第10話 お誕生日おめでとう
本編121話の次の日のミレーヌサイドのお話です。
そちらまで読んでいただけているほうが、お話は分かり易いです。
明るい陽射しが降り注ぐトラフェリア国の昼下がりの事だった。
ミレーヌは城近くにある小高い丘から流れる小川の横に立っていた。
側には心配そうに見守る侍女がいる。
「ミレーヌ様、ナザガラン国行きが延期になられたとはいえ、その様に続けて術をお使いになったらお疲れになってしまわれますわ。それに本日は……」
言い掛ける彼女をよそに、目を瞑って集中して詠唱する。
「時間界!」
すると小川の流れがピタリと止まった。
しかし、よく見ると小さな魚が1匹いる所だけ、その魚を囲むように円形に水が揺れていた。
小魚1匹分だけ外して小川そのものの時間の流れを止めているのだ。
魚は急に先に進めなくなったことに驚いて、円の中をクルクルと泳ぐ。
「……素晴らしい精度ですわ。これでしたらリューク殿下のお身体の中の核だけ外して術を掛ける、ということも出来ますわね」
様子を見ていた侍女が感心して言う。
「ええ。でも問題は継続時間ね……」
ミレーヌが術を解除して侍女に向き直る。
「一体どれぐらいの時間、時を止めていたなら核を納得させられるのかが分からないのよ……わたくしの最大継続時間は20プラク(20分)。それで十分かどうかはやってみないと……」
彼女が不安げに言った。
その時、上空から声がした。
「ミレーヌ姫!」
呼ばれたミレーヌが何事かと空を仰ぐ。
「!?リューク様?」
そこには花束を抱えたリュークがいた。
いつもの参謀服ではなく、王族の準正装という麗しい姿だ。
風で花びらが飛んでしまわないように、純白の翼でゆっくりと羽ばたいて降りて来る。
「あれが……白くなった翼……」
「本当に。まるで天使の様ですね……」
侍女も驚いて見上げながら呟く。
2人の前に、降り立った彼が近付いて来て言った。
「お取り込み中失礼します、ミレーヌ姫、お供の方」
「ご機嫌麗しゅう、リューク殿下。素敵なご登場のお姿ですね」
ミレーヌの言葉に、少しはにかんでリュークが続けた。
「恐れ入ります。本日は私どもの不祥事で我が国にお越しいただく予定を反故にしてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした」
そして跪く。
「本来であれば謹慎の身なのですが、伯父王より許可を得て訪問いたしました。
ハウエリア陛下にこちらとお伺いしましたので、参りました」
彼は花束を差し出し、恭しく言った。
「本日はお誕生日とお伺いしております。どうぞ」
「まあ……ありがとうございます」
ミレーヌが感激して受け取る。
「更にこちらは、我が王ヴェイルと共に作りました贈り物と、菓子職人に作らせた菓子でございます」
リュークはそう言いながら、リボンの掛かった小箱と、菓子が入った大きめの可愛らしい袋を差し出した。
彼女が花束を侍女に渡し、受け取った。
「嬉しいですわ。このお菓子は何ですか?見た目もとても可愛らしいですね」
「菓子は蜜茘枝と花食い鶏の卵を使ったメレンゲクッキーだ。ふわふわでサクサク。
ハウエリア様やお供の人も、皆んなで食べてくれ」
彼が微笑み、口調を崩して言う。
「こちらの箱は?開けてもよろしいですか?」
「うん」
ミレーヌが菓子も侍女に渡し、箱を開けた。
中には小さな光る粒で作られたブレスレットが入っていた。
「まあ……綺麗……」
彼女が目を輝かせて取り出す。
「ナザガランに生える艶白樺の木片を丸く削って磨いたものに、トラフェリアで取れる光玉貝の真珠層を使った螺鈿細工が貼り付けてある。ヴェイルと一緒に作ったんだ」
ミレーヌが早速手首に付けてみる。
日に翳すと螺鈿の部分がキラキラと光って美しかった。
「とても素敵です」
「良かった。宝石とか金銀でもないし、気軽に気分で付けたり飾りで置いてみたり、好きに使ってくれ」
「はい。大事にします。わざわざわたくしの誕生日に合わせてお2人で作ってくださったのですか」
「ああ……最近公務から外されているから、時間もできたし……オレはあまりそういうの分からないけど、ヴェイルが手先が器用だから教えてくれて一緒に作ったんだ。
本当は今日、ナザガランに来てくれた時に渡そうと思っていたんだけれど……
ミレーヌは19歳になったんだな。オレと同じだ。おめでとう」
侍女を見ると少し距離を取って後ろを向いてくれている。
ミレーヌはリュークの額にそっと口付けをした。
「ありがとうございます。大好きです」
彼は彼女の手を取る。
「オレもだよ。我が姫」
言いながら、慣れた様子で手の甲に口付けを返す。
そして照れた様に立ち上がると、残念そうに話した。
「……ええと、そろそろ戻らないと懲罰が下るんだ。
オレ達で城を壊してしまったから……
あなたの生誕祭にも、今の状況的に参列出来なくて本当に申し訳ない。
折角王女として公に出られて初めてのお祝いの席なのに。アリアも呼べなくて……」
「いいえ。こうして来てくださって、お顔が見れて贈り物までいただいて。
わたくし、十分嬉しかったです」
「そうか。急ですまなかったが、オレも会えて嬉しかった。
では、また改めて日取りを決めるからナザガランに来てくれ。待っている。あまり無理が掛からないようにな」
彼はそう言うと、翼を広げ空に上がって行った。
こちらに手を振り、遠ざかって行く。
ミレーヌも見上げて、姿が見えなくなるまで手を振った。
その手首にもらったブレスレットが光る。
「……リューク殿下、姫様によほどお会いになりたかったのですね」
侍女が戻って来て同じように空を見上げた。
「うふふ」
ミレーヌが花束を受け取って嬉しそうに頬を染めながら抱き締め、花の香りを楽しんだ。
「ね、ファシミラ。術の訓練は今日はもうおしまいにするわ。
戻ってお母様や側近も一緒に、いただいたお菓子を食べてみましょうよ。きっと美味しいと思うわ」
そう言って城に向けて歩きだす。
「え。よろしいのですか?是非!」
名を呼ばれた侍女は、嬉しそうに返事をすると、彼女の後ろに付き従った。
本編がちょっと物悲しく寂しいお話なので、こちらで可愛らしいお話を書いてみました




