第35話 神の条件
配信の準備画面を閉じたとき、俺の手のひらは少しだけ汗ばんでいた。
何百回と繰り返してきた配信のはずなのに、今日だけはやけに緊張した。
理由は――まあ、分かりきってる。
「というわけで……来たる『DIRECTORY:RELOAD』、俺も出場することになりました!」
宣言した瞬間、コメント欄が流れるように動き出す。
『やったあああ!』
『ガチで!?マジ!?』
『新天地ってこと!?』
『え、ミラちゃんの卒業関係あるの?』
……出たな、鳩。
一部の視聴者が、ミラの話題を引っ張り出してくるのは予想してた。あんなに仲良くなったミラの卒業発表の直後に、唐突に大会参加を表明したら、そりゃ勘ぐられる。
でも、今は違う。これから俺は、「勢いのある場所」で生きていく。いちいち反応して、流されてる場合じゃない。
コメント欄をさらっと見流して、俺は笑顔を浮かべたまま次の話題に切り替えた。
「大会までにはチームも編成してくから、続報楽しみにしててくれよな!」
配信を終えた後、ディスコードを立ち上げて、メッセージを打ち込む。
最初に声をかけるのは当然、斬波レイナだ。FPSで組むなら、まずは彼女以外ありえない。
『レイナ、『RELOAD』一緒に出ない?』
『もちろん!ついに来たかって感じね』
『てかディレクトリ移籍おめでと!話さないように気を付けないとね』
『まじ頼むな……(笑)』
ほんと、長い付き合いになったな――と、少しだけ懐かしさもこみあげつつ、即答でOKしてくれたのがありがたい。
次に考えたのは、もう一人の相棒、空劫ユエだ。
「ブライド+α」って名前で3人で出たあの大会、今でも視聴者に語られることがある。物語性としても、再結成はアツい。
だけど、返ってきた返事は――
『ごめん!実は別のチーム決まっちゃってて、今回はNGかな。でもせっかくだし、もっとビッグな相手と組んでみるのもアリじゃない?』
軽くしょんぼりしつつ、でもユエのその言葉で、少しだけ視界が広がった気がした。
――ビッグな相手。俺の晴れ舞台。
そのとき、頭の中に一人の名前が浮かんだ。
神。
ゲーム実況界隈なら知らない者はいない超人気ストリーマー。FPSでは毎回上位に食い込んでいて、存在感もプレイも圧倒的。
共演は何度かあるけど、チームを組んだことは一度もない。
正直、俺のフォロワー数じゃ釣り合わないかもしれない。でも……今の俺に必要なのは、無難じゃなくて「挑戦」だ。
ディレクトリの担当者に連絡を取って、オファーの仲介を頼んだ。
数日後、返ってきた返事は――
「OKだそうです。神さん、タカアキさんのこと知っていて、むしろ興味を持っていたようですよ」
……マジかよ。
驚きと、ちょっと信じられないような気持ちが胸に渦巻いた。
「ただ、一つだけ条件があるそうです」
「条件?」
なんだろう。チーム構成?時間帯?それともスポンサー絡みの何か?
そして伝えられた内容は、想像のはるか上をいっていた。
「『今後半年間、Vtuberとのコラボは控えてほしい』とのことです」
……は?
言葉を失った。
なんで? どうして? 理由がわからない。
でも、これが「神」と組むための条件なのだとしたら、簡単に無視することもできない。
その瞬間、ミラの配信で笑っていた顔が、ふと脳裏に浮かんだ。
俺は、試されている――そんな気がした。




