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魔人転生〜フィオナは戦争にいった〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ピューマ、再度の襲来

 一行は、すぐにアーセナル地区を出てゾッド地区へと戻った。同時に、ジェイクが皆を見回す。


「この街を出て、デリシャスのところに行く。そろそろ、新しい情報が入っているだろうからな。だが、その前に片付けなきゃならんことがある。宿屋で待っていてくれ」


 そう言うと、ジェイクはひとりで歩いていく。人気(ひとけ)のない道を進んでいたかと思うと、不意に立ち止まった。掘っ立て小屋の立ち並ぶ怪しげな場所だ。

 住人の気配はするが、姿を潜め息を殺し音も立てないようにしている。彼らは、危機を察知する能力に長けている。これから何が起こるか、ちゃんとわかっているのだ。

 そんな中で、ジェイクは振り向いた。


「おい、俺を追っかけてる奴……確かピューマとかいったな。用があるなら出てこいよ」


 声をかけると、掘っ立て小屋の陰から現れた者がいる。小さな体、細く鋭い目、そして手には二本のナイフ……間違いなくピューマだ。そう、ずっとジェイクをつけていたのである。

 ピューマは、現れると同時に舌なめずりをした。妖艶な美女ならばセクシーに見える仕草も、このイカレ男がやると、ただただ不気味なだけである。


「ジェイクぅ……ジェイクジェイクジェイク! やっとふたりきりになれたなあ! ヒャヒャヒャヒャ!」


 その言葉に、ジェイクは溜息を吐いた。想像通り、まともな会話ができないようだ。こうなると、殺すしかない。


「お前とふたりきりになれても、全く嬉しくないんだがな」


 言った後、ジェイクは別の質問をすることにした。


「なあ、お前は何が目的なんだよ? 目当ては俺の命か? それとも、他に何かあるのか?」


「それはねえ……教えてやんねえよ! 誰が教えるかバカバカバカ! 俺はな、お前を殺したくて仕方ねえんだよ! お前を殺す、そのためだけに生きて来たんだぁ! この大バカ野郎があぁ!」


 喚きちらすピューマ。こいつと話すのは疲れるが、とりあえず彼の目的がなんなのかは判明した。


「なるほど。つまり、お前は俺の命が目当てなんだな。よーくわかった」


 途端に、ピューマはうろたえた。視線をあちこちに揺らし、二本のナイフを小刻みに動かしながら答える。


「は、はあ!? 何言ってんだアホンダラ! 俺の目当ては、お前の命なんかじゃねえんだよ! ふざけやがって! とにかく、今すぐお前を殺す! 絶対に殺す! 殺して殺して殺しまくる!」


 目当ては命ではないと言いながら、殺すを連呼する……こいつの思考はどうなっているのだろう。元からおかしいのか、あるいは強化魔法によりおかしくなったのか。

 いずれにせよ、ジェイクを殺したがっているのは確かだ。


「そうか。わかったから、さっさとかかって来い。俺はな、お前と遊んでるほど暇じゃないんだが、これ以上お前にうろちょろされても面倒だ。今殺してやる」


「なんだとおぉ! 今、殺すって言ったな! 今、間違いなく殺すっていったよなあぁ! この野郎、もう許さねえ! 死ぃねえぇぇ!」


 叫ぶと同時に、凄まじい形相で襲いかかってきた──


 ピューマの短剣は、変幻自在の軌道でジェイクを狙う。だが、ジェイクはその攻撃を全て受け止める。

 と同時に、カウンターの突きを打ち込んだ。

 ピューマは吹っ飛ぶが、すぐに体勢を立て直した。


「く、クソ……忘れてたぜ。お前はインチキ魔法を使って、刃物の効かない体にしてんだよな。どこまで汚え奴なんだ。お前は汚え! 悪徳商人の腹ん中と同じくらい汚え奴だ! 霊拳術士が聞いて呆れるぜえぇ!」


 叫んだ直後、高く跳躍する。宙でくるりと一回転し、スタッと着地する。

 ジェイクは顔をしかめる。やはり、ピューマの肉体は特殊な魔法もしくは薬物で強化されているのだ。その体には、軽い打撃を一発や二発打ち込んだくらいでは殺せない。

 ならば、渾身の一撃を打ち込み、確実に息の根を止める。


「ああ、何とでも言え。今すぐ、地獄に送ってやる。そこで、好きなだけ喚いてろ」


 呟くと同時に、ジェイクは一気に間合いを詰める。と同時に、左の拳が放たれた。素早い左の突きが、真っ直ぐに伸びていく。速く、キレのある一撃だ。

 しかし、ピューマは後ろに飛び退き躱す。その動きの速さだけは、ジェイクよりも上ではないだろうか。しかも、体が小さく突きが当たりづらい。


「クソ!」


 思わず毒づいた。このままでは、また逃げられる。ピューマの厄介な点は、戦闘力よりもしつこさだ。さらに、立木すらへし折るジェイクの蹴りを食らっても、戦いを続行できるタフさも面倒である。

 今のところ、標的をジェイクひとりに絞っているようだが……ピューマの頭の中は読めない。万一、標的がアランやセリナへと移ったら……その時は、守りきれる自信がない。

 その時、事態をさらに面倒にする声が聞こえてきた──


「ジェイク! 大丈夫か!」


 叫びながら、走ってきたのはアランだ。後ろには、スノークスもいる。さらに、セリナとリリスも続いている。


「あっちゃー……」


 ジェイクは、思わず頭を抱えた。また、彼らにバレてしまったらしい。

 一方、ピューマは前回と同じく地団駄を踏む。


「うわあぁ! なんてひでえ奴だ! 男同士の一対一の正々堂々たる決闘に、仲間を呼びやがった! ジェイク! てめえはどこまで卑怯なんだ! てめえの汚さはなぁ、俺の主人であるグノーシス並だよ!」


 またバカ言ってるぜ……と思っていたジェイクだったが、最後の一言が耳に入った瞬間に顔つきが変わった。


「ちょっと待て! お前、今グノーシスと言ったな! お前の飼い主はグノーシスなのか!?」


「は、はあ!? 何を言ってるんだよ! グノーシスって誰だ! 俺は、そんな奴なんかぜーんぜん知らねえよ! ライブラ教の枢機卿のことなんか知るわけねえだろ、このアホンダラがぁ!」


 これは白状したも同然だ。グノーシス配下の暗殺者と見て間違いないだろう。

 その時、スノークスが口を開く。


「ジェイク……グノーシスは、こんなバカを雇っててんのか。ライブラ教は、よっぽど人材不足なのかね」


「いや、頭はバカだが腕は立つ。その上、しぶといときてる。だから、今のうちに始末するしかねえ」


 ふたりの話を聞き、ピューマはぎりぎりと歯ぎしりしつつ、ドンドンとその場で足踏みを始めた。

 足踏みしながら、こちらに向かい吠える。


「ふざけんじゃねーぞ! 誰が戦うか! お前は、神聖なる一対一の決闘に仲間を呼んだ! 男と男のタイマン勝負を汚したんだよ! これはもう死刑だ! 極刑処刑死刑! よーし、そっちがその気なら次は団体戦だよ! こっちも仲間を呼んでやるからな! ジェイク! 忘れるなよ!」


 直後、掘っ立て小屋の屋根に飛び上がる。あっという間に、屋根を伝い逃げていった。


 ピューマの姿が完全に見えなくなったのと同時に、ジェイクはセリナの方を向いた。


「おい、ライブラ教にはあんなのが他にもいるのか?」


「いえ! 私は見たことがありません!」


「そうだよな。あんなバカが、おおっぴらに教会内を出歩けるわけないよな。となると、グノーシスの私兵か」


 ジェイクの言葉に、頷いたのはスノークスだ。


「間違いないな。ところで、何であんなイカレ野郎に狙われてんだよ?」


「わからん。俺も、全く身に覚えがない。だがな、あいつがグノーシスの犬だ。となると、俺のやっていることが、ついにグノーシスの耳に入っちまったってわけだろうな」


 そんなことを言ったジェイクに、近づいておったのはセリナだ。鋭い目で、彼を見上げる。


「ジェイクさん、何で言ってくれなかったんですか?」


 セリナの口調は静かだったが、声にはトゲがある。ジェイクは、思わず目を逸らしてしまった。


「な、何をだ?」


「あの男に後をつけられていることです。なぜ、言ってくれなかったのですか?」


「そ、それはだな……あいつは、俺だけを狙っているようだった。だから、ひとりでケリをつけようと思ったんだよ。その方が簡単だしな」


 そう言って笑ったが、セリナはニコリともしない。


「私たちは、そんなに頼りないですか?」


「いや、そういうわけじゃない」


「だったら、私たちのことも頼ってください」


 セリナの声は静かだが、有無を言わさぬ迫力がある。たじたじになっているジェイクに、アランがたたみかけてくる。


「そうだよ。俺だってな、お前の背中を守るくらいはできるぜ」


 アランの言葉に、ジェイクは何も言えず下を向く。しんみりしたムードになってきたが、それをぶち壊したのはスノークスであった。


「なんだか、とんでもねえことになってきたなあ。大国間の陰謀だの、宗教の裏側だの……こんな話、どうやって金に変えればいいんだ? 下手に喋れば、こっちの首が飛んじまう」


「降りるのかい?」


 からかうような口調で言ったリリスに、スノークスは苦笑する。


「できれば、そうしたいけどな。でもよ、ここまで来たら仕方ねえ。最後まで付き合うよ。俺も、どうなるか見届けたいしな」


「あんた、案外いい奴だね」






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