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魔人転生〜フィオナは戦争にいった〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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黒魔女リリス

 セリナを黒猫亭にて待たせ、ジェイクとアランはゾッド地区の路地裏を回っていた。だが、目指す場所はすぐに見つかる。


「こ、これが黒魔女の家か……」


 思わず呟いたのはアランだった。一方、ジェイクは複雑な表情を浮かべている。

 全体を見れば、狭い平屋の一軒家でしかない。しかし、扉には禍々しいデザインの円が描かれている。いわゆる魔法陣であろうか。

 そんな扉の左右には、さらに奇妙なものがある。棒に突き刺さった骸骨だ。左右に一本ずつ置かれており、この家の門番のようであった。

 ジェイクは、門の前に立ち叫ぶ。


「おいリリス! 俺だ! ジェイクだ! 入っていいか!?」


 直後、触れてもいないのに扉が開いたのだ。アランは、ヒッという声をあげて飛び退いた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 叫んだアランに、ジェイクは苦笑する。


「大丈夫……ではないが、まあケガはしないと思う」




 中は、思ったより広かった。余計な物が置かれておらず、住人の性格を表しているかのようであった。

 ホッとしたアランであった。中には、動く死体であるゾンビや、使い魔のコウモリなどがうろついているかと勝手に想像していたのだ。思ったよりまともそうな人物である。


 が、そこにリリスが音もなく現れる。

 彼女は、影そのものが人の形を取ったかのようだった。夜の色を吸い込んだような黒衣を着ており、白い肌は滑らかで美しい。その双眸は、紫水晶を思わせる冷ややかな光を帯びていた。

 唇は深紅に彩られており、長い黒髪は艶やかであった。耳には小さな髑髏を模した飾りが揺れ、首筋には銀の首飾りが巻かれている。

 禍々しい雰囲気をまといながらも、なぜか目を逸らせない。美と恐怖が同居する、魔の象徴だった。

 

 姿を現したリリスに、アランは口を開けたまま見とれている。

 この男、勝手にリリスをお婆さんだと思いこんでいたのである。怪しげなものを煮込んだ鍋をかき混ぜ「へへへ……」と笑っている、そんな者を想像していた。ところが、目の前にいるのは妖艶な魅力を持った美女である。

 一方、ジェイクは少しばかり困ったような表情で彼女を見ていた。そう、ふたりの間には少々厄介な因縁があるのだ。

 リリスはというと、すたすたと歩き近づいてきた。そして、アランの胸をつつく。


「ジェイク。ひさしぶりね。で、このイケメンは誰なの?」


「ひぇっ!?」


 アランは全身がビクンと震え、背中に電流が走ったかのように後ろに飛び退く。


「お、おいジェイク! こ、この方が本当に黒魔女さまなのか!? なんか、見ただけで呪われそうな感じがするんだが!?」


「あのな、変なこと言うとマジで呪われるぞ」


 ジェイクが答えると、アランは震え上がった。リリスはというと、アランの反応に目を細める。


「ふふふ……怖がり方が可愛いわね。名前は?」


 問われたアランは、怖い教師と話している子供のような態度で語り出す。


「ア、アラン・アデールで、です。が、放蕩息子という以外に取り柄のない人畜無害な男ですので、どど、どうか呪いだけは……」


「ふふふ。あたし、そういう自己評価の低い男って、嫌いじゃないのよね」


 にやりと笑って、アランの顔に己の顔を近づける。と、アランは悲鳴をあげた。


「ヒィィィ!」


 思わず後退するが、足がもつれて尻もちを着く。


「ふふふ、あなた面白いわ。気に入った。もしかして、あたしに恋した?」


「してませんしてませんしてません! いや、してるかもしれないけどそれはその場のテンションであって本気じゃないです本当です!」


 しどろもどろになっているアランを見て、リリスは妖艶な笑みを浮かべる。


「ふーん……それ、あとでゆっくり聞かせてもらおうかしら」


 そんなふたりを見て、ジェイクは苦笑しつつ口を挟む。


「アラン、お前、今日一日で十年分くらい寿命縮んだみたいだな」


 すると、アランは真っ青な顔で答える。


「縮むどころか、魂ごと抜かれるかと思った……」


 そこで、今度はリリスが口を挟む。


「で、ジェイク……あたしに何の用?」


「実はな、お前に協力して欲しいことがある。今、厄介な奴が暴れ回ってる。そいつを止めたい」


「止める?」


 訝しげな表情のリリスに、ジェイクは頷いた。


「ああ。ある男が、ある秘密を知って死んじまった。ところが、その男は冥界で悪魔と取り引きし、怪物となって蘇った。そして今、復讐のためあちこちで暴れ回ってる。俺は、こいつを止めたいんだ」


 そこで、ジェイクは頭を下げる。


「頼む。お前の力を貸してくれ」


「なるほどね。で、報酬は?」


「ほ、報酬?」


 思わず聞き返したジェイクを、リリスはじろりと睨みつける。


「まさか、あんたあたしにタダ働きをさせるつもりだったの? 悪いけど、そんな化け物を相手にするなら、それなりの報酬をもらわなきゃ割に合わないわよね。どうなの? あたしの価値に見合うだけのものを払えるの?」


 静かな口調で聞いてきたリリスに、ジェイクは何も言えず下を向いた。

 と、そこでアランが口を開く。


「お、俺はアデール家の三男です! いざとなれば、農地のひとつやふたつ売ってでも必要な金は作ります!」


「お、おいアラン、そこまでしなくていいぞ……」


 ジェイクが声をかけるが、アランに引く様子はない。震えながらも、じっとリリスを見つめている。

 そんなアランを見て、リリスはくすっと笑った。


「そっか、君は貴族のお坊ちゃんなんだよね。だったら、いっそあたしを愛人にしてくれる?」


 言いながら、アランに近づくリリス。しかし、アランは顔を真っ赤にして飛び退いた。


「いや、あの、それはですね……」


「ふふふ、冗談よ。わかった。この坊やとあんたの熱い友情に免じて、特別に格安で引き受けてあげる」


 答えたリリスに、ジェイクは目を見開いた。


「ほ、本当か?」


「本当だよ。そうと決まれば、行きましょ」


 そう言うと、リリスは旅支度を始めた。その様を、ふたりはただ見ていることしかできなかった。




 しかし、事件はそれだけでは終わってくれなかった。

 黒猫亭に、ジェイクとアランがリリスを伴って戻ってきた。が、リリスとセリナが出会った瞬間、その場の空気が変化する。互いに、相手が何者であるか一目で見抜いたのだ。


「噂には聞いていましたが、黒魔女なんてものが本当にいるとは驚きです。既に絶滅したかと思っていましたよ」


 鋭い表情で皮肉を言ったセリナに対し、リリスは余裕の構えだ。


「はじめまして、ライブラ教の聖女さま。あたしはリリス。悪魔に魂を売った女……と、そちらでは教えてるんでしょう?」


 セリナは眉をひそめ、手で聖印をつかんだ。


「ええ、そう教わっていますよ。いかがわしく淫らな女だとも聞いています」


 完全なる悪口だが、リリスはニヤリと笑う。全く応えていないようだ。


「どうやら歓迎されてないみたいね。まあ、教会にファイヤーボールぶつけて燃やしたことはあるけど、信者を焼いた記憶はないわよ?」


 途端に、セリナの表情が変わる。


「なんですって!」


 そこで、ジェイクが両者の間に割って入った。


「待て、ふたりともやめろ! 頼む、今だけは俺の顔を立ててくれ!」


 すると、リリスはフッと笑みを浮かべた。


「俺の顔って言うけどさ、元カノだからって、簡単に使えるとでも思ってるの?」


 途端に、セリナは目を見開いた。


「も、元カノっ!?」


 アランも、思わず呟く。


「えっ、それ初耳……」


 ジェイクは、額に手を当てつつ叫ぶ。


「いや、もうそれは関係ないから! 今ここで喧嘩始められたら、冗談抜きで世界が終わる! いいか、エプシロンを止めるには、リリスの力が必要なんだ!」


「止める? つまりあなたは、その化け物をまだ救えると思っているのですか?」


 セリナの言葉に、ジェイクは頷いた。


「そうだ。あいつは、フィオナの親友だった。俺は……まだ、あいつを諦めたくない」


 一方、リリスは目を伏せる。


「救うか、殺すか。それを決めるのはあたしじゃない。けど、その怪物と戦う手段なら持ってるわよ」


 その言葉を聞いたセリナは、しばし沈黙した。ややあって、目を細めて口を開く。


「いいでしょう。協力はします。ただし、覚えておいてください。私はリリスさんを信じているわけではありません。あくまでジェイクさんの顔を立てての話です」


 リリスは、クスッと笑った。


「ふふっ、そういうとこ、嫌いじゃないわよ。じゃあ、仕事は仕事として、仲良くしましょ。聖女さま?」


「ええ、黒魔女さま」


 そんなふたりを見て、アランがポツリと呟く。


「やめてくれ……胃がキリキリする……」


 その言葉に、ジェイクは苦笑した。だが、次の瞬間に表情が変わる。


「この際だ。みんなに説明しておこう。ここまでのいきさつを、な」


 そう前置きして、ジェイクは語り出した。






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