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ユートピアの亡霊  作者: サンファイト
9/11

立役者の命運

「~~~♪」

スマホのアラーム音で目が覚める。


時刻は午前8時


「あぁやべ、寝落ちしああぁ…首がいてぇ」



今日の具体的な計画も決まってない。


スマホを確認すると、なぜか青島記者から不在着信と複数のメッセージが届いている。


(何事だ…)


メッセージアプリを開いてみる。


「まじかっ」


そこには青島記者からのメッセージがずらりと並んでいた。


「このニュース見たか?」

「システム反対派が昨日同様、デモをするらしいが事前の声明によれば、昨日と比べて参加者が大幅に増えるみたいなんだ」


俺は朝から感極まる。


あれほど世界一邪魔だと思ったデモはなかったが、今日は真逆だ。


「頼む、過去一番大きいデモになってくれ」


あまりに身勝手だが、これが世界を本当に救う残された手段だった。


「おはようございます。やりましたね!! もし今日、お仕事お休みなら一緒にデモの様子を見に行きませんか?」


「今日は休みだし俺も参加するつもりだ。よかったら一緒に行かないか?」


「もちろんです!」


「確か今日はホテルで泊まるって言ってたよな。場所を教えてくれないか?迎えに行くよ」


「わかりました!よろしくお願いします」


俺は身支度とホテルを出る準備を足早に済ます。



ホテルのロビーで青島記者と合流し、徒歩で様子を見に行く。


昨日の反省を踏まえて今日は公園で集合した後にデモ活動を行うらしい。


声明文に書かれていた公園に着くと驚きの光景が目に入る。


そこには既に溢れんばかりの人が集合していた。


見渡す限り人でいっぱいだった


大きな公園にもかかわらず、演説台の周辺らの人口密度は異常ともいえる状態だった。


しかも、今日は日曜日。休日ということもあり、普段以上に人が集まっているらしい。



この集会のリーダーらしき人物が演説を始める。


「皆さん。今日はシステムが導入される前日、つまり我々に残された最後のチャンスの日なのです。力の限りを尽くして、このシステムの導入を阻止しましょう」


続けて

「昨日は私も驚きました。突如あのような号外とともに、あの恐ろしい映像が公開されたのですから。あの映像を作った本人とぜひ会ってお話をしたいものです」


(ここにいるんだけどなぁ)


なんだか有名人になった気分だ。


すると青島記者が俺の肩を軽いて俺をそそのかす。


「せっかくなら、壇上に上がったらどうだ?」


「いやいや、やめておきます」


正直恥ずかしかった。


しかし青島島記者はたたみかける。


「こんなチャンス絶対ないぞ。ここにいる人たちはシステムの反対者たちだけれど、君が壇上に上がることでことで変わることもあるはずだよ」


正論だった。むしろここで見せなければ、どこで見せるのか。


恥ずかしいなどと悠長なことを言って、この絶好の機会を逃すのはあまりに勿体ない。


俺は右手でまっすぐに挙手をした。


「おや、そこの手を挙げてる君、学生かな?よかったら前に来てよ」


演説者の声でみんなが道を開ける。


俺は檀上の足元で先ほどの演説者にこう伝えた。


「あの映像を作ったのは私です」


俺の周りにいた人は声を上げた。


「本当か!ぜひ壇に上がって一言挨拶をお願いしたい!」


「お願いします」


俺は即答した。



壇上に上がる前に司会者の人が俺のことを紹介してくれることになった。


「彼は大学生の東雲君で、昨日突如として公開された映像の制作者でもあります!」


会場のどよめきが聞こえる。


そして俺はみんなに注目されながら壇上へと上がり、マイクを受け取る。


「はじめまして。東雲アサヒと申します。紹介にありましたように、私があの映像の制作者です」


そして俺はこの研究を始めた経緯や、このシステムを作ったのは俺の先輩であることなどをすべて包み隠さず話した。


「そして最後になりますが、今日はこの国の運命を正しい方へ戻すことのできる最後の日でもあります。全力を尽くしましょう。以上です」


俺が壇上を後にすると同時に大きな拍手が沸き起る。


壇を降りたところで青島記者が待っていてくれた。


「君のあいさつ良かったよ。心を動かされた人も多いはずだ」


「本当ですか!ありがとうございます」



それから俺たちは公園を出発し、デモ行進を開始した。


最初はまばらだった、シュプレヒコールの声は、回数を重ねるごとに大きくなり、周りの空気を震わせるほど大きくなる。それに比例するかのように、デモ行進の規模もどんどん大きくなっているような気がした。

道のわきで足を止め、見物していた人たちも、少しづつではあったが、列に加わっていくのも見えた。


今回のコースは、新聞社が入るビル前の交差点も通った。


そのビルのスクリーンにはあの映像が大きく投影されていた。


その映像を見て立ち止まる人々も、俺たちがその場を去るときにはデモに加わっていた。


全力で、全身全霊を込めて俺は声を上げ続けた。



「--------------」



やがて、遠くのビルとビルの谷間に、朝出発した公園を照らすライトの光が見えた。


その瞬間、デモに参加する人々の声がより一層大きくなったような気がした。そしてそのエネルギーはピークに達する。


俺は鳥肌が全身に広がるのを感じた。


公園に到着し、そこで今日の活動は終了となった。


最後の演説を聞いている数分間、これほど多くの人間がいながらも、あたりは静まり返っており、スピーカーから聞こえる演説の声だけが響いていた。


さっきまでの熱狂は嘘のように去り、残されたのは満ち足りた疲労感と、溢れんばかりの満足感だけだった。



ホテルの部屋につくと、直後に俺の体はバッテリーが抜き取られたかのように、ベッドに倒れ込んだ。


俺はスマホをズボンのポケットから取り出し、SNSアプリを開く。


トレンドを埋め尽くすのは、『導入計画反対』、『ピース・メーカー』、『感情の自由』など、デモやピース・メーカーに関する投稿ばかりだった。


オールドメディアなどの報道媒体は、このニュースに関しては報道規制されてされていたようだが、SNSで話題になったものは瞬く間に拡散されていく。


「あとはこれがシステムに届くか、だな」


俺はもう一度、システムの自己破壊を促すトリガーを思いかえす。


『監視対象にシステムへの嫌悪感を持たせること』


果たして俺はこの2日間でその条件を満たすほどの嫌悪感を生めただろうか。不安が鎌首をもたげるが、頭を振って打ち消す。


この二日間、できることは精一杯やり切った。これでシステムが起動してしまったならば、それは俺自身の実力不足だ。


俺にとってはシステムが起動し人間の感情をコントロールし始めることは、手足や体の重要な機能などの何か大事なものを失うのと同じだと考えている。そんなのは嫌に決まっている。


でも俺がそこで逃げてしまったら、多くの人々を見殺しにするのと何ら変わりない。俺はその一心でここまで全力で走り抜けてきた。



俺の脳裏に文字化けしたあの文章が過る。


『ピ―スメ繧ゅ§を止め縺あれ≧縺ェ悪やけん』


あのメッセージが、フウカ先輩が未来で見てしまった無感動な世界から放たれた警告であると確信した。


あの時、孤独と世間からの批判で心身を疲弊させ、鬱状態にまで陥った先輩が、さらに死後の世界で、自ら作ったシステムの残酷さを突きつけられたのだ。その絶望と後悔は、いかばかりだったろうか。


「泣いても笑っても明日が運命の日だ」



はじめは自分の主張のために活動してきたが、途中からは先輩も一緒だったから、とても心強かった。


もっとも、それは俺の思い込みかもしれないが。


しかし、あのメッセージは先輩からの伝言だと信じていたかった。



今日はしっかりとベッドの上、それも研究室ソファとはくらべものにもならないほど寝心地のいい柔らかいベッドで深い眠りについた。



「-------------------」



朝。



今日はシステム起動の日だ。その様子はテレビで中継されることになっているので、俺はホテルに籠りあおの中継を見ることにした。


どうやら今日もデモ活動は行われているらしいが、俺はそれに参加するほどの気力は持ち合わせていなかった。


システム起動は午前9時からだ。もう少しだ。


テレビをつけ、ニュースチャンネルに合わせる。画面には、よくニュースなどで見かける壇上が映し出されていた。そこには厳重な警備が敷かれており、カメラのフラッシュが絶えず光っていた。


(あと五分)


息を吸い込むのも忘れるほど、緊張で全身が固まる。俺の活動のすべてはこの一瞬のためにあった。



画面の中の時計が、午前9時を指す。


中継が始まる。


俺は祈るような気持ちで画面を見つめる。


法務大臣と思われる人物が、一言二言話し、リモコンのようなものを受け取る。あれが何かはわからなかったが、おそらくあのボタンを押せば、システムの起動が始まるのは明確だった。


司会者が緊張した声で告げる。


「これより、平和維持システム『ピース・メーカー』を起動いたします」


静寂が広場を支配する。

そして、その言葉とともに、大臣が静かにボタンを押した。


「カチッ…」


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