第11話 本編読後用外伝 お勉強飽きた
平和なナザガラン国の魔王城の別館の1室では、まだ4、5歳程の公子ルロイと王女ユティナディアが教育を受けていた。
「……という訳で、このナザガランは、今から600年前に正式に『魔族の国』として世界中の国に登録されました。
『魔族の国の王』と言うことで、代々の王は各国より『魔王陛下』と呼ばれています」
「つまんなーい!!」
女性教育係、アネージアから説明を受けていたユティナディアが突然叫んだ。
「王女様、その様な態度ではいけません」
「だって」
「比べるような事を敢えて言わせていただきます。
お隣のルロイ様は大人しく聞いてらっしゃいますのよ?」
その言葉に縮こまって小さく呟く。
「ルロイは人生2回目だもの。大人しくしてられるもん」
「それは公式には一応秘密なんだけど……ユティ……」
彼が少し動揺して返す。
「はい?今何と……」
よく分からなかったアネージアが聞き返した。
そこへ、
「アネージア、やはり歴史はまだ早くないか?」
と、ノックをして入って来たパトラクトラが声を掛けた。
「お母様!!」
「王太后様」
「パトラクトラ様」
3人が一斉に彼女を見て声を上げた。
ユティナディアがパッと椅子から立ち上がって駆けて行き、彼女にしがみ付いた。
「お、王女様……」
教育係が慌てる。
しかし娘の頭を撫でながら、パトラクトラも悠長に言った。
「ユティナはまだお花の名前などを教えてもらった方が良いのではないか?王女とは言っても、竜だしな……」
「うん!お花、食べられる?」
「……そうか、そういう発想か……食べられる物もあるぞ」
「ねえ、お母様、ユティナもう飽きたの。
ヴェイル兄様の所へ行ってもいい?」
「ヴェイルは今、仕事中だ。
魔力電気供給用の雷竜の電圧計測に同行している」
「竜!竜に会いに行ってるのね?」
「会いに行っているのとはまた違……」
彼女の説明を聞き終わらない間に、ユティナディアは素早く竜の姿になって飛び上がった。
「これ、」
「あっ!」
パトラクトラとアネージアの声も虚しく、小さな姿はスウウと扉から外へと飛んで行く。
「……逃げられたな」
「も、申し訳ありません!」
「そなたが謝る必要はない。私がヴェイルの行き先を言ってしまったからな。ルロイも行っていいぞ」
彼女が教育係を気遣い、大人しく座っているルロイにも声を掛けた。
「はい」
嬉しそうに返事をした彼がみるみる内に精霊竜の姿になり、扉から外へと飛んで行った。
虹色に光る竜の突然の廊下の飛翔に、慣れ始めていた臣下も足を止めて魅入る。
「はあ……私、今後あの方々をどのように教育すればよろしいのでしょうか……」
彼らの姿を見送ったアネージアが嘆く。
「少なくとも窓から飛び出さずにちゃんと扉から出て行っているんだ、行儀はいい方だと思えばいい。お前はよくやってくれている」
パトラクトラが労った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヴェイルはその頃、ナザガランの国全体に魔力を供給するシステムの電圧の調整具合を視察しに行っていた。
ナザガランでは、魔力を持つ国民がそれぞれ税の代わりとして自身の魔力を貯めた魔球を提供している。
雷竜は魔力が主食ではないが、魔球を飲み込んで消化、吸収し、各々の角から電気として放電する事が出来るのだ。
魔族はその電力を上手く蓄電所に貯めるやり方を開発し、ナザガランの全国土に供給している。
最近は魔王軍他のビッグデータを管理する為の、巨大な結晶石のアップデートや各国との通信の為に電力を以前より多く使うようになった。
供給量は足りているが、一度に大量に放電させると雷竜達の負担や調教にも影響が出るので、適量を定期的に検討する為に彼とリュークが出向いているのだった。
「ドナウザーン公国のシステムもアップデートされましたから、我が国でもそれに合わせたグレードにする為に、全体供給の0.7%の上乗せが今後必要になって来ます」
担当者が説明する。
「竜の数は」
「近い内に3体増やします。現在調整中です」
「そうか。それなら安心……」
ヴェイルとリュークが頷いた時だった。
「ヴェイル兄様!」
「リューク兄様!」
突然上空から声がして、2頭の小さな虹色の竜が飛んで来て降り立った。
雷竜達も珍しい種族の竜に気を取られている。
彼らは降りると同時に、小さな男の子と女の子の姿になり、飛び付いて来た。
「ユティナディア、ルロイ。
……どうしたの」
ヴェイルがそう言って、リューク共々自身の妹、弟を抱き上げる。
「お勉強、つまんないの」
「兄様もお仕事なんだね」
2人とも、兄に頰を擦り寄せて言った。
「妹君と弟君でいらっしゃいますか……」
「精霊竜のお姿は初めて拝見いたしました。
美しいものですね……」
周りの者達が感嘆の声を上げた。
「よくここが分かったね。勘?」
「そう!」
「凄いな、竜って……」
ヴェイルとユティナディアの会話にリュークが驚く。
「ごめんね、兄はまだお仕事が残っているから遊べないんだ。
雷竜達もちょっと驚いちゃったみたい。
宥めないとね。
2人は、ストライアお兄さんとユシュランお姉さんがいるから遊んで貰ったらどうかな?」
魔王はさりげなく、乗ってきた王機竜達に目線を送る。
[ヴェイル!分かった!
ユティナとルロイ、遊ぶ!]
最近人語が話せるようになって来たストライアが答え、翼を大きく広げた。
「うん!」
「遊ぶ!」
小さな子らは兄達から離れ、再び竜の姿になって、自分より大きな2頭の黒竜の後を追って飛んで行った。
「……こういうの、暫く続くと思うか?」
リュークがヴェイルに尋ねた。
「精霊竜だからね。
竜寄りに育つか、人間寄りに育つか……ちょっとまだ分からないな」
彼が、小さくなって行く自分の妹を目で追いながら答えた。
「あんまり遠くへ行くんじゃないぞー!」
リュークが叫ぶ。
「「はーい!」」
返事だけは行儀がいいが、みるみる遠ざかって行く。
その姿を、魔王と参謀は困った様な、頼もしいような複雑な笑顔で見送った。
昼前の麗らかな日差しの元を、蓄電所がある谷間の端に沿うように風を切って飛んで行く4頭の竜が、岩肌に影を滑らせて行った。




