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ユートピアの亡霊  作者: サンファイト
5/11

悲劇のヒーロー

「システム起動実行まであと4日」




「--------------------------」




俺はいつものように研究室のソファで仮眠を取ろうとしていた。


本当は仮眠をとる時間も惜しいぐらい、俺はある研究にすべての時間を注いでいた。


夕凪先輩が作り上げた、ピース・メーカー導入計画を阻止するための研究だ。


もっとも、今はシステムの危険性を視覚的に証明することが難しく、難航している。


そのため、最近は専ら研究室に籠って作業をしているのだ。



「--------------」



元はと言うと、俺は夕凪先輩の量子力学に関する実験に心を惹かれてこの研究室に入ったのだが、俺は先輩と一緒に時間を過ごす中で、尊敬や信頼とは違う、別の感情を抱いていることに気づいた。


熱心に研究論文を読み込むあの真剣な横顔。

他の研究員の談笑の中に混じっては、『変な話』と、一蹴しつつも口角が少し上がっていたあの顔。

かわいいレベルの下ネタにもそっぽを向いて、赤くなった顔を必死に隠していたあの顔。


そして俺が何よりも覚えているのは先輩の可愛らしい方言だった。


普段は標準語で喋る先輩だが、ごく稀にプライベートな話をするときには方言が出ていた。


先輩が自分の身の上話をすることは多くはなかったが、それでも話題を振ると、少し顔をほころばせながら穏やかに話してくれる。それもたっぷりの方言入りで。


「先輩って今誰かとお付き合いしてるんですか?」


「うちは恋愛にはうとーけん、これまで1回も彼氏おったことなかとよ。」


「えぇ!先輩めっちゃきれいだから予想外です…!!」


「アサヒは、褒め上手っちゃね~」


あの時の先輩の笑顔は、俺には眩しすぎた。


(こんなの男として落ちないほうがおかしいだろ!しかも大チャンスだ!!!)


安心したのと同時にこんなにもかわいい先輩に彼氏ができたことがないということが不思議で仕方なかった。


(まぁなんにせよ、そのおかげで俺は先輩とワンチャンあるかもしれないし…)



あの時の俺は先輩に夢中だった。全部全部の先輩がかわいかった。


そんなこんなで、もちろん研究にも熱心に取り組んだが、研究室に来る理由は、先輩と一緒に過ごしたい、もっと話したいという気持ちに完全に変わっていた。



(先輩の論文発表が終わってひと段落すればデートに誘おう…!!)



そんなことを考えていた矢先、先輩は突然研究室から姿を消した。


それと同時にこれまでの研究仲間も一人、また一人と姿を見せなくなった。


俺は何が起きているのかわからなかった。


研究室を離れる奴に事情を聴いてもはぐらかされた。


先輩に何度も連絡をしたが、返信はなかった。


突如として、俺の夢物語に暗雲が立ち込め始めた。


いくら待てど、先輩がその研究室に姿を現すことはなかった。


それでも俺は先輩を待ち続けた。


先輩が戻ってきたら俺が一番に励ましてあげよう。そうすれば、先輩も俺のことを意識し始めるかも。


そんな邪な気持ちも少し持ったまま、虚しくも時間だけが過ぎた。


そんな中、俺は先輩が言っていたあることを思い出す。


以前、先輩は大きな論文の発表会があり、それが終われば少しは自由な時間も取れる、と。


それを聞いた時、俺は先輩をデートに誘うことで頭がいっぱいになっていて、論文の発表会のことをすっかり忘れていた。


(その論文の発表会で何かあったに違いない)


俺はそう思い、藁にも縋る思いで検索をする。


そこで、出てきた記事は俺の想像をはるかに上回るものだった


『夕凪フウカ氏 論文を発表するも”危険すぎる”と批評の嵐』

『夕凪氏の論文の信憑性やいかに!?』

『前代未聞の研究『ピース・メーカー』とは』


そんな記事ばかりがスマホの画面に流れてくる。


俺は自分の目を疑った。


(これって先輩の、だよな…)


俺は記事を更新して、新しいニュースがないか探した。


(絶対に、みんなは先輩の研究を誤解しているだけだ)


新着の記事が更新された。


しかし、俺はそのタイトルを見た瞬間に全身が凍り付いた。


“【速報】『ピース・メーカー』の提言者 夕凪フウカ氏(22) が死去 都内の自宅で”


スマホを持つ手が震える。


(何かの間違いだろ…)


俺は他のサイトでも調べた。


しかし、どのサイトもこのニュースを速報として扱っていた。


頭が真っ白になって、声も出せない。


(なぜだ…)


俺は過去に味わったことのない絶望をその時に感じた。


(なぜこんなことに…)


事前に先輩を救えた方法なんていくらでもあったはずだ。


心のどこかで、先輩はいつか帰ってくるから大丈夫だ。と根拠もない油断が心の中にはあった。


俺は自分の甘さを悔やんだ。




「--------------」




俺はこの一件で大きなショックを受け、心に傷を負った。


しかし時間は憎いもので、その傷さえも少しづつ癒していった。


せめて俺の思いだけでも伝えられていたら。


身勝手な思いだったがそんな思いがずっと心のどこかに引っかかっていた。


そんなことを考えられるくらいに、俺の心の傷が影を潜め始めたとき、心の中でこんな考えが芽生える。


俺の思いはかねられなくても、先輩の思いは叶えられるじゃないか、と。


だから俺は、せめて先輩がこの世に残した平和への思いは俺自身の手で叶えてあげたいと思い、先輩の死後も研究室に残ることを志願し、研究を続けることにした。



しかし、先輩の研究を理解していく中で俺は嫌な違和感を覚えた。


最初はもちろん無視し続けた。あの先輩の論文に欠点などない。そう信じて疑わなかった。


しかし一度芽生えた自分の直感は、日を追うごとに影を大きくしていく。


温かい世界を作るはずのシステムや論文から温かみをほとんど感じ取れなかった。


むしろこのシステムのせいで永遠の平和よりももっと大切なものが奪われる気がした。


「このシステムは人の命を生かして、人の魂を殺す殺戮システムだ」


それが俺の直感であった。本当にただの直感ではあったが、かなり強い確信も同時に持っていた。


流石に最初は人としてどうかしていると思った。


自分が尊敬する先輩の論文を真っ向から否定するなんて。


だが、同時に俺は自分の直感を裏切りたくなかった。



そして研究への理解を深めていく中で、この論文は批判されて当然だとも感じてしまうようになる。


いくら好きだった人が作ったものだとしても、それと国の存亡を天秤にかけると結論は自然と出た。


そんな経緯で、俺は今、フウカ先輩が命を懸けて作ったものを否定することに俺は時間を費やしている。


(悲劇のヒーローってところか…)


俺は心の中でつぶやく。


「先輩は今頃、天国で何してんだろうなぁ…おれのこと見守ってくれてるかなぁ…いや、さすがに嫌われたよなぁ…」



政府がこのシステムを秘密裏の導入しようとする動きは、一部の関係者、特にあの学会に出席していた人物や、フウカ先輩とかかわりの深い一部の人物のみが気づいていた。


俺もそのうちの一人である。


しかし、表向きでは、今後数か月以内に国全体を統一する最新のシステムを試験的に導入する。という何とも遠回しな発表を細々と行っただけであった。


それに、この計画には厳重な報道規制がされていた。それゆえにほとんどのメディアはこの件を報道せず、国民の中でも、システム導入計画のことさえ、知る者は多くはなかった。



俺が政府の動きを感じ取ったきっかけは、先輩の死後、研究室にて論文の勉強をしていた時、突如として政府の関係者だという人物が研究室を訪ねてきたときだった。


その人は俺の研究に関していくつか聞きたいことがある、と言い、先輩がかつて研究していた『ピース・メーカー』についてや、俺のこのシステムの危険性の研究について根掘り葉掘り聞いてきた。


俺は何のことか分からず、むしろ政府直々の取材を受けたと思い、テンションが上がっていた。


しかし、蓋を開けてみると、それは政府が秘密裏にこの『ピース・メーカー』を導入するための作戦の一部であった。


その後、少数ではあったが、システムの導入に反対する私的なグループの取材を受けたことで、ことの全てを知った。その時に反対派の人脈を広げることにも成功した。その中には俺を取材に来た記者も含まれたいた。



しかし、政府の関係者が直々に研究室を訪ねた時期あたりから、俺は誰かに監視されているような気がしていた。


まるで俺が導入計画の邪魔をしないように見張っているかのような気がした。



「こんなんじゃ外に出たくても出られねーよ」


俺がこの研究室に籠っているのはそんな理由もあった。


そんなことを考えながら、研究室に置いてある、小さめのソファーで仰向けで仮眠を取ろうとしていた時だった。


「ピロンッ♪」


俺がいつも使っているタブレットから聞きなれない通知音が鳴る。


最近はやたら通知が多いのでいつものように無視するつもりだったが、何となくその通知が気になった。


「こんな通知音…何のアプリだろう」


俺はタブレットを手に取り通知を確認する。



「なんだこれ」


その通知は俺が普段使ってるメモアプリからだった。


メモアプリからの通知なんて見たことがなかったが、一応確認してみることにした。


『ピ―スメ繧ゅ§を止め縺あれ≧縺ェ悪やけん』

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