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第10夜 ー光ー

皆様覚えておりますでしょうか?

ダメダメ作者のRevです…

midKnight taleやっと更新出来ました!!ここまで来るのに長かった〜( ´Д`)


はい…今回はとても長いです…果てしなく(Θ_Θ)

それでも読んでくれる心の広いお方がいてくれれば…この作者泣いて喜びます!!


では…読んでみて下さい!!(お願い!!)



同刻…東京



「昨日、国会議事堂で内閣総理大臣の……

え〜只今速報が入りました。……緊急事態のようです。それでは変わります。現場の徳永さん?」


『はい。こちら現場の徳永です。皆様落ち着いて聞いてください!!こちら現場では只今悲惨な光景が繰り広げられております!!

多数のテロリストと思われる集団による暴動が行われ都市は混乱状態、多数の死傷者が…悪夢のような光景が広が…なん…だ……あれは―』


「徳永さん?徳永さん?え〜通信状況が一時悪くなったようです。何が起こったのでしょうか?確認を急ぎます。

……なんです!?現在放送局全体に多大な揺れが確認され―!!」




5分後…



「かぁさん!!」


玄関のドアをバタンと開ける。

孝太郎はあの後待ってくれる母の元へと走った。



「こう…孝太郎!!孝太郎!!よかった…よかった…あなたがどうなってたか心配で…」孝太郎の母は玄関の壁によっかかる形で孝太郎の帰りを待っていた。


「よかった…本当に…」


「母さん…」



勢いよく飛び込んできたにも関わらず孝太郎の母は孝太郎のその体に力無く倒れ込む形で受け止められた。


「ごめん…」


「いいの…大丈夫」



孝太郎は母を腕に抱きしめた状態で窓から外の光景を見る。


そこには先ほどまでの平和な姿は無く凄惨な光景が広がっていた…。

ヴァンパイア…ついさっきまで現実離れしていた存在が今では当たり前のような姿でそこにいる…


空に広がる無数のヴァンパイア…そこで孝太郎は親友の姿を思い出す。


「雅人…大丈夫だよね…?」




その時だった…家中に物凄い揺れが孝太郎と母を襲った。



「きゃあああ!!」


「地震!?かっ…母さん!!掴まって!!」




次々と棚や壁が崩れ2人に襲いかかる…

孝太郎は母の手をとり安全な机の下を目指しかける。


さらに地震が強くなる…先ほどまでのものとは比較にならないほどのものだった…今度は立つ事すら出来なくなりその場に倒れ込む。


それとほぼ同時にもの凄い音と共に部屋中のガラスが一斉に割れ孝太郎の母へと襲いかかる…


「母さ…!!」


孝太郎の母はその様子に全く気づいてない様子だった。


(間に合え…!!)




ザシュ…



「あがぁ…」


無数のガラスの破片が背中に刺さり孝太郎はそのままその場に倒れ込む…母は叫んだ後力無く孝太郎のそばに歩み寄った。


「孝太郎…孝太郎!!」


「母…さん。大丈夫だった?」


「何言ってるの!!孝太郎が…誰か呼ばなきゃ…」


バキバキと天井が悲鳴を立ててヒビが入っているのが孝太郎には見えた…



「危な…!!!」


「え…」

思い切り孝太郎は母を押し倒し、倒れた…。


「孝た…!!」



天井のコンクリートが勢いよく落ちてくるのが見えた…

すでに孝太郎にはそのコンクリートの固まりをよける力も無く最後を迎えようとしていた…



(最後ぐらい…ちゃんとカッコよくなれたかぁ…)



そして…時は動き出した…


孝太郎へと向かって落ちるコンクリート。母の叫び…それらが高速で回りだす…。



(ごめん…雅人…)






時が止まったような感覚が訪れる…


辺りに響きわたる静寂の刻…



孝太郎にとって訪れるはずの最後…確実に来るはずのそれが来なかった…


何か鈍い音がしたのは覚えている…それを最後に静寂が訪れたのもわかった。


孝太郎は恐る恐るその瞳を開けてみる…


まるで本当に時が止まったかのような光景が広がっている。





最初…




それを孝太郎は夢かとさえ思った…

何かによって無機質なコンクリートの固まりは空中で止まっている。



そして孝太郎の目にはそれは映る…



もう…会えないとさえ思っていた…



だけど…一度も忘れたりなんかしなかった…




「…雅人!!!」



孝太郎の瞳に映る少年はその右腕で支えていたコンクリートの固まりを軽々と投げ払う。

背中の痛みなど、もはやどうでもよかった…


「雅人!!ねぇ!!まさ…と…」


突然孝太郎瞳に映ったそれは2人の感動的とも言えるような再会を終わらせるには十分だった…


孝太郎の瞳には親友だった雅人が信じられない姿となっていた。




「雅人…その目…何…」


孝太郎の言葉通り雅人のその瞳は普通の人間と異なり黄金色の輝きを発していた…

そしてその口元からは長々と牙のように伸びた歯が剥き出しになっている。両の爪は獲物を狩る獣のごとく固く硬化しており人間のものとは遠くかけ離れていた…。




「ヴァンパイア…そうだろ?孝太郎…」



孝太郎が喋るよりもはるかに早く…雅人は口を開いていた。



「孝太郎…俺は一度死んだんだ…。だけど、俺もお前も…杏樹さえも…こんなわけのわかんねぇ事になっちまって…」


次第に無言になる雅人…孝太郎はそんな姿を見て一歩一歩歩み寄っていく。


「また…行くんだよね…雅人…分かるよ?」


孝太郎は涙ながらにそう言って雅人へともたれかかる。



「俺…あいつの…杏樹の所に行かなきゃ…」



しばらくは空白の時間が続いただろう…


一呼吸おき…孝太郎はいきなり雅人を勢いよく突き飛ばす。


「って…お前何すんだよ!!いきなりいてぇっての!!」


「…なんだよ!!いつもの雅人じゃん!!」


そういきなり笑って答える孝太郎に雅人は軽く笑って返す。



「雅人…」


「なんだよ…」




ガッ…!!



いきなり飛んでくる孝太郎の拳…

ケンカはおろか一度も振るった事もない孝太郎の拳は容易く受け止める事が出来た…


「…なんだよ…いきなり」


「……」


「なんだ?聞こえねぇよ!!」



孝太郎の拳に力が入るのが分かった…



「絶対…負けんじゃねぇぞ!!雅人!!」



孝太郎は精一杯の声でそう叫んだ…


「おぅ…」


雅人は微笑みそう答えた。



2人にはもうそれだけで十分だった…




次の瞬間…部屋全体を覆い隠さんばかりの漆黒の翼が広がる。ガラスや土ぼこりなどが渦を巻くようにして巻きあがる…



そして…気がつけば雅人の姿は消えていた。


呆然と事態をつかめない母を抱きしめ孝太郎は呟く。



「負けんなよ…」



ただ孝太郎は何も言わず…既に雅人の姿無き漆黒の夜空を眺めていた…






町中至る所に凄惨な光景が広がる…

荒廃したビルや倒れ込む人びと。悪夢から逃げ惑う人びとなどがうかがえる…


突然…甲高い悲鳴が辺りに轟いた。

そして雅人はそれを目にする…



「ヒァあ…あ……あ…」


「あいつは…」


悲鳴をあげていたのは茶髪のヴァンパイアとの一戦から姿をくらましていたあの金髪男のヴァンパイアだった…



「あれは…杏樹の!?」

金髪男のヴァンパイアの体の周りを這っているのは杏樹の刻印が解放した時…そして雅人の命を一度奪ったあの黒い腕のような触手だった。


雅人は考えるよりも早く行動していた。

例えそれが恨むべき敵だとしても…



「うぉおぁぁー!!」

一閃…その硬化したヴァンパイアの爪は黒い触手を捉える…


ズシュ…と音がした後勢いよく紫色の体液が触手から流れ落ちる。

それと同時に金髪男のヴァンパイアは力無く宙へと舞った。

雅人はその漆黒の翼を急激に回旋させ急降下し、ヴァンパイアの体をゆっくりと受け止める…



「お前は…」


「今は黙ってろ…後でたっぷり聞くことがあるからよ」



そう言って翼は宙を舞う…

ひとまず崩れたビルの陰へと隠れる事にした。




「さてと…何でこんな事になってるんだ?杏樹の刻印はお前らヴァンパイアにとって切り札なんじゃないのか?それが杏樹はなんでお前らを襲ってんだよ…」


「なんで…俺なんか助け―アヒァ!?」


金髪男のヴァンパイアが言い終える前に雅人はその首もとを掴みあげる。


「お前…立場わかってない!?いわゆるお前は人質だぞ!?質問してんのはこっちなんだよ!!」


「アヒァ!!ハハ!!ゲホゲホ!!」


「……とりあえずさぁ…お前、咳き込むか笑うかどっちかにしたら…?」


雅人は飽きれ果てて深く溜め息をした…






「とりあえず…あそこまでは良かったんだよ…」


「あそこまで…?」


「あの娘の刻印が解放して…あとはシュベルヌの指示で俺らがそれを操る…ただそれだけの単純な事だったのに…」


「シュベルヌ…?」


「アンタがさんざんお世話になったやつさ…アイツだよ」


雅人にはそれが誰なのか一瞬で理解出来た…今目の前にいるこのヴァンパイアなどとは異なった非なる存在。先ほどまで生死を賭けて戦ったヴァンパイアである。


「今回のこの馬鹿げた計画…アイツが立てたんだ…あの刻印を操るだって…!?ホントに馬鹿げてやがる…そうだよ!!アイツが全て上手くいくから…これで全ての実権は俺の手に入る…そう言ったから…」


続けてヴァンパイアは立て続けに喋り続ける。


「それが…いきなり暴走して…こんな事になっちまった。アイツもあんたにやられて仲間もみんな刻印に食われちまった…」


「…俺が…」


「え…」


雅人はいきなり立ち上がり答える。


「俺が杏樹を止める…これ以上…誰も傷つけてたまるかよ」


「無理だ!!俺達はアイツに近づけやしなかったんだ!!」


雅人の拳がギュッと握りしめられる…


「俺があいつを救わなきゃ…誰があいつを救ってやれるんだよ…!!」




初めて杏樹を見た時から分かっていた…杏樹は自分自身に怯えていた。


夜を恐れ…


力を恐れ…


そして刻印を恐れ…


それは自分も一緒だった…



「俺は…あいつと同じなんだ…!!

あいつはずっと一人で自分の闇と闘ってきたんだ!!」



雅人の拳からは血がにじみ出ている…



「俺が…杏樹を守る…」



ヴァンパイアはもう何も喋らない…


ただ1人の少年の姿を見守るだけだった…




そして雅人は飛翔した…


全てを終わらせるために…






次々とビルの谷間を越えて雅人は杏樹の元を目指す。


金髪男のヴァンパイアの話は本当らしかった…至る所にヴァンパイアの無惨な姿が見受けられる。


「杏樹…くそっ…!!」

なぜあの時助けてやれなかったのか…雅人は自分の無力さを呪う。


「待ってろ。杏樹…今俺が助けるから」



その刹那…何かが雅人の横を目にも止まらぬ速さで通り過ぎ―


「なっ…!?」



通り過ぎたかと思ったら次の瞬間にはそれは雅人に一直線の軌道で向かってくる…


(間に合わ……)


「があぁぁ…!!」


雅人はそれを正面から受け止めた…有り得ない衝撃がその体に加わる。



「ぐっ…ふっ…!!」


直下のビルへと叩きつけられる…ビルのコンクリートはバラバラにくだけ辺りにその破片が散りばめられ雅人の体はその残骸へと埋もれた。


おそらくそれだけで人間はその体が耐えられなくなり…結果絶命するだろう。


そう…人間では…


雅人は改めて自分は人間ではないのだと実感する…


「…っくしょう…何だってんだよ!!くそっ!!」



再び雅人は翼を広げて空へと羽ばたいた…


ビルの外へ飛び出すと無数の触手が一斉に雅人へと襲いかかる


「しつけぇんだよ!!」



一瞬…雅人はそれらをほぼ一瞬のうちにその爪で切り裂いた。




そこで雅人はその少女の名前を呼ぶ…



「杏樹…!!」


雅人はその姿を目にする…




空へと浮かぶあまりにも巨大な漆黒の球体…その大きさは隣接するビルの大きさなど比較にならないものだった。まがまがとしたオーラと周囲に無数の触手を纏ったその球体の中心に杏樹のその小さな体はあった…


「杏樹!!聞こえねぇのかよ…杏樹!!」


雅人の叫びは全く杏樹には届いていなかった…


もはや刻印の力は杏樹の精神まで支配しているようだった。


「くっそ…聞こえねぇってか…」


雅人の両手の爪がびきびきと音をたてて硬化していく…その獣の爪は徐々に凶器へと発展していく。


「うぉらぁぁー!!」



雅人はその翼を収縮させ球体へ向かい一直線に弾丸のごとき速さで飛翔する…



刻印は本体をやらせまいと無数の触手がひとかたまりの束になりさながら一本の槍のように雅人へと襲いかかる…

雅人は人間離れした反射神経でそれらをよける…そして驚異的な力を目の前の触手へとふるう…


硬化した爪を触手へと向け下から思い切りアッパーの形で振り上げる…!!


その斬撃によって巨大な触手は地面へと切り落とされた。



「次っ…!!」


先ほどの結末には目もくれず遥か天上にそびえる漆黒の球体を見据える…




その時膨大な衝撃波が雅人の体を襲う。


「がぁあ…!!あん…樹…」


そのあまりにも圧倒的な力の差に雅人は地上へ羽を奪われた鳥のように堕ちる…


「なん…でだよ…杏樹…!!」


その答えはすぐに出た…



(だめだよ…雅人君…)


雅人の耳には聞き慣れた声が聞こえた…


「…あ…杏…樹?」



その言葉は直接雅人にではなく雅人の意識へと伝えられたものだった。


(もう…遅かったの…全てが…)


「何が…だよ…杏樹…何が遅いんだよ…」


雅人は杏樹の言葉に愕然とする…


(もう私の意識すら保てなくなってきたの…私には刻印は制御すら出来ない…だから刻印が解放したらもう…終わり…世界が滅びるって―)


「あきらめんじゃねぇ!!」

荒廃した辺りに雅人の叫びがこだまする…


「お前が諦めたらそこで終わりなんだよ!!最後まで…諦めんな!!」



その言葉に杏樹はニコッと笑ったように…雅人にはそう見えた…



「ありがとう…雅人君…私…みんなと少ししか一緒にいられなかったけど…楽しかった…!!」



それは…紛れもなく雅人の意識などではなく直接雅人へと伝えられた言葉だった…


「だから…忘れないでください!!私が此処にいた事…みんなの事も私…絶対に忘れません!!」


その言葉の意味は最初…雅人には分からなかった。


「お前…何言って…」


杏樹はニコッと笑い淡々と喋る…


「私…最後の力を振り絞って刻印の力を直接私にぶつけて…それで…全てを終わらせます…」


それはつまり…



「ふざけんな!!」


「でも…もうそれしかないの!!だから…」



「だからって…勝手に終わらせんじゃねぇよ!!」




その瞬間…雅人は漆黒の翼を広げ大空へと駆ける。


「まだ…終わってねぇんだよ!!」



球体から無数の触手が飛び出し真っ直ぐに向かってくる。


その狂気を雅人は避ける事なく杏樹へ飛翔する。




(ねぇ…お父様…雅人君がヤッパリ私の光だったんだね…)


杏樹の両の手に力が宿っていく…

再び刻印の力が動き出す…


(これでよかったんだよね…)


杏樹の視線の先にはかの少年がいる…


(もう…終わりに…)




「うおぉぉー!!!」


雅人は駆ける…今まさに終焉を迎える刻へ。



雅人へと迫り来る槍のような触手の連撃…かまわず雅人は進み続ける…!!


「ぐぁっ…!!」


飛び交う触手…その内の一本が雅人の肩へと突き刺さる…

生命エネルギーを吸収しようとする力が雅人の体を蝕んでいく。雅人はおもわず体が硬直してしまった…

雅人が一度怯むとその触手は二本三本と次々に突き刺さっていく。


「……邪魔すんじゃねぇ…!!」


雅人はそれら全てを引き裂き…ねじ伏せる。


「杏樹!!」


そんな雅人を見て杏樹は悲しみを覚える…


「やめて…雅人君…もうダメなんだよ…」


それでも雅人は駆け続ける…


「ダメだよ…ホントに…私のために傷つくことなんかないよ…」


それでも雅人は…



「もうやめて…」


杏樹を覆う漆黒の球体は雅人へと…それは杏樹の悲しみの意志を表しているのか…無数の触手を繰り広げていく。


「杏…じゅ…!!」


「お願い…もうやめて!!雅人君!!」



見る限りボロボロになりながらも杏樹へと向かい飛ぶその姿は凄惨で嘆きすら感じさせるものだった…



「もう…いいから…」

杏樹の声が弱まっていく…


「待ってろ…杏樹!!」


それでも雅人は飛ぶ事を止めなかった…




『もう…遅いイの…』




その時…杏樹の刻印の魔力が増大していく。


「な…」


杏樹を取り巻く空気がいきなり変わる…杏樹を覆う球体は赤黒く光りその渦巻く魔力は醜悪なものへと変化する。

街に生える樹木のそのことごとくが生命エネルギーを吸収され球体へと取り込まれていく。


「なんなんだ…これは…」


『来タノ…トキが…もうオしマイ…もウ私の意識も…』


「杏樹!!」


しだいに薄れゆく杏樹の意識…


『オシまイ…モう…』


杏樹が右手が雅人に向けられ…突然巨大な衝撃波が襲いかかる…


「ぐぁあぁッッ!!」


さっきの衝撃波などまるで比べものにならないほどだった。


「ぐぁっ…あ…あぁ…!!」




『終わリダ…』


雅人すらあきらめるほどの絶望的すぎる力の塊。

まさに…時は終わりを告げようとしていた。



その時だった。




『…あ…ア…あぁ…』


いっこうに終わりの来ない夜の静寂…


「…な…んだ…?」



明らかにさっきの感じと違い杏樹の様子が違って見える…

何かに苦しんでいる…そんな感じだった。杏樹のその体は何かによって束縛され四肢の全ての自由を奪われていた。


その時…



「聞こえますか…雅人君…」


「杏樹…」

杏樹の口からその言葉が直接聞こえた…辺りは一瞬のうちに静まり返りさっきまでの悪夢がまるで嘘だったようにも思えた…



それほど杏樹の言葉は優しかった…



「もう…これが最後になります…彼女を…刻印を止めてあげられるのは…これが…。雅人君、最後にお願いがあります…」


辺りが静まった時…その言葉は伝えられた…






「お願い…私を殺して……」



たったそれだけの言葉だったが雅人には十分すぎるほど重くのしかかった…


『最後ニ…雅人君に言いタい事があります…』



最後に杏樹は笑って見せた…



『あリガとう……』

それが杏樹の…最後の言葉だった…


雅人はその体を起きあがらせる…

それと同時に体には力が入っていた…




辺りの空気が再び元のものに戻る…黒くよどんだものに…



そして…最期の時が静かに訪れようとしていた…




ジャ……


雅人は左足を一歩踏み込みそれから右手の爪を硬化させる…


雅人は今までになく自分自身が凶器へと変化していくのが感覚がした―


一歩一歩…数センチにもみたない一歩だったが確実に距離は縮まっていく。

その姿はまるで野獣だった…

ヴァンパイアと対立した時初めて分かった…自分はこういう生き物なんだと。



真夜中の月明かり…ただそれだけが辺りを支配していた…



そして対峙する…



「杏樹…」


雅人はそう言ったきり後は何も喋らなかった…

硬直しかけた筋肉が再び異常なまでの熱を持ち始める…

その金色の瞳には杏樹しか映らない。

爪はビキビキと音を立てその形状は爪から剣のように変化を遂げる。

背中の漆黒の翼は全体にまんべんなく血管のような筋を張り巡らしていく…




そして…雅人の獣は解放される。


雅人は目にも止まらぬような速さで飛翔する。

真っ直ぐ―真っ直ぐ…弾丸のごとき速さだった。人間などには反応すら出来ないだろう…


2人の距離は残り30メートルほどに縮まる…雅人にとっては数秒で届くような距離だったが、再び触手がその道をふさぐために立ちはだかり…そして雅人へと襲いかかる。


蛇行するように様々な方向から向かってくる狂気。


その一撃一撃を雅人は全て避ける事なく突き進む。

一撃目はなんとか当たる事なく終わった。だが…次の二撃目は肩部へと…三撃目は左腕へ…四撃目は左の下腹部へ…


今の雅人は恐怖や痛みの感情すらなかった…

ゆえに真っ直ぐ杏樹へと向かい駆けていく…



刻印は無言のまま球体から雅人の体長を軽く超えるような丸太のように太い触手を振るう。



雅人はそれを真上から直撃を受け球体手前に位置するビルへ叩きつけられる…


そして終わったと刻印は確信し攻撃の勢いを止める…


『……ッ!!』


雅人は真っ直ぐな目で杏樹を見つめていた…


『ナ…に…』


そこで刻印はありえない光景に動揺を隠せず声をあげる。


雅人は何事もなかったかのように立ち上がり再び翼を広げる。

ゆえに刻印は思う…少年の目はすでに獣と化している…


だから…少年は全てを終わらせようとしている。



刻印は初めて感じ取った…



これが…恐怖



確実にせまるその恐怖に耐えきれずさらに丸太のような触手を振るいおろす。



ザシュ…!!



『…ッッ!!』

その触手は鈍い音とともに地面へと墜ちる…

雅人の鈎爪には触手のものと思われる血液が滴り落ちていた…



それとほぼ同時に雅人は空へと駆け出した。



真っ直ぐ…距離はどんどん縮んでいく。


『ク…来ルナ…来るナ…!!』


刻印は両の手に貯まっている魔力を解放する…



漆黒の球体から無数の黒い針のような突出物が休む事なく吐き出される。

それは雅人へ向かい飛び交っていく。


雅人は右腕を前に掲げた…

次の瞬間、雅人はその右腕を振るう。




たったそれだけの行為で辺りにはけたたましい轟音と共に凄まじい衝撃波は走る…


たったそれだけの行為で…黒い針は全て存在自体なかったかのように消え去っていた。



『あぁあアァァあァア!!』


雅人に恐怖し刻印は間おかず触手を奮い立たす…



もう…それは全て無駄だった。


再び雅人が右腕を一振りするだけで全ては消え去っていた…


すでに刻印に戦う気迫は無くただ怯える形となっていた。



『いヤ…来なイデ…』


頭を抱え刻印は悲鳴に似た声を出していた…

もはやその姿には先ほどの悪夢のような光景は存在しなかった。


(分かってた…雅人君なら大丈夫だって…ねぇ…もう終わりにしよう)


杏樹の意志は刻印に語りかける。


『イャだ…いやダ…いヤだ…!!』


(苦しいんだよね…君も…でももう終わりだから…)


『アああ…ァぁあ…』


そして時はやって来る…



一閃…漆黒の球体に斜めに線が入る…そして勢いよく球体から紫色の液体が吹き出す。



一歩…また一歩と歩みを進める狂獣がそこに存在した。


『イヤ…いャ!!イヤダょ!!』


今までに体感した事のない狩られるという事。

もはやその空間に逃げる場所など無くただ恐怖に怯える。


理解し―そして絶望した。



終わりだと…



雅人が近づく音がする―いや、すでに雅人はそこにいた。


初めて体感する恐怖に刻印は泣き叫びそれを放つ…


『イゃあアぁァ!!』


その一筋の触手は雅人の心臓の位置に突き刺さり生命エネルギーを吸収しようとする…


だが…ソレはまるで意味をもたないかのように雅人の前では無力だった…



雅人は再び歩みを始める…そして杏樹の元へと辿り着く。


雅人は当たり前のような動作で両の手を掲げた。

その手の先には獣のような鈎爪がまがまがしくきらめく…


『……ヒぃ…』







禁忌の子としてこの世に生を持った生まれたその子は両親にその存在を恐れられ…そして殺された。


両親は村の掟に恐れ禁忌の子と処された幼き生を奪った。




その子は生きたかった…ただそれだけだったのに…



そして今…刻印の子は怯えていた。






『……イゃダよ…』

刻印は怯えていた…再び命を奪われる事に。


爆発する刻印の魔力…その残り全てを雅人に向ける。


それは槍のように鋭利で破滅的なものだった…


そのことごとくが雅人へと突き刺さる。



「がぁっ…!!」


それだけだった…


全ての魔力を持ってしてもそれは雅人の膝をつかせる事しか出来なかった…


もう刻印に力は残っていない…


もう終焉を待つ事しか…


ジャキンと音を鳴らし鋭い鈎爪を高々と掲げる雅人…


「杏…樹っ…!!」



一瞬…そこに存在する全ての者にとって時が止まったような感覚が訪れる。




そして…刻は動き出す…




雅人はその漆黒の翼を広げ全てを解放し爆進する

弾丸のごとき速さによって刻印との距離を一気に距離が縮まっていく…!!




刻は終焉へ向かう







『…イ…いゃダよ…イやだよぉ…』






そこで雅人の動きは止まっていた…




『…死にタく…なぃ…ょ…』






次の瞬間…



雅人は杏樹を抱きしめていた…




「もう…大丈夫だから…」


その温もりは聖母のような温かさであった…


それは杏樹の意志だろうか…刻印の意志だろうか…気がつけば杏樹は泣いていた…

天へと声を高らかにあげ…まるで赤ん坊の産声のような…まるで歌声のように澄んだ声で泣いていた…



「君も…怖かったんだよな…もうここは怖くないよ?大丈夫…」



そう…雅人は気づいていた…




刻印もその深き闇に怯えていたのだ…


戦い…交わって初めて知った刻印の子の痛み…



「君の痛みは俺には到底分からないかも知れない…だけど…」


雅人の抱きしめる腕に自然に力が入る…



「だけど…もう一人で苦しむ事はないんだ…

もう…怖くないから…」





夜空に輝く満月を刻印は最後に目を焼き付けた。


『……』



その言葉を最後に刻印の姿は消えていった…



徐々に元に戻っていく杏樹の姿…

その首もとには刻印のアザがうっすらと残っていた。


それはこの戦いの終わりを意味するには十分なものだ。


刻印は最後こう言っていたのを雅人は覚えている…



『ありがとゥ…』


刻印…いや彼女にとってそれは精一杯の気持ちだったろう…




「終わった…か」


そして雅人も夜空の光に照らし出された満月を見つめ…そして杏樹の姿を見た…



「おい…終わったぞ?起きろって」


反応が無かった…疲れて寝ているのだろう。

最初は雅人もそう思った…


しかし…



「杏…樹…?」



杏樹はそう…眠るように…


「お…おい!!ふざけんな!!起きやがれ!!」


雅人が叫ぶ、と同時に雅人と杏樹を覆う球体にヒビが入り…そしてガラスが割れるような音と共に崩れ去った―


「杏樹…!!」



手元を離れ力無く宙をさまよい落ちていく杏樹を雅人はとっさに決死の思いで捕まえる…

雅人は翼を広げようと力を入れる…

しかしすでにさっきの戦闘で全ての力を使い果たした雅人にはたったそれだけの事すら出来なかった…


「な…!!」


高速で地面へと近づく体…

雅人は杏樹を両手でガッシリと確かに抱え体を反転させる―



「…がっあぁあ!!」


恐ろしい勢いで雅人は地面へと叩きつけられる…


杏樹の体をかばってそのまま背中から地面に激突した雅人は、自らの四肢がバラバラになるようなほどの激痛が走る―


その痛みは今まで体感した中のどれにも勝るものだった。




「がっ…!!はっ…がっ…」



呼吸すらマトモに出来ないほどの痛みで一瞬意識が飛んでしまいそうだった…



「…っそ…まだ人間らしいとこが残ってたってか…?」


先ほどまでまるで感じなかった痛みが今になって再び蘇る…


「もう…動けねぇ…っての…」


全身の力が抜けていくような感覚…

もうこのまま自分は終わってしまうのだろうか…雅人はそれほどに思った。


「結局最後はこんなんかよ…」

ため息に近い息を吐き出し雅人はその終わりを待った…




そこでつかの間の時は途切れた…


雅人の薄れゆく視界の中にソレは映る―


「…ヴ…ヴァンパイアかよ…」


信じられない光景が雅人の目に焼き付けられる…

ざっと視界に映るだけでその数は50と下らない。


「じ、冗談じゃねえぜ…こんな体じゃ…」


自分の体を伺う…だがそれよりも先に自分の腕に抱いているその者を見ていた…


「杏樹…!!」


自然と拳に力が入っていた…

さっきのように爪は硬化せず今となってはヴァンパイア…いや人間以下ほどの力も残っていないのは雅人にもよく分かっている…


だけど―


「あぁああぁーッ!!」


雅人は勢いよく飛び出し足がもつれながらもヴァンパイア達に向かいボロボロになったその拳を振るう…



土埃や泥にまみれた雅人の体がまた泥に汚れる…

ヴァンパイアへ向けた拳は見事なほどに避けられ雅人は力無く転んだ。


「っらあぁっっ!!」


その後も2撃…3撃と休まずに振るい続けるが…結果は分かりきっている。


雅人はそのうち力尽き地面へと転がっていた…


「こんな…」


すでに立ち上がる力すら残っておらず雅人はその拳で土を握りしめ血を滲ませながら言った。


「こんな拳で何が守れるって言うんだよ…!!」


その問いにヴァンパイアはおろか誰も答える事は無かった…






一瞬…静まる空気…


それは初めて刻印と対峙した時のような感覚だった。いや…それ以上かもしれない。



ソレは突然姿を表した…

あるいは初めからそこにいたのかもしれない…


ヴァンパイア達はその姿を見るなり即座に片膝をついて完全に服従を意味する姿勢を保つ。



ソレはハイヒールの高らかな足音をたてながら雅人の前へとやって来た…



「まだ…戦うのですか…?少年よ」



漆黒の夜闇のように見事に塗りつぶされたような腰まである長い黒髪…

恐怖すら漂わせる妖しみを放つ金色の瞳から繰り出される笑顔の絶えない顔立ち…




それら全てがそれだけで雅人を恐怖させた…

全身に虫が張り巡らされたかのような悪寒…


それは紛れもなくヴァンパイア…その姿だった…しかし普通のヴァンパイアなどとは何かが…いや全てが違った…


「これ以上の戦いは何も生み出しませんよ…?少年」


その言葉が発せられると同時に雅人は再び地面へと叩きつけられた。


「がああぁぁっ!!」


指を動かす事すら許されず雅人は大の字で地面に拘束される…

雅人のその姿をマトモに見る事無くそれは杏樹の元へと歩む…





不意にソレは足に不可解な感触がする事に気付く…


雅人はソレの足を必死の思いで捕まえる。


ソレはまるで軽薄に雅人を虫を見下すかのように視線を合わせた。

振り払えばなんて事のない力だったがそうさせなかったのは雅人のその目だった…



「杏樹に手を出すな…」


まるで野獣のように研ぎ澄まされたその目は浴びただけで絶命しそうなほどだった…



「少年よ…何があなたをそこまで動かす…」


雅人は真っ直ぐな瞳でソレを見つめ答えた。


「…そんなの分からねぇよ…!!」


確かにさっきまでは分からなかったかもしれない…



だけど…今は答えはハッキリと分かっていた…


「俺はコイツの…杏樹や刻印の痛みさえ分かってやれてねえ…

だけどな…そんな俺でも一つだけハッキリ分かったんだよ…!!」


雅人は残った全ての力を振り絞り…そして立ち上がった。



そして…その言葉は辺りにこだました…






「俺は…杏樹が好きなんだよっ…!!!」



雅人は杏樹を左腕で抱き抱えソレへ対して叫ぶ…




『パチパチパチ…』


不意にこだまする拍手…


「立派になりましたね…雅人」


全く予想もしていない言葉だった…

それだけにその言葉が何を意味しているのかすら分からない…


「なん…で俺の名前を…」


「なんで…?そうですね…分からないのも無理はありませんね…」



全く意図が読めないその言葉に雅人はかなり戸惑いを隠せない…


心の準備すら出来ていなかった故に次に出てきた言葉は驚愕的なものだった…




「私はアナタの母です…雅人…」



雅人の思考が一時的に停止する…



「そう…あなたはヴァンパイアの息子…そして私はヴァンパイアの真祖…アルベリウス エル ヴィレイナ…」



何もかもが信じられない話である…

おそらく仮に街行く通行人100人に言ったところで誰も信じる事はないだろう…

だが…雅人はそれら全てを目撃してきたのだ…



「あんたの話を信じる根拠は…?」


「アナタのその姿…その力…それだけで十分じゃないかな?」


軽く笑って返事を返す…ソレに雅人は軽くため息を吐いて下を向いた。


「なんだよ…こんなとこなんかで感動の再会ってやつかよ…」

そして雅人はソレを…母を見て答えた…


「お帰り…そして…ただいま。母さん…」


「ただいま…雅人」


ヴィレイナは雅人を抱きしめた…それはヴァンパイアの真祖としてでわなくただの母としての行動だった…


「ごめんなさい…私がいない間にこんな事に…」



ヴィレイナは再び杏樹の元へと歩む。


「この事態を起こしたの者の名はシュベルヌ…我がヴァンパイアの部族の中でも群を抜く能力の持ち主でした…雅人、アナタと戦ったのが彼です。彼の勝手な判断でこのような事態に…」


そう言いながらヴィレイナは長い長い眠りについている杏樹へと手を翳していく…


「これは私に出来る唯一の償い…」


ヴァンパイアの真祖であるヴィレイナはその力を発生させる…

すると杏樹の体を纏うかのように白色の球体が包む…

それはまるで刻印の力によって杏樹を覆った漆黒の球体とまるで対を成していた…


ヴィレイナはそれに向かい息を一吹きする…そして杏樹を覆う白色の球体はガラスのように崩れ去った…


それはまるで生命の息吹きのように…




「まさ…と君…」


「杏樹…!!」


二人にはもはや言葉などはいらなかった…


「よかった…」


「ゴメンね…雅人君…私のせいで…」



雅人は杏樹を力の限り抱きしめる…


「大丈夫だ…もう…」


強く…


強く…


雅人は杏樹を離さなかった…



「…ちょっと申し訳ないけど割り込んでいいかしら?」


ヴィレイナのその言葉に二人は勢いよく離れ互いに顔を赤くした…


「あらあら…」



ヴィレイナは苦笑しながら言った…


「杏樹…アナタへと渡すものがあるの…」


「あな…たは?」


母はニコッと微笑みその呪文を唱える…


「ELris…vallelgalpretta…」


優しいその声から発せられる音色はまるで子守歌のようだった…


最初はその呪文に気づかなかった…だけど忘れるはずもないその呪文はあの日に…


そうそれは狼人族に古くから伝わるあの呪文だった…



「sametyvani…Les…」



そう…それの意味するものは…『転送』




「お…父様…」


杏樹の瞳から涙が溢れ出る…


「お父様…!!」


「杏樹!!」

幾度と無く夢見てきた親子の再会…邪魔するものは1人としていなかった…



「お前は…」


杏樹の父…エルンの視界にヴィレイナの姿が映る…



「あなた…!!」


ヴィレイナのその言葉に今度は杏樹までも…二人揃って固まる。


『えっ…』


ヴィレイナは軽く微笑みかけ二人へと伝える。



「あら、二人には伝えてなかったわね…私達はそう、夫婦なの…そしてアナタ達は…」


『ちょっ!!ちょっと待っ…!!』

次の言葉は大体予想が出来た…そして二人の思考は同時に停止する…




「兄妹なの」



いきなり告げられた真実はあまりにも過激的で残虐的なものだった…




「雅人君、いや…雅人。この度は本当に迷惑をかけた。すまない…」


「私からも謝るわ…今回の悲劇は私の耳に入ってなかったとはいえ…これについて私は全責任を負います」


「イヤ…イイデスヨ!!」


雅人の脳内は酷く混乱していた…

当たり前の事と言えばそうだったのだが…

幼い頃からいなかったと思っていた両親が目の前にいる。


そして目の前にいる男は父であり狼人族の長で…とりあえず狼男なので人間ではない。そして杏樹の父親である…


母は母ですべてのヴァンパイアの頂点に立つ真祖であり、こちらも人間ではない…

二人は雅人の両親であり、そして杏樹は…



(あぁ〜!!もうワケわかんねぇ!!つまりはあれだろ!?あれなんだろ!?俺と杏樹は…!!杏樹は……)


そこで雅人は考える事が出来なくなった…


思わずさっき自分の口から出た言葉に冷や汗が止まらなくなり顔が赤くなっていく…


(…こりゃどうしようもねぇな……)


杏樹の様子を見る…


(うわっ…ひでぇ…)

杏樹は頭から白い煙を出し目をまん丸くし口から何か…魂のようなものが今まさに飛び出そうとしていた…


「お…おぃ…杏…」


「はっ!!はひっ…!!」


思わず声をかけたが結果は分かりきったものだった。

杏樹は雅人の言葉に即座に反応し体をビクつかせ再び目を丸くした。


「もう私達がいない方がいいみたいね…あなた」


「あぁ、邪魔みたいだしな…それでは失礼しようか」

『えっ…!?』


それからのヴィレイナの行動は早かった。


辺りへ空気圧の壁が作り上げられ…瞬間…巨大な翼が轟く。


「もうお邪魔みたいだから失礼するわ。あとはアナタ達が話し合いなさい」


有無を言わさず突風が雅人を阻む…


「ちょ…ちょっと!!これからどうしろと!!あんたら!!」



ヴィレイナはその問いかけに憎いほど爽やかに笑っただけだった…


それと同時に巻きあがる砂埃…

それが止み終わるころには全てのヴァンパイアや父、母の姿は全て消えていた…



そこに残っていたのは…


「……どうしろと?この状況…」


そこには目をキョロンと丸くした杏樹と雅人しかいなかった…


「おいおい…冗談じゃねぇぞ…周りの建物も崩壊してるし俺らだけじゃ――って眩しっ!!」


気がつけば夜が明け太陽の光が差し始めていた…

荒廃したビルや地面に光が灯り始める…


そう…それは生命の光…


『あ…』


雅人と杏樹は同時に声を合わせて言った…

その瞳には奇跡が映っている。



もはや廃墟同然と化したビル群の残骸の全てに光が灯ると同時にその形成を修復していく…


「わあぁ…」

杏樹は魔法を見るかのように不思議な光景を目に収めていた…


薙ぎ倒された木々は元に戻りその緑を取り戻していく…



たった数秒の事だったろうがそれはまるで何分、何時間にも及ぶような光景だった…


全てが元通りに戻った頃雅人は杏樹の元へ歩き出す…


「まっ…雅人君!?」


「ほら……早く掴まれよ…」


雅人は杏樹へ右手を差し出した…


「ほれ…早くしろって…ハズいだろ…」


鼻頭を人差し指で押さえ顔を隠す雅人の姿に杏樹は笑いを隠せず思い切り…笑った…



「っと…笑うなって!!笑うなよ…!!」


「アハハハ…フフフ…アハハハッ!!」


「いや…なんつーか笑いすぎ…」



ゴンッ!!



「ったぁ〜!!雅人君…何すんの!?」


「悪い…何かイラッと来た…」


「む〜……」


しばらくほっぺをフグのように膨らました杏樹だったが…次には笑顔で言った。


「行こっ!!」


「おぅ…」


雅人はそれだけ答え杏樹の手を取った…




この一夜限りの…おそらく世界をかけた戦いの物語の真実は誰も知らない事だろう…


そしてそれは後世にも伝えられる事は無い…



だけど…




二人は歩き出した…




光の指すほうへと…






お疲れ様でした…よく読んで下さいました〜(>_<)

ほんとヘタレ作者でスミマセン…

さてこのお話もあと1話でとりあえずおしまいです!!

ラストまで読んで下さる心の広いお方…いてくれればいいな…とりあえず私も最後まで一生懸命頑張ります!!


Rev crazy dreamでした!!

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