第7話 ドラゴンキラーの勇者アリア 2
アリアとトラフェリア軍の一個小隊がティエンラ共和国との国境の火山帯に到着した。
しかしそこに火山活動の痕跡はない。
「……?おかしいわね。報告では確かにこの辺りなんだけれど……」
アリアが呟く。
「……そうですね。もっと活動が激しく、竜の姿も多いと聞いておりましたが。
住民の避難は済んだのでしょうか」
今回の隊の将軍を務めるハイエルフ、アライゼア=バーマルも彼女の隣に来て不思議そうに言った。
彼はアリアの義父にあたるトラフェリア国王、イシュアートの軍での親友であった。
先のウーヴルとの戦争で王が亡くなり、王妃であったハウエリアが女王となった後にも、何かと彼女を励まし、相談相手になってくれていた人物である。
密かにハウエリアを慕いつつも親友の為に身を引いた彼は、その後も誰かと結婚する事はなく、女王に忠義を尽くしていた。
戦争時に引き取られたアリアにとっては、物心付いた時より剣の師であり、父のような存在でもあった。
対外的には内密ではあるが、母は恩人でもあるアライゼアと近く籍を入れるつもりらしい。
それ程大切な人物を、自分の護衛に付けてくれた事にアリアは深い感謝の気持ちを感じていた。
「アライゼア卿、今回光竜で飛んだ者の報告をもう一度」
アリアが聞く。
「はい。昨日要請がありましてから3フォラ後となる夕刻に、光竜3騎に乗りました偵察隊によりますと、火山活動が南西から北に向かって1ギガルドル程続き、その間溶岩流の元より体長4〜7ガルドルの花崗竜、玄武岩竜が7体ほど出現、居住地帯に向けて駆けて行った、との事です……」
「体長4〜7ガルドル?……生まれたてにしては大きすぎる……」
アリアが考え込んだ。
その時、異様な咆哮がすぐ近くで聞こえた。
「何っ?!」
見るといつの間にか数十体の竜が押し寄せて来ていた。
溶岩が固まったかの様なゴツゴツとした鱗を持ち、鋭く大きな牙が生えた口を広げ、立ち上がって二足歩行でこちらに向かって来る花崗竜や、荒削りの岩に手足が生えた亀の様な姿の玄武岩竜がこちらに向かって来る。
この竜達は知能が低く、闇竜と同じく時に人間を襲うのだ。
「おかしい……気配も何もなくこんなに沢山の竜が現れるなんて……」
アリアが不審に思って呟く。
しかしサッと空中に手を上げて、専用の巨大なドラゴンソードを出現させ、構えた。
アライゼアも隊列を組み替えさせて武器を召喚する。
「行くぞ!!」
アリアが閃光の様に駆け出した。
「皆の者!姫に続け!」
将軍の声に、他の兵も気合と共に竜の討伐に足を踏み出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、ヴェイル達はセルリア市国の長と会談していた。
水源地である大湖ミスラカンの上水道としての使用状況、環境整備、互いの国の負担分率等について話し合う。
「御国ナザガランにおかれましては常に水源地へのお気配りをいただき感謝しております。しかし昨今の追加整備状況等から何かと費用が重なりまして……」
セルリア側が言葉を濁す。
「こちらからは資金提供は十分行なっている。それに加えて水質浄化魔法を使うナザガランの水竜の貸し出し、一定期間での入れ替え、施設の定期清掃まで担っている。何か他に問題があるのか?」
ヴェイルが言う。
「……いえ……ただ、こちら側としましても人口増加に加え、最近東側水域での渇水も重なり追加水量が大幅に増えたものでして、少し御国への供給量を減少させていただきたく……」
「湧水量はどうなっている」
「それはもう、ここ数年安定したものでございますので十分ですが、なにぶん……」
「……ナザガラン側でも今、更なる地下水脈の探索はしているが、そちらからは水量を減らさずに供給される事を前提として進行させているのだが……
うむ、分かった。まず東側水域の渇水原因の調査だな。
そちらの状況にもよるが、こちらからも専門家を何名か派遣しよう」
——いつになく雄弁だな。今日はどうしたんだろう。
特に意見を挟む余地も無いほどの進行具合に、リュークは隣で聴きつつも、何故か不思議な感覚に包まれていた。
後ろに控えている従者の小さな囁き声が聞こえる。
「……今日の陛下、なんだかイキイキしてらっしゃらないか?」
「……そうだな……それよりもなんかこう……うーん……いつもより『色気』がお有りではないか?」
リュークがピクリとした。
——『色気』?……なんだそりゃ。
気にはしないが、彼はそれとなくヴェイルを改めて眺めてみた。
——いつもの外交用の魔王服だが……?
アレ?アイツ、あんなに腰細かったっけ……細いか。
逆に胸板がなんだか厚い感じがする。
でも筋肉に対して幅がない様な……
しかし普段もそんなに見ないからよくは分からないな。
何かが違う気もするけれど……
彼が不思議な思いでいる間に、交渉はあっさりとナザガラン側に有利な条件で終わってしまっていた。




