
少女は崖から落ち下にあった建物の屋根を突き抜け気絶した…。
「さって…帰るとしても何すっかな…。」
雅人には両親はいない。
雅人が小さい頃に交通事故で亡くなったそうだ。
だから雅人は1人でアパートに暮らしている。家に帰っても誰もいない…。
孝太郎は全てを知って雅人を自分の家に招き入れようとした。
だけど雅人はこれを断った。
寂しさ…それを雅人は理解出来ない。
それは強がりだと自分でも分かっていたが…
「…っと、なんで今更こんな事考えるんだよ…。」
自分のアパートが見えてくる…。
下り坂の下に見えるアパートはいつもながらボロい…。
多分大きな地震が来たらすぐさまその餌食となるだろう。
そう思い始めた頃それは確かに突然見え始めた…。
「……………は?」
頭に思い浮かんだ疑問型の一言。
と言うかそれしか思いつかない…。
ーーーーー穴ーーーーー
それは巨大な穴だった。アパートの屋根にボッカリと空いたそれは…大きな大きな…穴だった…。
「あ〜……。」
そして雅人は叫んだ。
かの[〇陽にほえろ]のように…。夜だから見えないはずの太陽に…。
「なんじゃこりゃー!!!」
その叫びは無情にも夜空へと消えていった…。
隕石!?が原因かと思われたアパートの屋根は見事に大破していた…。
恐る恐る二階にある雅人の部屋を開けてみる…。
意外にも部屋は綺麗なものだった。
確かに屋根の木片などは散らばっていたが、幸いにも一階の部屋までは貫通していないようだった。
「って…何が幸いだよ…最悪だっての…」
そこで雅人はある異変に気づく…そこにはありえないモノが存在した。
雅人はすすり泣きたい自分をこらえ目をちゃんと凝らして見る…。
そこには……
「…犬…だね。」
今まで起こった事を考えたらもうどうでもよかった…実際。
その犬はどうやらかなり傷を負っていた。
右腕(右前足)がかなり斬り裂かれている。
「なんで…こんな。」
雅人は基本的に動物は好きではない。
だけど性格上放っておく事は出来なかった…。
「とりあえず…と。」
雅人は棚の上から薬箱を取り出し傷薬と絆創膏を手に取った。
「人間の薬だから効くかわかんないけど…やらないよりはな…。」
適度に傷薬を塗り始めると子犬は軽いあえぎ声をあげた。
「ちょっと我慢な…。よし…終わり。」
雅人はため息を吐くと子犬はこっちを見ていた。
「とりあえず犬は好きじゃないけどな…。放っておけなかったからさ。…って犬に言葉が通じる訳ないっての…。」
雅人は軽く子犬に微笑み笑った。
「さて…俺は寝るよ。じゃあお休みな…。」
天井に空いた大きな穴から漏れる夜空の光…。
そしてはっきりと見える満月。
これから起きる事も知らず満月はただ輝くだけだった…。