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第32話 奇跡の半荘の末に・・・

 始まる前から、心臓がうるさい。


 ──《雀鬼闘牌伝〜幻肢社杯〜》、最終戦。


 オンライン麻雀の配信イベント。ここまで三戦を終えた段階で、俺たち「星空神+α」は総合3位。優勝の可能性は残されている。だが、立ちはだかるのは猛者ばかりだ。


 じんさん。「神頼み」のエースで、言わずと知れたストリーマー界の王。どんなゲームでも一線を張る、まさに“配信神”。


 アークン。「ストテン」代表。俺にSTXイベントで5億の借金を背負わせた張本人。詐欺ロールプレイの鬼であり、麻雀でもそのスタイルは健在。癖者中の癖者だ。


 東雲しののめカレン。「麻雀水族館」の誇る絶対的エース。「幻肢社」所属のVtuberで、事務所内でも“麻雀最強”の呼び声高い。


 そして──星灯ミラ。うちのチームの切り札。初配信では「麻雀苦手」と言っていた彼女が、いまや“雀王”ランク。努力と天性の勘を併せ持つ彼女に、すべてを託した。


 画面が切り替わり、試合の卓が表示される。


 ──それは、奇跡の始まりだった。


 東1局。手堅い立ち上がり。

 最初に動いたのは東雲カレン。中盤に手を崩していたはずなのに、急にリーチ一発ツモ。軽く満貫を決めて会場を沸かせた。


「さすがだな……」


 コメント欄でも『さすカレン』『水族館の鯨使い』と称賛の嵐。


 ミラは無理に追いかけず、きっちり回してノーテン罰符を逃れようとしていた。堅実な打ち回し。そこに成長が見える。


 東2局はアークン。鳴いて、絞って、捨て牌で情報をかき回して……三色同順のテンパイで押してきた。


「うぜぇ……でも、上手い」


 ミラはそれでもブレない。全体を見ながら、冷静に危険牌を止める。結局、流局。誰にもアガらせず、アークンの流れを切った。


 東3局。じんさんのリーチが入る。


 通好みの多面張。コメント欄が『これは当たるだろ』『完璧な形』とざわめく中、ミラは真っ先に危険牌を回避してテンパイを見送った。


「完全に見えてる……」


 そして、東4局。彼女の親番。


 開始から字牌を大きく切らず、ポン・ポンと白と發を晒す。


「まさか……」


 中盤、場に3枚目の中が出ると、迷わずミラがポン。


 カンチャンをツモ切り、手が止まった。

 そして、その瞬間。


「ツモ。大三元」


 ──静寂。


 コメント欄が一瞬、凍りついたかのように止まり、次の瞬間、爆発した。


『!?!?!?!?』『おいおい大三元ツモ!?』『神域降臨』


 俺は拳を握って叫んだ。


「ミラ……! ほんとにやったんだな!」


 役満の直撃。これで一気にトップに躍り出た。



 南1〜3局は反撃のターンだった。


 カレンが親で満貫をツモ。アークンが裏3を引いて倍満。神さんも地味にリーチピンフで点を戻してくる。


 でも、ミラは決して崩れなかった。守って守って、最後の勝負へと持ち込んだ。



 南4局。神さんの親番。


 全員が一打の重みを噛み締めていた。


 神さんの手が妙に早い。捨て牌に数牌が偏る。


「……これ、国士か?」


 気づいた時にはもう遅い。

 神さんが13種13牌。国士無双のテンパイだ。


 が、その瞬間だった。


「ロン」


 星灯ミラの声が、卓に響く。


 「国士無双。13面待ち」


 コメント欄が再び爆発する。

 『嘘だろ!?』『こっちも国士!?』『ミラ、やっぱり神だった』


 勝負は、決した。



 結果、1位:星灯ミラ。2位:カレン。3位:アークン。4位:神さん。

 総合順位も、「星空神+α」が1位で優勝を果たした。


 ユズリハが叫ぶ。「やったあああああああああ!!!」

 ユエも笑いながら手を叩く。「ミラ、最高です!」


 俺も叫んだ。「ありがとう、ミラ……!」


 コメント欄は、ミラへの称賛で埋め尽くされていた。


 『ミラの奇跡ふたたび』『女神じゃん……』『これは伝説』




 ◇




 本配信終了後、俺たちはそのまま二次会配信の相談をしていた。


 「やっぱこの流れで祝勝会やるしかないっしょ!」

 「4人で一緒に遊べるパーティゲームとかどうですか?」


 だけど、ミラは申し訳なさそうに、静かに言った。


 「……ごめん。ちょっと今日は、難しいかも」


 ああ、そうか。疲れたんだな。あんな勝ち方をして、気持ちが追いつかないのかもしれない。そう思って、俺たちはそれ以上は聞かなかった。


 ──それから。


 半年間、俺はミラとコラボすることはなかった。

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