Disc4
願いを託した紐は結局、最後まで切れなかったな。目の前にかざした腕に、灰が積もっていく。
「ほら、起きて! しっかりしろ!」
これまでの彼からは想像もできないような、力強い呼びかけで起こされる。
まただ…。会うたびに髪型も服装も違う。
もうほとんど他人だぞ。
「だいじょうぶ?」
いつかと同じように、そう言って顔を覗き込んでくる。
数ヶ月前のことのように感じるが、プレイ時間で言うと二百時間くらい前です。
「だいじょばないです…。」
ライバルは主人公より先に敵陣へと斬り込むもの。そして、主人公が駆けつける前に敵を殲滅し、代わって主人公に立ちはだかるものと決まっている。
みたいな事を考えながら、地面に仰向けに倒れていた。
三階建てのタンコブが痛い。鼻血も出てる。
「黒龍は依代を捨て実体化し、世界を焼き尽くそうとしている。俺はその信者を名乗る者にやられて、この様だ…。」
気をつけろよ。敵は強いぞ。
霊山の麓の森の中、植物は全て熱で枯れ、炭となった裸の木々が、乱雑に地面から突き出している。
この世の地獄のような光景。
山頂では消えかけている護摩の残り火と、黒龍の口から垂れる火炎が競り合い、振り注ぐ灰で地面は雪もないのに真っ白になっている。
「結局、ライバルなんて関係を持ち出す奴が先に散っていく。わかってたのにな…。」
追い越せるものだと思っていたけど。
最後まで追いつけなかった。
「俺とお前じゃ、頑張っても結果が違うんだよ。」
それだけ言うのが精一杯で、体力も尽きて、そのまま意識は暗い方へと落ちていく…、かに思われた。
「わかったから、起きて。」
鬼かお前は?
両腕を乱暴に引っ張られる。全体重で抵抗するが、持ち上げる力が強く、振り回されるので仕方なく起きる。
「おーきーて。」
「はい、起きます! 起きます!」
満身創痍なの! 俺は!
見たらわかるっしょ!
「君が諦めたら、物語はここで終わってしまう。君が主人公なんだぞ。」
「えっ…。」
予想もしなかった言葉をかけられ、返答に迷う。
長い旅の中で、いつも一歩先を行く彼の背中を追いかけてきた。いつも予想しない場所で出会い、何度挑んでも勝ち越せることは無かったが。
「俺はお前のライバルのつもりなんだけど…。これでも。」
「ありがとう。こちらこそ。どっちが先に旅を下りても、この関係は終わりを迎える。
お互いにライバルであり、それぞれの旅で、お互いに主人公だよ。」
普段から眠そうな目で世界を見ている彼の、珍しく眩しいほどの笑顔が見れた。
そんな顔して笑うんだね。後ろから追い回すだけじゃなく、たまには隣に並んで歩けばよかった。
「一緒に戦おうよ。」
「って言われても…。」
こちらは膝が震えている。
「あ、そうか。回復アイテムの柿たくさんあるから食べていいよ。」
そう言って彼が手にしていた錫杖を地面に立てると、それは瞬く間に大木へと姿を変える。
零れ落ちそうなほど実っているのは、程良く熟した食べ頃の柿だ。
「そこに999個あるから。」
罰ゲームかよぉ。
「状態回復もドーピングも上限数あるから、貸してあげるよ。」
これだけレベリングしていたら、回復アイテムが上限数も必要になること、絶対ないと思うのだが。
「なんでアイテムを持てる上限数まで買うの?」
「お金が余ってるから、つい…。」
腹立つな、こいつ。
「初回購入特典でDLできる冒険補助セットが豪華だった。」
努力外の収益が潤沢しすぎている。
開幕DLCバフ付きお手軽冒険なんて、クソだ。




