1話 ようこそ百合学園へ
春。
花びらが風に舞って、レンガ造りの校舎にひらひらと降りそそぐ。
伊佐坂百合杉学園
「――はあ。」
渚美咲は溜息をついた。
まだピカピカの制服に、真新しいリボンタイ。
それがなんだか、これから巻き込まれる未来の災難を予感させて――ちょっとだけ気が重かった。
「ねえ美咲ちゃん、なんでそんなに浮かない顔なの?」
隣を歩くのは、中学生からの同級生の片桐杏奈。
「この学校、噂あるでしょ。入ると絶対……百合になるって。」
「はは、、片桐ちゃんそういう噂信じるタイプなんだ、そんな漫画みたいな学校、あるわけ無いよ」
(今日から高校生活。新しい友達、新しい毎日
普通に、楽しく平和に過ごせたらいいな。)
体育館に整列した瞬間、その願いは盛大に裏切られた。
「先輩〜♡今日も可愛いです〜♡」
「ちょっと…みんな見てるから…っもう…♡」
あちこちで先輩と後輩が抱きついている。
頬を寄せ合い、手をつなぎ、ひそひそと耳打ちをしては顔を赤らめる。
「んっ…ちょ、会場でキスは流石に…///」
「だってガマンできないもん♡」
(なっっっ!!なんで女の子同士でキスしてるの!?しっしかも入学式に!?)
美咲は見てはいけないものを見てしまった気分で、カチコチのまま顔をそむける。
そのそむけた先でも
「ねぇ先輩、今日こそお姉ちゃんって呼んでいい?」
「ふふ、しょうがない子ね。」
抱き合ったままスカートの端をきゅっと握り合っている。
(うそ……何この学園!!百合以前にみんな貞操観念終わってるんだけど!!まっまあさすがに先生がとめるよね....)
壇上にいる校長らしき人物
「はは、青春ですねぇ(ニヤニヤ)」
(終わった……私の普通の学園生活……)
3時間後
(……やっと終わった……)
ぎこちない拍手が鳴り響く中、美咲はほっとため息をついた。
入学式という大イベントを乗り越え、ようやくクラスメイトと顔合わせをする時間になったのだ。
周りはすっかり百合百合しい空気。入学式の最中、そこかしこで先輩後輩が抱き合い、キスし、耳元で甘く囁き合っていた。
(片桐ちゃんどこ?早く片桐ちゃんと話したい....!)
(この学校異常だよ...早く片桐ちゃんと...)
廊下の奥に片桐が見える
「あっ片桐ちゃん!!」
しかし、もう片桐は美咲の知る片桐ではなかった
「先輩♡もうちょっとだけ手、つないでてもいいですかぁ♡」
「えーっ、片桐ちゃん甘え上手〜♡いいよぉ♡」
廊下の隅で、見覚えのある片桐が、先輩に抱きしめられてめちゃくちゃ甘えていた。
(………………)
ちょっと人見知りで、普段はクールを装っていたはずの片桐が、今は耳まで真っ赤にして先輩の肩に顔を擦り寄せている。
「先輩の匂い、好きです♡」
「も〜♡片桐ちゃんってほんっと可愛い〜♡」
(……………………は????)
(片桐ちゃんが……百合に……百合に染まってる……っ!!!)
「あれ、きみ新入生の子だよね?♡
ちょっと放課後遊ばない?♡ちょっとくらい良いでしょ?♡」
「わっっっっっだっ誰ですか?」
「百合杉百合子よ♡誰でもいいじゃない?♡ただきみの顔ちょっと好みだから遊びたいなって♡」
「そっっそんな!あ、遊ぶって何するつもりですか!!」
「SEX」
「うわっこの学園やっぱり百合以前に貞操観念終わってる!!!私はそういう趣味ないので!!!」
急いで逃げる美咲
「もぉ〜つれないなぁ♡」
美咲は周りが百合しかいないという環境でどうなってしまうのか。乞うご期待。