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第9夜 ー刻印ー





(雅人君!!どこかに遊びに行こうよ!!)


アパートのチャイムを鳴らしながら孝太郎はウキウキしていた。


(だぁー!!うるせぇ!!今何時だと思ってやがる!!)


(何時って…もう午前の10時だよ?雅人君ってもしかして夜型の人間?)



ドアを蹴り飛ばし出てきた雅人に怯むことなく孝太郎は問いで返事を返した。


(って、うるせぇよ!!俺が何時に起きようと勝手だろ!?)



(雅人君ってミイラかヴァンパイアみたいだね。朝日を浴びたらヤバいみたいな感じが…)


(…一言二言お前はいっつも多いんだよ!!しかも俺がそういうホラーが嫌いな事知ってていうんじゃねぇ!!)


(雅人君かわいいなぁ〜)



ボゴッ!!




孝太郎の頭に拳が振り落とされた…



(った〜!!…痛いょ〜…雅人君)


(二度と可愛いとか言うなよ?

それと君って付けるなっていうこと忘れたのかよ?)


(え…あ…ゴメン!!…ゴメン!!雅人!!)



孝太郎が謝るその前に雅人は孝太郎のこめかみをグリグリグリと痛めつける…




ギャ〜!!と悲鳴があがったのは無理もない…




(で…どこいくんだよ?)


先ほどまで赤々となっていたこめかみを押さえていた雅人は待ってました!!と言わんばかりの反応速度で立ち上がった。



(あっ!!それなんだけど、いつもの公園行こうよ!!)


(げ…またあそこかよ!!坂登るのだるいっての!!)



明らかに拒否反応を見せる雅人とは正反対に、孝太郎はこれでもばかりかと言わんばかりに瞳を輝かせながら雅人の腕を引っぱる。



(今日は絶好の観測日和なんだよ!!雅人!!)


(って…おわっ!!引っぱるな!!俺まだシャツすら着てねぇっての!!ちょ!!ちょっと待て!!

ちょ…なんでお前、こんな力あるんだよ〜!!)




嫌がる雅人、喜ぶ孝太郎…



人は無くした物を追い求める…


たとえ戻らないとわかっていても…



だけど…人は思い続ける…







「…雅…人」



しばらくの間長い夢を見ていたらしい…雅人と遊ぶ夢を…



(そっか…あの日もここで遊んだんだっけか…)



この公園は街の高台にあり雅人の家から2キロと離れていない。



そして長い間2人で遊び続けた思い出の場所でもある…



「さらわれたんだよね…」


力無く孝太郎は呟いた…


1人呟いたつもりだった…



「そうだょ〜♪君は俺達に拉致られたんだよ〜♪」


突然帰ってきた返事…それは後ろから聞こえてきた。


「起きたんだ〜♪孝太郎く〜ん♪」



あくまで陽気な声…その声は聞き覚えがあった…



「あなたは…あの夜の…!!」


声の主か徐々に近づいてくるのが分かった…



(あ…あ…逃げなきゃ!!)



あの夜…孝太郎はこいつらにさらわれた事を思い出す。


そう…人間じゃない何かに…




そう考えると逃げなきゃいけない事はすぐにわかった…



(早く逃げ……)


体が動かない事に気づく…暗闇で今まで分からなかったが…ようやく自分のたたされてる状況に気づいた…


全身を覆い尽くす…黒い固まり…



「動かないほうがいいょ〜♪そいつら動いたら一瞬で血を吸い取っちゃうから♪」



一度思考が固まったがすぐにソレを理解した



「ひっ…!!」


まるで全身の神経のようにビリビリと這うのが伝わってくる…


それは血に飢えたコウモリの群れだった…



(雅人!!雅人!!)



その瞬間…視界が暗くなり目の前に人が立ったのがわかった…



「雅人!!」


思わず叫んだその先には…



「やぁ…孝太郎君?」


茶髪の髪…そして口元から大きくはみ出た長い牙に爪…そして天をも隠さんとする程の大きな翼。



ようやく分かった…



「あなた達は…ヴァンパイアなんですね…」



「ようやく分かったんだね♪」



目の前に広がる現実離れした光景…そしてヴァンパイアの陽気な声がさらに孝太郎の恐怖心をあおる…


「じゃあ君のたたされてるいる状況も分かってるよね?」



孝太郎はその言葉の意味を理解した…全身を覆い尽くすコウモリの群れ…そしてヴァンパイア達。


「人質って事ですか…?」


孝太郎のその問いにヴァンパイアは笑って答える…



「う〜ん…ちょっと違うかな?

君が居ることで雅人君はここに来る…

俺は雅人君に会いたいんだよ…

俺は雅人に会いたい…雅人に…!!」



徐々にヴァンパイアのその顔は狂気へと顔を歪めていく…



「さぁ…雅人に会わせてくれよ…さぁ早く!!」


そう言いそのとがらせた爪を孝太郎の頬へと滑らせる。


それだけで孝太郎の頬は綺麗に切り裂かれ鮮やかな紅が月夜に映し出される…



「ああぁ…我慢出来ない…狂おしいよ…さぁ雅人!!来ておく―」




そこでヴァンパイアの言葉は途切れた…


そこには…




「雅人…!!」




孝太郎がそう言うと、雅人の黒髪が月夜によって照らし出される。


満月がそこに存在するもの全てを照らし、また潰れそうな静寂がその場を支配する…




そして今…雅人は対峙する…




「さぁ…雅人…始めようか…」







「雅人…よかった…」



孝太郎は今にも泣きそうな顔をしている…



「ごめんな…孝太郎…今、助けっから…」


孝太郎へと慈愛に満ちた顔で見ると同時に杏樹に声をかける


「杏樹…すぐ終わらせるからな…もう大丈夫だ」


「…まさ…く…」


今にも意識が飛んでしまいそうな様子の杏樹に雅人はポンと頭を撫でる…




「大丈夫だから…」


「…うん」


杏樹は力無くその場にもたれかかるようにして倒れる…


瞬時に腕をその体に添えてゆっくりベンチへと降ろす。



「俺が…守るから…」


そう言い終えると雅人は拳を強く握り締め視線の先に存在するヴァンパイアへと異様なまでに鋭い眼光を向ける…。


大概の人はそれだけで命を奪えるほどだった…

そしてそれぐらいの覚悟で雅人はヴァンパイアへと向ける…


まるでそれは獣の眼だった…




空気が沈黙を表す。


そう表現するほどの静寂が孝太郎までを襲っていた。




その静寂を断ち切ったのはヴァンパイアの声だった…



「あぁ…幸せだよ…雅人…俺は今幸せだ…!!」



ビキビキと音を立ててヴァンパイアの爪と牙が異様なまでに伸びていく…


そしてその大きな翼は砂埃を竜巻のように巻き上げ視界いっぱいに広がっていく。




自然界では相手に自分をより大きく…より強く見せるためそのような行動に移る…テレビで学者はそう言う…




だが…目の前で繰り広げられる光景は違った。



無駄なく…そして一撃の元に相手を捕食する…

そんな自然界のルールにのっとった構えである。



おそらくあと一瞬のうちにどちらかが動き…そして決着がつくだろう…




深く…そしていつでも行動に移せるよう深呼吸する…

額に一滴の汗がにじむ…


雅人の体全体に緊張が走る…次の瞬間には全てが動く…そう分かって腕の筋からピリピリしていく…



日本刀を改めて握り直す…


そう…時が来る…今までとはまるで違う…


殺意と殺意がお互いぶつかり合いそして殺し合う…


手がピクリと反応した…




その時だった…




先に動いたのはヴァンパイアだった。


ヴァンパイアはその大きな翼をムチのようにしなりあげる…


その瞬間驚異的なスピードで翼に弾かれた小石が弾丸のように襲いかかる…


それを雅人はサイドステップの要領で避け……




一瞬の出来事だった……



ヴァンパイアは小石を布石にし、雅人の死角へ潜り込んでいた…



「いただきだょ…」


迫り来る狂気の固まり…

雅人はそれを真正面で受け止める―



「ジャアアアー!!!」



この世のものとは思えない叫び声をあげてヴァンパイアは力の全てを預ける…



その力の差に最初に反応を見せたのは日本刀だった。


すでに刀身にはひびが入ってきておりいつ折れてもおかしくない…



雅人は悲鳴にならない声をあげながら力の全てを受け止めている…



「く…っそがぁー!!!」



驚異的な力で絡みついたヴァンパイアを払うよう日本刀を振り上げる…



瞬間にヴァンパイアはそこから離れ距離を取る…




雅人は理解する…次が最後の瞬間だろうと…



「へぇ…なかなかやるんだね。人間でも」


その言葉が示す通りヴァンパイアの頬には一筋の鮮やかな赤が月夜に映えていた…

それでもヴァンパイアは恍惚の笑みで雅人を見つめる…



「君に出会えて嬉しかったよ!!だけど…君は人間。俺はヴァンパイアだからね…違う形で会ってれば…か」



再び捕食者の構えになる…全身を覆う筋肉がビキビキ音を立てて直にその時を知らせる…



「じゃあ…終わりにしようか…」




刹那…爆発…一瞬にして舞う砂埃。



確実にこの世のものとは思えない速さで時は動き出す。







ヴァンパイアの放つ鋭く刃物より鋭利なその爪は雅人へと一直線に向かう。

狙うはその雅人の肢体…



弾丸より真っ直ぐそして正確な攻撃は雅人を捉えー


そこに確実にいた雅人の姿はなかったー


そして時は来る…




ズ…



確かにそんな音がした…



有り得ない方向からである。

音がしたのはヴァンパイアの腹部。


「一瞬…」


有り得ない方向から響く雅人の声…



「ほんと…一瞬だったな。」



ヴァンパイアはニヤリと笑い


「そう…みたいだ」




一言そう呟いた…


ヴァンパイアは雅人の言葉に答える…もしくはそれは自分自身に向けた言葉だったのかもしれない…



雅人は日本刀を振り上げた…



同時に神経や筋肉組織が引き裂かれる鈍いが音がする…


そしてそれは砂埃と共に脆く崩れ落ちた…


雅人は夜空へと顔を向ける…丁度雲で隠れていた満月の姿が露わになっているところだった。


そして先ほどまで生死をかけた闘いの相手が月夜によって静寂の姿を照らしている…


そしてその体は砂埃のように崩れ…宙へと舞い散った。



それが終わりを告げていた…







もう片方のヴァンパイアの姿は既に消えていた…


雅人は真っ先に孝太郎の元へと向かう。


全く人外な出来事だらけで雅人の体は限界に達していた…

足はおぼつかなく既に千鳥足になっている…


ついに自体重を支える事が出来なくなり雅人は倒れる…




「…と!!」


(うるせぇよ…でけぇ声出すんじゃねぇ)



「…さと!!」



(怒らせるのもいい加減にしろよな…俺は疲れてんだよ…)



「雅人!!」



「あぁ!!うっせぇ!!何度もおっきな声で叫ぶんじゃねえ!!孝太郎!!」



そこには顔中を涙と鼻水で溢れさせた孝太郎の姿があった。

「ゴメン…本当にゴメン…」


「怪我…ねぇかよ…」


「うん!!」


孝太郎は涙を拭い応えた。

雅人はそれに笑顔で答える…







「あ…動かないで!!雅人!!」



雅人は大事な事を思い出す…


「んな事言ってらんねぇんだ…悪い…俺、杏樹のとこ行かなきゃ…」



「まさー」



「オバサン…心配してたぞ?早く行ってやれよ…」



それ以上…孝太郎は何も言わなかった…


「ありがと…雅人…だけどさ…ちゃんと生きて帰ってきてよ…」


孝太郎はすでに気付いていた…この闘いが人が関わっていいモノではない事を…


どうしても不安を隠す事が出来ず雅人のそばへ駆け寄る。



「ねぇ…雅人。絶対帰ってくるよね…僕…雅人がいなきゃ…」



ゴンッ!!



「いったっ〜!!!」



「おい…孝太郎。俺は誰だ…?」


「え…」



雅人は拳を孝太郎の胸へ押し当て優しい声で言う…



「俺は山本雅人だぞ…?俺がケンカで負けたの見た事あるか!?」



それだけで孝太郎はその言葉の指す意味を理解した…



全てを納得した孝太郎は足早に待つ人の元へ向かう…



雅人はその姿を見送りそして歩き出す。


「雅人!!」


孝太郎の突然の声に振り返る。


そこには親指を立てた右手を掲げる孝太郎の姿があった…



フッ…と軽く雅人は笑いそしてそれに応えるように…



「負けねぇよ…」



親指を高く掲げる…


親友を信じた故の行動…孝太郎は雅人の全てを信じその場を後にした…







「てか…なんて最悪な日なんだろな…ありえねぇ」



ひびの入った日本刀を杖の代わりに雅人はおぼつかない足取りで進む…


そして気がつけば杏樹の元へとたどり着いていた…

まるで例えれば白雪姫のように眠る杏樹。その姿は神秘的な雰囲気さえ放っている…



「おい…杏樹。終わったー」



声はそこから出せなかった…

何か異様なモノの存在を感じたからだ…


それは先ほど戦ったヴァンパイアともあの狼の姿の杏樹でもなく…全く異質なモノだった…



「おい!!杏樹!!」


思い切り杏樹の体を揺さぶる…だけど期待に答える事無く全く反応はなかった…




そしてそれは姿を現す…



首の刻印が黄金色にまがまがと光り始める…


そして杏樹の体は赤黒い闇の光に包まれるとともに宙へと浮いた…



「杏樹!!くそ!!おいっ!!杏樹をどこに連れてくんだ!!」



雅人はソコに存在しないモノへと罵声をあげる…


次第に杏樹の姿はそのまがまがしいオーラを掌握しようとしていた…



「クソっ!!杏樹!!あんー」






雅人の体に走る違和感…それはすぐに理解出来なかった…



「え…」


やっと回ってきた痛み…それは丁度左胸の位置からだった




「なん…だよ…これ…」


胸へと突き刺さる黒く巨大な何か…


それは杏樹の体から生えているようだった…



「あ…ん樹…?」




大量の吐血…そして左胸から絶え間なく溢れ出る血液…


雅人はまさに今起きてる事態を理解する事無く力尽き…そして倒れた…







(終わり…か…案外あっさりしたもんなんだな…)



体中が冷たくなるのが自分でもハッキリと分かった…



(ごめんな…姉貴…孝太郎…)



そして…自分が守りきれなかった者の名前がふと頭によぎる…



(杏…樹…)




そこで雅人の意識は途切れた…







少女は立ち上がる…


無垢なるその瞳は鮮血の朱へ…まるでこの世の終わりを示していた…




体に纏いしそのオーラはまがまがしく赤黒く輝きだし、周りの草木にわたる全生命のはかなき命をことごとく喰らっていた…



ふと、少女の瞳にかの者が映る…



「……」



その瞳に映るのは1人の少年だった…



少年は何も語らなかった…

そして少女も何も喋る事はない…




今の少女には何の感情も存在しない…



それでも少女の心の断片には少年の記憶があったのかもしれない…



「……」



少女の瞳からはなぜか涙が出ていた…

なぜそんなものが出ているのかは少女にも分からない…



「……」



そしてその涙は瞳と同じ朱に染まる…



「ぁぁア…」



そして少女の全てが砕け散る…



「アアァ…ァアあぁアアアぁあアー!!!!!」



真っ黒な光が少女を包む…

それは真夜中の暗闇より暗かった…



少女の悲しみにも似た悲鳴が辺りにこだまする…それはまるで死へといざなう歌声だった…






そして刻印は解放された…







雅人はもう起き上がる事はなかった…


辺りに叫び声がこだまする…


だか雅人がそれに気づく事はない…




しばらく叫び声が響いていた…



そして一変し静寂が訪れる…






雅人の頬に伝う、かの少女の朱に染まって涙。




その涙は何かに動かされるかのように不意に雅人の頬を垂れ始めた…




そして………










満月はただ輝き…満天の夜空の星を見つめる。



その星々は音を立て砕け、そして地へと落ちた…




え〜と…まず…すみませんm(u_u)m


更新が遥かに遅くなってしまいました…(>_<)


予想以上にまいった作者です!!

ホントマイッタ…(*u_u)

お許しを…(>_<)



あと…こんなに遅れたのに読んでくださった皆様…大変感謝感激です!!



あと少しですのでこの哀れな作者にどぅか…最後までお付き合いください!!


宜しくお願いします!!


何かとお騒がせな作者でした(>_<)




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