第26話 選ばれし雀士たち、ただし一人NG
雀鬼闘牌伝~幻肢社杯~──その名を聞いた瞬間、脳裏に浮かんだ顔は、当然のようにひとつだった。
星灯ミラ。
彼女とチームで出たい。それが、このイベントに参加する理由の半分以上を占めていた。コラボを通して話がしたい。並んで笑いたい。そう思うのは、ただのリスナーだからじゃない。
……たぶん、俺はもう、そこにいるだけのファンじゃなくなってしまったから。
でも、願望だけではチームは組めない。冷静に、でも少しドキドキしながら、他のメンバーを考える。
「幻肢社から一人……神代ユズリハ、かな」
ミラとも過去に何度か絡みがあったし、なにより主催側。場慣れもしてるし、ムードメーカーとしても信頼できる。
そして三人目。ここが悩みどころだった。
「斬波レイナ……もアリだよな。何かと仲良く遊んでるし、トークも安定してる」
でも、レイナを選んだら──なんか、面倒な空気になりそうな気がした。いや、俺の妄想かもしれない。でも、Vに沼ってレイナの推し活をやっていたことはミラにもリスナーにも周知の事実だし。
「……よし、空劫ユエに声をかけてみよう」
なにかと頼れるし、レイナと違って茶化して笑って流してくれそうだ。うん、これは建設的な判断……のはずだ。
最初に連絡したのは、幻肢社の神代ユズリハだった。
『おお~!もちろんOKですよー!ていうか、むしろ誘ってくれてうれしいですっ!』
彼女らしい明るさで即答をもらう。ほっとした。これで一人目、確定。
次に、空劫ユエへオファーを出す。
『えっ、レイナ先輩じゃなくてわたしでいいの? 推し変報告かな?』
おどけた声で茶化されて、つい笑ってしまった。
『いやいや、違うって。戦力的にもしゃべり的にも、ユエが合ってると思ったんだよ』
『ふーん? ま、いいけど。面白そうだし、出るよー。よろしくねー』
ユエらしい軽さだった。でも、胸の奥が少しチクッとする。
(……内緒だけど、本当はレイナを選んだら気まずくなるって思ったからユエにしただけなんだよな)
こういう時、立場ってほんと難しい。
残るは──星灯ミラ。
いちばん最初に決めていたくせに、いちばんオファーを出すのに勇気がいった。
でも、腹を括ってマネージャー宛にDMを送った。文面は何度も書き直した。誤解されないように、でも熱意が伝わるように。
数日が経った。
返事は──来なかった。
もしかして、怒ってる?
前のフィーナとのコラボの件で、なにか……?
ネガティブな想像がぐるぐると頭の中で暴れ回る。やっと返ってきた返信は、こうだった。
星灯ミラは「麻雀企画」には出演できません。
「……マジかよ」
ため息が漏れた。まあ、そうか。ミラはVtuberとして、設定に命を懸けてる。アイドル系女子高生で、初配信でも「麻雀は苦手です~」って宣言してたっけ。
その“設定”がある限り、参加できないってわけだ。
だけど、どうしても諦めきれず、もう一度メールを読み返して──気づいた。
「ただし、『麻雀が苦手』という設定を克服する流れが配信上で作れるなら、出演も検討可能です。」
心臓が跳ねた。
これって──「設定さえ乗り越えれば出られる」ってことじゃないか?
なら、俺がその流れを作る。誰かに頼るんじゃなくて、自分で。
「……俺が、最低でも【雀将】になって、ミラに教えられる立場になればいい」
プロに任せれば、それで終わる。でもそれじゃ意味がない。
これは、ミラと一緒に舞台に立つための、俺自身の試練なんだ。
決意を胸に、ある人に連絡を取った。
「もしもし、フィーナ? ……もう一度、麻雀、教えてもらえないか?」
「ふふっ、やっと本気になったんですね。もちろん、喜んで」
花菱フィーナの笑みが、電話越しにも伝わってくるようだった。
「“雀帝の弟子”として、あなたを仕上げてあげます。覚悟してくださいね?」
「上等だよ、師匠」
──ミラと並んで麻雀卓に立つ日を夢見て。
俺の挑戦が、ここから始まる。