第24話 最近の君、解釈違いです!
DiscordのDM欄に、ぽつんと新着があった。
──星灯ミラ
「……は?」
思わず声が出た。
まったくやり取りのなかったミラからのDM。なんだろうと思ってタップしたら、そこにあったのはたった一言。
「ありがとう」
それだけ。
文末に顔文字もないし、句読点すらついてない。
きっと、さっきの配信のことだろう。
「+REVERSE」の“歌ってみた”で軽く燃えたあの件──自分が配信でミラをフォローする発言をしたやつだ。
別に大したこと言ったつもりはなかったけど……たぶん、ミラはそれをちゃんと見てた。
だから送ってきたんだろ、この一言。
俺はキーボードを打ちかけて、すぐにやめた。言葉なんて、余計なノイズだ。
代わりに送ったのは、親指を立てるスタンプ一つ。
……伝わるといいな。いや、きっと、伝わった。
何となく、初めてミラと“通じ合った”気がした。
◇
数日後。YouTubeを開いて、たまたまミラのチャンネルを覗いてみた。
そして、目が留まる。
『今回お騒がせしている件について』
タイトルからして、例の「歌ってみた」の件だろう。
「……謝罪配信か?」
少し意外だった。
あいつがこんなことで自分から謝るような性格とは思えないのに。とはいえ、気になって枠に入ってみる。
開幕数分は、よくある挨拶。でも、その後だった。
ミラが、急にまっすぐ前を向いて、言った。
「えーと、今日はちょっとだけ、語らせてください。というか、叫びます」
お、まさか本気で泣きの謝罪くるのか?……そんな期待、三秒で裏切られた。
「タカアキくんの配信って、ソロプレイが一番面白いと思うんですよ」
「コラボじゃないの。ソロで、怒ったり笑ったり泣いたりする、あの感じが好きなんです」
ん?これ……俺の話してるよな?
「だから、最近のコラボばっかりのタカアキくんは、正直、解釈違いなんです!」
マジかよ。
「私が一番の古参なんです! だって、斎藤って名前で活動してた時から知ってるんだよ!?」
えっ、そこ言うか?てか、斎藤って名前、知ってる人ほとんどいねーぞ?
「なのに、タカアキくんは『ぶいれいど』にハマって、歌ってみたまで出して……私とじゃなくて……!」
うわ、来た。核心。
リスナーコメントもざわざわしている。
「いいよ、分かってるよ。『ぶいれいど』の子たち、『VECTRON』うまいもんね。分かるよ」
「でも、一番最初にコラボしたの、私だよ?」
「その時、炎上したタカアキくんをフォローしたのも、私だよ?」
心臓が、じん、と重くなる。
「だから、『+REVERSE』を出したの!」
「私とタカアキ君は、いつも逆行してる。出会った時から、すれ違ってばっかり」
「私がタカアキ君を知った時、私はただのリスナーでしかなった」
「タカアキ君と私が初めて知り合った時、タカアキ君はVtuberに興味がなかった」
「タカアキ君がVtuberに興味を持った時、その相手は私じゃなかった」
「STXイベントでは一度もお話できなかった」
「DivineClashでは一緒のチームになりたかった」
「最近はVtuberの子たちとばかりコラボしてる」
「だから……今度は、私とも、コラボしてよ……!」
画面の向こうのミラは、もう照れも理屈もなく、全力でぶつけてきていた。
あんな熱量のミラ、初めて見た。
コメント欄は、息を飲んだように静まり返っている。
俺も、その一人だった。
どうすればいいか分からなかった。でも──たった一つ、思いついた。
画面をスクロールして、円マークのボタンを押す。
¥10,000
スパチャの金額を入れて、メッセージ欄に、言葉を一つだけ打ち込んだ。
「OK!」
送信。
直後、コメント欄が火を吹いた。
『うわあああああ本物来た!!!!』
『ガチOKキターーー!!!!』
『語彙力無だけど熱すぎる』
『マジで付き合え』
画面の中のミラが、ぽかんと目を見開いて、それから何かをぐっと堪えるように笑ったように見えた。
「……まいったな」
ひとりごとのように呟いた声に、自分でも気づかないくらい、俺は笑っていた。




