第8話 ドラゴンキラーの勇者アリア 3
アリア達一個小隊の竜の駆除作戦は、苦戦を強いられていた。
小隊の数に対して竜の数が多すぎるからだ。
しかもトラフェリア軍からは防衛隊が着いて来ている。防御壁を張るのは得意だが、戦闘能力では数の少ない近衛隊の方が優っていた。
アリアは流石とも言うべき強さで竜を駆除して行く。
しかし彼女と近衛兵だけでは、戦闘力が足りない。
兵達は目に見えて疲弊して行く。
「……ドラゴンキラーに恥をかかせるのが目的の筈じゃなかったのかな」
「……うむ。少しやりすぎたか。あれではしまいに死者が出そうだ……親方様は何をお考えなのか」
「先日送り込んだ間者を殺害された件に相当ご立腹だった。こちら側から侵入させるなど、お止めになる様に進言したのだが聞き入れていただけなかったのだ。
それに……勇者殿は王女様でもあらせられる。
もしもあの方がお怪我や、ましてやお命を落とされることにでもなってしまうと……まずいのではないか?」
少し離れた岩場の陰で、彼女達の戦いをこっそり伺いながら話す2人の者がいた。
彼らはティエンラ共和国の要人だ。
宰相に言われ、魔力の強い家臣を使い、被害を装って各地に散らばる凶暴な害獣竜をここに一気に転移させたのだ。
避難に向かう住民も金を握らせた演技者達であった。
偵察竜の連絡を受け、時間を合わせて火焔使いの術者達を集め、一時的に火山が噴火したように演出もしたのである。
『ドラゴンキラー』勇者アリアの一行では処理しきれない数の竜を出現させることにより、討伐を諦めて帰らせ、彼女の国際的な実績に泥を塗ろうとしての事だった。
要するに、ティエンラ共和国側の嫌がらせである。
しかし良心の呵責が芽生えた彼らは半ば困惑してしまっていた。
——突然、背後から声が掛かった。
「……そのお話、詳しくお聞かせ願えないかしら?」
2人が振り返る。
そこには、目が覚めるような美女がいた。
長い金髪を靡かせ、整った形の碧眼で見つめるその女性は、真紅のアンダーウェアと白銀の鎧を纏っている。
「……い、戦乙女?!」
驚く彼らの身体に、彼女からいきなり投げ付けられた縄が巻き付く。
「?!」
2人はそのまま、戦乙女に捕えられてしまった。
小隊の苦戦は続く。
アリアは巨大なドラゴンソードで竜を一刀両断する。
しかしその様な荒技が使えるのは力の強い彼女だけだった。
他の者は魔法も使いながら応戦するが、なかなか駆逐にまでは至らない。
竜の数が多いのに加え、それぞれが異様に硬いのだ。
「!!姫!苔馬がやられています!」
「ええっ?!」
兵の声に振り返る。
前方の竜達に気を取られている内に、乗って来ていた苔馬の一頭が回り込んでいた竜に襲われ、食べられてしまっていた。
「……っ!」
他の馬にも襲い掛かろうとする竜をすぐさま剣で追い払う。
けれども、竜達は慣れた様子でジリジリとまた間合いを詰めてくる。
——『撤退』の二文字が、アリアの頭の中を過ぎった。
「……お困りの様ですね、アリア様」
不意に澄んだ声が背後から聞こえた。
アリアは振り返った。
「……ヴェ……リィナ様?!」
驚いて『戦乙女』の名を叫ぶ。
そこには、白銀の鎧を纏った『戦乙女リィナ=エミル』がにこやかに微笑んで立っていた。
「はい、リィナですわ。助太刀ついでに、今回の首謀者達も捕まえて参りましたの」
「首謀者?」
そう言いながら先ほど縛った2人を差し出す。
彼らの身体には縄に加え、魔法が詠唱できない様に口に氷の帯が巻かれていた。
「宰相に言われたこの2人がありったけの竜をここに集め、あなた方が捌ききれない様にして帰らせるつもりだったそうですよ?」
「なんですって?」
アリア他小隊の者達が驚く。
その間にも彼らの背後から、多数の竜が襲って来た。
「覇級防御!!」
リィナが詠唱する。
巨大な防御壁が現れ、30人からの小隊全員を囲った。
壁に阻まれた竜達が弾け飛ぶ。
「トラフェリアとの間柄があまり宜しくない噂は聞いておりましたが、ここまであからさまに嫌がらせをして来るとは。
勇者様への冒涜が過ぎますわ」
リィナはそう言うと、まだ転がっている竜達の前に進み出た。
「皆様、下がっていてくださいね」
そう言うと詠唱に入る。
「え、ええ。……皆、下がるのだ!なるべく遠くに引け!」
アリアが全員に命令する。
小隊が彼女を中心にリィナの後方へと下がった。
「天裂迅雷!!」
彼女が手を上げ叫んだ。
轟音と共に地下からマグマが混ざった雷の柱が現れ、竜達を飲み込む。
竜達は突然出来た地面の地盤沈下による穴に吸い込まれる様に集まった。
しかし身体自体にはダメージはないようだ。
「……よし、調整出来てる」
リィナが小さく呟いた。
初めて術を打った時よりも圧倒的に力が制限出来ていた。
発生箇所の命中率も上がっている。
「リィナ様?しかし奴らは溶岩から生まれた竜達……その術では効果がないのでは?」
避難していたアライゼアが問う。
彼女は彼を振り返り、余裕の笑顔で答える。
「熱してからの、急速冷凍ですわ」
そして再び竜の方に向き直り、詠唱した。
「冥河氷塊!!」
詠唱と共に巨大な氷の塊が空中に次々と現れ、竜達の上に降り注ぎ打ち付ける。
超高温からの急激な冷却に、苦しそうな咆哮が聞こえ出した。
彼らの硬い体表の鱗が、ビキビキと音と立ててひび割れ出した。
「氷塵瀑!!」
リィナが更に叫んで、上げていた腕を振り下ろす。
全ての竜が凍り付いた。そして程なく、
バギイィィンン!!……
と強烈な音を立て、氷のカケラとなって砕け散ってしまった。
一瞬の出来事に、呆然としたアリアと兵達が息を飲む。
ゆっくりと顔を上げたリィナの周りに、術の名残のように砕けた氷のカケラがキラキラと煌めいて纏わり付く。
それはやがて、気流に乗って上昇し、天を目指すがその内溶けて見えなくなって行くのだった。




