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第45話 異世界流刑

「判決を言い渡す」


 その声は、天井に埋め込まれた黒いスピーカーから、無機質に響いた。

 冷たい人工音声。抑揚も感情もないまま、言葉だけが空間を支配する。


 九曜未臣くようみおみは、まばたきひとつせずに立ち尽くしていた。

 照明の光が白い床に落ちる。立ち並ぶ者たちの影は一切動かない。

 義眼の判事が彼を見下ろし、合成皮膚で作られた弁護人が黙して佇む。

 陪審員席には人間の姿などなかった。データ処理用の透明端末が整然と浮かび、陪審アルゴリズムが沈黙していた。


「被告、九曜未臣くようみおみ。罪状――都市部においてバーチャルユーチューバーの演者を三十七名殺害。動機不明。計画性あり。証拠は十分。よって、異世界流刑に処す。刑期は指定不能。帰還の権利は永久に剥奪」


 瞬間、傍聴席に冷たい嘲笑が起きた。

 大半は取材目的の記者と法務官。誰もが感情の仮面を被り、九曜を人間とは見ていなかった。


 九曜は顔を上げない。

 目を伏せたまま、手錠を掛けられる。動かない口元からは、言葉ひとつ漏れない。

 自白も、謝罪も、後悔の色も、すべて拒んだ。


 ただ一度、彼は振り返った。

 傍聴席の奥――誰かを探すように。

 けれど、誰もいなかった。


 当然だった。


 彼を弁護する者も、赦す者も、もうこの世界にはいない。


 そのまま護送員に連行され、無音の扉が開く。

 中は、光とコードに満たされた送還装置――転送室。


 拘束台に横たえられた男の両眼は、真上の蛍光灯を睨み返すように見開かれていた。


「……九曜未臣。最終確認だ。執行対象者として、“異世界流刑”に異議はないな?」


 応える声はない。

 ただ、硬質な目の奥に燃えるものがあった。感情か、それともただの本能か──目視だけで人を殺すような、そんな視線だった。


「了解。タイムロック解除。転送、始めろ」


 白衣の監察官が短く命じると、処刑台の下に組み込まれた装置が唸りを上げる。

 男の肉体を覆うように、淡い青白い光がじわじわと這い上がっていく。


「クラス、スキル、ギフト、割り当て開始」

「異世界環境への適合処理……完了」

「流刑者データを登録中」


 脳内に直接、何かが流し込まれていく。


 無機質な声が淡々と告げる。


「これより、異世界への送還を開始します」

「地球法は及びません。生死に関して、責任は持ちません」

「異議申し立ては、受理されません」

「以上」


 光が爆ぜた。

 重力の喪失。

 意識が引き裂かれ、視界が白く染まっていく――。


 光が最高潮に達した刹那──九曜未臣の姿は、跡形もなく消えていった。

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