木枯らしの帰り道
茜色の空から北風が吹いて、畦道の枯れ草をさらっていった。
田園の向こうから、冷気を含んだ強い風がビューッと音を鳴らしてメロディーとなり、町へ降りてきて冬の始まりを告げる。
チコは買い物袋を片手に、足を止めて空を見上げた。番のカラスが電線にとまって、彼女を見下ろしている。
今日も家から徒歩十分のビニールハウスで、日の出からキュウリの収穫と管理作業を一人で済ませ、馴染みのスーパーで買い物をした帰り道だ。以前は祖母と二人で朝から晩まで、おしゃべりしながら分担作業で働いていたのだけど。
軽トラック二台がなんとかすれ違えるくらいの道幅の対向から自転車が近づいてくる。
「チコちゃん、こんばんはー」
ご近所の華子さんだ。
「こんばんはー。寒かけん、気ーつけてー」チコは顔の前で小さく手を振った。
彼女も笑顔でチリンと鳴らすと、手袋をはめた手を上げて走り去っていった。
三年前の同じ日、祖母が心不全で息を引き取った。
いつだったか、農作業を終えて肩を並べて帰っていると、「今年も冬の始まったね」と微笑を向けてきたことをチコは思い返していた。木枯らしが辺り一面を強くなでていた。
「おばあちゃんは冬、好きよね」
「冬の始まると、人はあったかさば探して寄り添うけん」
チコは身をすくめて襟元に手をやると家路を急いだ。今日は祖母が好きだった、わらび餅を買ってきた。
キュウリの生育は夏場、特に早く、一日でも収穫を怠るとゴーヤ並みの大きさに巨大化して規格外となり、売り物にならなくなる。チコは去年、三十九度の熱が出た日があったが、ふらふらしながら、他の作業はすべて放棄して収穫の為だけにハウスへ行った。いつもの三倍以上、時間がかかった。あんな経験はこりごりだったので、日々の健康管理には栽培期間中は特に気を使っている。
一人仕事になってから、キュウリは年二作から一作にした。木枯らしの季節にそれは終わりを告げる。野菜としての自然耐寒はここまでだ。朝から収穫、前日に箱詰したものを出荷して、つるを下ろしたり摘葉したり、十日に一度は消毒など、することは単純だが作業項目は多い日々が終る。
一人では広すぎる家に帰宅した。チコは買い物袋を下ろして上着を脱ぐと、手を洗ってお皿に移したわらび餅を仏壇に供えると、手を合わせた。
「おばあちゃん、今年もまた冬の来たばい」笑顔の遺影に話かけた。
冬は嫌いじゃない。一年で一番、祖母を近くに感じられる季節だから。




