Disc3
行方不明だ。
足取りが途絶えて数ヶ月になる。
「できれば、ここに来たくなかったが…。」
粉雪舞う薄暗い町並みを、一人駆け抜ける。
どこに視線を向けても人は見かけないものの、明かりが灯る家からドアベルの音や、ショーウィンドウを賑やかす話し声、時折ベンチに見かける白い影など、何かの気配はずっと感じている。
あの世とこの世を繋ぐ境界の町、ウシミツドキシティ。彼が行くと言っていたから。
(ここじゃなかったら、もうわかんねぇよ。もっと先…? それとも、どこかで…。)
嫌な予感が心臓を締め付ける。吐く息が白くなって、すぐ闇に消される。
黒龍は人を操り、世界を破壊へ誘う計画を企て、大きな組織を形成しつつある。「参列者」と名乗る幹部クラスをいくつか潰したが、黒龍に取り憑かれた黒幕へはまだ辿り着けない状況だ。
(あいつが負けてるはずないのに、なんで…。)
不安に駆られ、気がつくと足下へ視線を落としたまま走り続けていた。
現在地を確認しようと顔を上げたところに、真っ白なシーツを頭から被ったような、分かり易いオバケが浮かんでいる…。
「で、でたあぁあ!」
でたあぁあ!!
叫んで逃げようとしたところ、腕で絡め取るように引き寄せられ、近くの路地へと引きずり込まれる。
口を塞がれて恐怖に血の気が引いた。
(オバケ…! あっ…敵…!?)
どっちでも詰みだ。
腰の刀に手を伸ばす。遅すぎた。後者なら抜刀と同時に首を掻き切られるだろう。
(やば…! こわ…)
しかし耳元に囁かれる声は、そのどちらとも違うものだった。
「こんばんは。」
随分懐かしい声のように感じる。
「あっ…。」
やっぱり、いるじゃないか。
その声の主は、探し求めていた人物。この世界の主人公だった。見上げると相変わらず眠そうな目が見下ろしてくる。
伸ばしたままだった髪は、バッサリとショートにしたようだ。背が伸びたんだね、成長期くん。
「お前っ…。」
慌てて少し距離を取る。悪戯な笑みを浮かべて、彼は確かにそこに立っていた。無事だ。
「この町には来るなとあれほど…!」
直前に怖い思いをしたので泣いて訴えると、
「この町には来ないってあれほど言ってたのに…。」
と、驚きを通り越して、呆れを通り越して、感心したような声が返ってくる。
「お前が姿を消すから、仕方なく…!」
「あぁ、ごめん。ウェブの方のハロウィンイベント走ってた。」
そーゆートコあるよね?
「ログイン数ヶ月前表示だし、マルチ申請スルーだしっ…。容量多すぎてアンストしたのかと…!」
「泣かなくても…。」
「泣いてねぇし!心の汗だし!」
「汚な…」
やめろ。そんな言い方される筋合いねぇわ。
「どうしても欲しいアイテムがあったんだ。ごめんね。」
全くごめんねと思っていない棒読みの謝罪。
刀は腰に下げたまま、彼はイベント報酬の錫杖を見せてくれる。金色の装飾を町のオレンジの灯りが照らし、燃えるように輝いている。
「自分で真言を読んで、護摩の炎を焚いて、龍を封じれば、余計な強化アイテム集めなくて済むから。」
ストーリー攻略の必須スキルを一体に詰め込むやつ!!
「装備買うのも素材集めるのも面倒だからって、イベント加入型の仲間を置き去りにしていくなよ!」
「少数精鋭でやりたいんで。」
「友達なくすよ??」
「大丈夫。落ちてるもの食べなから行くから。」
スキル詰め込みすぎて回復入らないので、アイテム酷使しつつ、レベルで叩こうとしている。冒険のプロすぎるだろ。何がこの子をそこまで急がせてるの。
「来月配られる数珠取ったら、メンスト戻るから待ってて。」
主人公の入念な準備に待たされるメインストーリー。世界の外でイベント走るなんて。
ウェブイベントなんて、クソだ。




