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ユートピアの亡霊  作者: サンファイト
10/11

この瞬間をかみしめて

静寂が広場を支配する。

そして、その言葉とともに、大臣が静かにボタンを押した。


「カチッ…」


その掛け声とともにボタンが押された。はっきりと見た。


しかし次の瞬間、テレビ画面いっぱいに赤い炎と、灰色の煙が広がる。


テレビからは悲鳴や、現場にいる人たちの叫び声が聞こえる。


「大臣の安全確保をしろ!!」

「テロだ!」


俺は、一拍遅れて、安堵と脱力感に襲われた。


(やった…!)



その後も現場の凄惨な様子、混乱した様子がありありと放送され続けた。



お昼のニュースでは、政府の発表によれば、けが人は出たものの、幸いにも死者は出なかったようだ。


それに加え、システムの導入計画は無期延期とすることになった。


恐らく、政府はシステムが自己破壊を発動したことをまだ把握してないらしい。


「終わった…ようやく」


俺はベッドに倒れ込み、天井を見つめた。


先輩は、自らが作った無感動な世界を自らの命を懸けた警告とこの国の感情の波によって、打ち砕いたのだ。


俺はふとスマホを確認する。


そこには保存したはずの先輩からの悲痛の叫びのメッセージは残っていなかった。


「あれが形見でもよかったのにな…」


しかし、それはもはや必要ない。先輩のメッセージは、データとしてではなく、俺の胸と、この国の感情の自由として、永遠に残ったのだから。


そう小さく呟いて、手を合わせた。


目から溢れる涙、それは、悲しみでも後悔でもない、愛と感謝の涙だった。


この場に先輩がいればどれだけ嬉しかったことか。


それはかなわない願いだったが、せめてもの代わりで俺は心の底から先輩のことを思いながら、愛と感謝の気持ちを込めて言葉を口にした。



「先輩、僕やりましたよ」






「-----------------」





長く静かな時間を過ごしていた私だったが、その時間にもそろそろ終わりが来ていた。


アドミニストレータ曰くこの天国は私の意識が主体で成り立っているらしいので、私の意識が急速に朦朧とし始めていたことで私はそれを悟った。


(瞼が重い)


この目を閉じてしまえば、私の意識、つまりこの場所は完全に消滅してしまうのだ。


こんな場所にはもうとどまりたくもなかったが、本能からだろうか、自然と消えゆく意識を保とうと、私の体は必死になっていた。


すでに死んでいるにもかかわらず、すべてがうざったい。


「早く楽になりたい…」



そんなことを思った刹那、なぜだか少し体が軽くなったような気がした。


気のせいではなかった。


それを直感すると同時に、私の心の中に唐突にある言葉が浮かんでくる。


「先輩、僕やりましたよ」


(なんだこれ…)


しかしその言葉の裏に隠された強い感情や焦がれるような思いが同時に私の心に流れ込んでくる。


そして私はすべてを理解することができた。


これが誰の言葉なのか。


この言葉は何を意味するのか。



「アサヒ…本当にありがとう」


それはアサヒからの念力だった。


私への思いを、生前私が研究していた方法で気持ちを届けるなんて。


「ほんと粋やね、アサヒは」


涙が自然と溢れる。だけど今回はこれまでの涙とは違うんのだった。


嬉しくて涙が出たのはいつぶりだろうか。


心が大きく揺さぶられた。



そんな時、私の心に新たな来訪者が現れる。


(フウカ~)


声は聞こえないのだけれど、その人が言っていることは理解できる。


(ねぇ、フウカ~? 聞こえとる~?)


その人は満面の笑みを浮かべていそうな声色で私の名前を読んでいる。



「!!!」

「アリサ!!」


「フウカ~!!ボーッとしとらんでよ〜、何回名前呼んだと思っとーと?」


「ほんとにアリサと…?」


「フウカ、あんた大丈夫? うちに決まっとーやろ!」


直接顔が見えるわけではなかったが、久しぶりの再会に私は再び感極まる。


「なんね〜?久しぶりにうちに会えたけん、うれしかと〜?」


「うん…嬉しい…そやけど…できんはずやったろ…」


「一回試したときはできんやったけど、ちょっと時間おいてもう一回やってみたら、できたとよ!確かに、わたしがここに来たときも、この機能はすぐには使えんやったとよ」


「そっか…心配かけたね」


「まぁ、そんな湿っぽくならないでよ。」


アリサは突如として標準語で話し出す。


彼女曰くここでの生活がずいぶん長いため、自然と標準語を使うようになったらしい。


さっきの地元訛りは私を歓迎するために張り切ってくれたそうだ。


「ごめんね…ちょっといろいろあって」


私はあふれ出すありとあらゆる感情を抑え、なるべく平静を装った。


「でも、ほんと久しぶりだよね。何年ぶりかな?中学生以来だから8年ぶりかな?」


「そうだね。8年ぶりくらいかな」


「私びっくりしたよ!フウカがこんなに早くここに来るなんて~」


「中2でここに来た人が何言ってんのよ」


「確かに!」


現世ではブラックなジョークもここではただのユーモアだった。


「それにしてもフウカ、よく頑張ったね。えらいえらい~」


頭に暖かい手が触れたような気がした。


「やめてよ!…っていうか、もしかして私のこと見てた!?」


「ピンポーン!実はフウカのこと、こっそり監視してました~ 実はね、私の現世での無念は友達や親友ともっと遊んだり、仲を深めたい、っていうものだったの。正直あんまり自覚はないんだけどね。そいうわけで、私の天国では現世の友達をちょっとのぞき見できたり、仮想空間で会話ができたりするの!」


「なにそれ、すごっ!」


アリサと話すのは久しぶりだったが、そんな感じは全くしなかった。

つい先日も話したような、そんな感じだった。


その後も、私はアリサと気の置けない時間を過ごした。


しかし、私はあることを思い出す。


アリサとの会話が思いのほか盛り上がってしまっていたので完全に忘れていた。


(アリサに謝りたい…)


今は楽しく会話ができているとはいえ、私はこの気持ちをずっと抱えたまま生きてきた。


今、謝ることができるチャンスが目の前にあるのに、それを逃してしまっては後悔するだろう。


いつの間にか固く噤んでいた口を開ける。


「あのね、アリサ」


「どうしたの?」


「実はさ、謝りたいことがあって」


「わかるよ」


「えっ?」


アリサのその言葉に私はドキッとした。


この反応は、どちらなのだろうか…


「どうせ、フウカは自分のせいで私が殺されちゃったって思ってるんでしょ?」


「本当にごめんなさい」


言葉が口から飛び出す。自分が考えるよりも早く口が動いた。


するとアリサはプッと吹き出した。


「怒ってるわけないでしょ。もちろん殺された時はすごくショックだったけど、これまで一度たりともフウカのせいだなんて思ったことはないよ。むしろ私の方こそ心苦しかった。こっちの世界からフウカを見てるとき、フウカはずっと自責の念に駆られてる感じでさ」


そんな、予想もしていなかった言葉に私は呆然とする。


「あと、さっきも言ったけど湿っぽい話はだからね!」


その言葉で私は再び涙をためた。


今日はどれだけの涙を流せばいいのだろうか。


「ほーら、泣かない泣かない」


抱きしめられるような温かいぬくもりを感じた。


そのせいで私の涙腺は決壊してしまった。


これにはアリサも苦笑いだっただろう。



私はひとしきり泣いて、それからは再びアリサとの思い出話にふけった。



しかし、楽しい時間は永遠には続かなかった。


私の意識は一時的に満たされていただけであった。そのために、徐々にアリサとの会話にも支障が出始める。


私の意識が少しずつ薄れてきて、アリサの声もかすれて聞こえ始めた。


私はこの楽しい時間に別れを告げる決意をした。


「アリサ」


「なにフウカ?また湿っぽい話?」


「まぁ、そうなっちゃうけど大事だから聞いてほしいの」



それから私は手短に私の天国で起きたこと、私が今奇跡的にアリサと会話できていること、そしてこれからは意識的なつながりもなくなってしまうことなど、すべてを話した。


アリサは終始、私の話を黙って聞いていた。


私が話し終わるとアリサはゆっくりと話し出した。


「そっか。それは残念だね。でもさ、私の心の中でフウカは生き続けているし、たとえフウカとこれから先、もう繋がれないとしても、今日話せたことは私の宝物だよ。私の意識がなくなるまでずっと大切にするよ」


少し声が籠っているようにも感じた。


私は最後の最後までアリサを落胆させてしまって申し訳なかった。


「別に悲しくないからね!その代わり、私の意識が切れたとき、天国の次の世界を案内して私を歓迎してね!!」


その顔には大粒の涙が頬を伝っているのが想像できた。


でも、それでこそアリサだった。


昔からアリサは本当に芯が強い子だった。


それは今でも変わっていなかった。私の大好きな親友そのままだった。


「うん、もちろん」


私も声を震わせながら何とか返事をした。


気づいた時よりも、さらに私たちのやり取りは急速に不鮮明になっていく。


私は薄れゆく意識の中で、無理には足掻かず、丁寧に最後の言葉を紡いだ。


「ありがとう、また会おうね、アリサ」


「うん、またね、フウカ」


アリサに精一杯の感謝を伝えたのを最後に、私たちの繋がりは途絶えた。


次こそは本当に意識は最後まで薄れ、やがてここも消滅するのだろう。



アサヒからもらったメッセージが私の意識を少しばかり満たしてくれたおかげで天国で唯一やり残したことができた。


アサヒには感謝してもしきれない。


ずっと言いたかったけど言えなかった言葉を胸に、


(ありがとう、アサヒ、大好きだよ)


本日はポッキーの日ですね。作中にも登場させようかと思いましたが、そんな隙間はありもしませんでした。

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