第4話 大学に行こう
ナザガランにも普通に学校があるという事で……
ある日、ヴェイルがリュークに言った。
「リューク。考えてみてたんだけど、ナザガランの魔王軍に足りないものは何だと思う?」
「何だいきなり。足りないものか……うーん……高出力魔法が撃てる人材?上官になれそうな兵とか?かな……」
「それもあるけれど、魔法はやっぱり生まれ付きの魔力もあるだろう?
ナザガランにはリュークみたいにお家柄が王族+王家分家で、高出力雷・火焔魔法が出せる魔族ばかりいる訳じゃないからな」
「……魔王のお前がそれ言う?で、結局なんなんだよ足りない物って」
リュークが呆れ顔で尋ねる。
「うーん、魔法道具、かな……遅効性発動の兵器系統、とか。何か切り替え機で発現する魔法を仕込んで置くやつとか……」
「あまり魔法が得意じゃない兵に持たせておくのか?」
「そうそう。それで、魔王軍の中でそれを作るのが上手い人間っていたかな。その者に兵器系統の物を制作してもらいたいのだが」
「兵の中では思い当たらないけれど、ミレーヌが作るのは上手いよな」
「そうか、ミレーヌか……彼女に魔法道具のシステムを説明してもらって、それを元に作れる人材を育てるのはどうだろうか」
「講師として来てもらうのか。いいかも知れないな……」
彼らは早速、トラフェリア国の王女ミレーヌ及び女王ハウエリアに連絡を取ってみた。
魔術師が少なく、ほぼ人間達の国であるトラフェリアで実際に使用されている兵器を開発しては、その国の特許に引っ掛かる。
その為、完全にオリジナルの武器兵器転用が出来る魔法道具の考案の許可を取ったのである。
「わたくしの魔法道具の方式がお役に立つのであれば、是非お話にあがりたいですわ」
ミレーヌは喜んで引き受けてくれた。
後日、ナザガラン国の国立大学の講義室で、魔法道具の仕組みの解説と応用魔術に関する講義が、ミレーヌを講師として招いて数回に渡って催される事となった。
当日、魔法道具に興味がある研究者や学生達が集まる講義室で、彼女の講義が始まった。
「……筒状になった魔力発生装置に火焔魔法の術式を込めた魔石を1粒、最大3粒入れる事が可能なのですが、こちらをこの部分に仕込んでおきます。
外部連絡紋様の古代エルフ文字の『発』を押す事で圧縮風魔法が発動し、遠距離まで投擲、対象物に命中させると共に火焔を発生させます……ここまでよろしいでしょうか」
「はい」
誰かが手を挙げた。
「あ、では今手を挙げた方、どうぞ」
当てられた者が立ち上がって質問する。
「その投擲距離は何ガルドル先まで届きますか。また、火焔の威力はどれぐらいになるのでしょうか」
「はい、いい質問ですね。飛距離は最大250ガルドル程、火力はそうですね、……え?ヴェ……いえ、魔王陛下?」
ミレーヌが質問者の顔を見て驚く。
皆が一斉に彼を見た。
「陛下!陛下だわ!」
「本当だ!リューク殿下もおられる!」
質問者がヴェイルだと分かり、皆が騒ぎ出す。
「ええ……?」
彼が戸惑ってしまう。
「魔王陛下にリューク殿下……わざわざこちらまでいらっしゃらなくてもお城にてお教えしましてよ?」
ミレーヌが言う。
皆が嬉しくなってしまってワイワイと集まって来て彼らを囲んだ。
「だ、大学……というか学校に来てみたくて……」
ヴェイルが赤くなって言う。彼は今日は一般人の服装をしていた。
それでも全身から輝くような美麗さが漏れ出ている。
「だから質問するなって忠告したのに……お前はただでさえ目立つのに」
隣で同じ様な服装をしたリュークが呆れて言った。
「学食も行っちゃダメかな……」
「お前それが目的だったのか?」
2人が戸惑っている間に噂を聞き付けて人が集まりだし、講義どころでは無くなってしまった。
「もう……どれだけ人気者なのですかお2人は……まだ後2講義残ってますのよ?」
「……すまない。しかし何故これ程人が集まるのだ……?」
ミレーヌがふうと息を吐いた。
「ご自分のカリスマ性に全く気付いてらっしゃらないのね……可愛すぎますが?」
結局その後はミレーヌとヴェイルが教壇に立ち、魔法道具の応用について質疑応答をする時間に変わった。
聞き付けて大学中の学生達が来てしまい、講義室は満杯になった。
その後、学食のテラス席でヴェイルとリュークはランチの後のスイーツを食べていた。
ランチだけで良かったのだが、学食の調理師が2人が魔王と参謀と気付いてしまい、恐縮してスイーツをおまけしてくれたのだ。
「側近も警備の者も付かせずに外に出るの、あんまりないのにな。かえって落ち着かないな……」
「ああ。自由だと思っていたのに案外そうでもないな……トラフェリアに遊びに行ってる方がマシかも」
ヴェイルがベリーとアイスが盛られたパフェを突きながら、遠巻きに見ている学生達を見て言う。
時々呼び掛けに応じてちゃんと手を振ってやるのが彼らしい。
「大学かぁ……通ってみたかったな」
「お前が来たって天才過ぎて学ぶ事ないだろ。講師になるなら別だけど……でも年齢的には大学生ぐらいか、オレ達」
リュークも少し寂しげに言う。
「ミレーヌの講義、分かりやすくて良かったな。彼女は講師に向いていると思う」
「ミレーヌがずっと講師してくれるなら、オレ本気でこの大学通おうかな……」
ヴェイルの感想に、リュークが少し照れながら応える。
「うーん、難しいだろうな。今日も無理言って時間を空けてもらったぐらいだし。その内呼び出しが掛かりそうだ」
ヴェイルがそう言い終わらない間に、通信貴石が鳴った。
「お前達、そろそろ戻って来い。西軍砦跡近くに怪鳥グリファリオンの群れが出た。広域に火焔を吐く恐れがある。第三部隊で対応するが、第一部隊にも後方支援を頼む。ヴェイルは王機竜で出撃、上空で待機してくれ」
留守を預かる父、グラディスからの通信だった。
「分かりました。すぐ向かいます」
ヴェイルが短く返事をする。
彼らは立ち上がった。
食器を戻すとそのまま魔装で鎧装する。
遠巻きに見ている学生達からワァと歓喜の声が上がったが、冑越しにチラリと見ただけで、2人は構わず転移魔法陣の中へと消えて行った。
――その姿を、学生達は憧れの眼差しで見送るのだった……
「今度来られた時には名店のパティシエも呼んでケーキをご用意いたします!」
(学食のシェフ)
「……気持ちは有難いが、特別扱いしなくてもいいから。
美味しかったよ。ご馳走様でした」
「陛下〜(好き)」




