第23話 火の粉が飛んできたら
うちらの『-ERROR』、まじでバズってるな。
そう思うのも当然で、投稿からもう一ヶ月経つってのに、コメントも再生もまだ伸びてる。誘ってくれたレイナとユエにもほんと感謝だし、何より、あのとき自分が全力で歌ったって胸を張れる作品だ。
でも――今、どうしても気になるのは、別の動画のことだった。
『+REVERSE』。星灯ミラがつい最近プレミア公開した、あの“歌ってみた”だ。
タイトルからしても分かるとおり、『-ERROR』と同じボカロPの曲で、姉妹曲として有名なやつだ。
ミラの歌唱力は折り紙付きだし、映像もクオリティ高かった。でも、SNSでは違う話題でざわついてる。
「匂わせでしょ」「ブレイド+αに擦り寄ってる感あって苦手」「タカアキ狙いすぎじゃん」
そんな言葉が、TLにポツポツ流れてくる。中には擁護もあるけど、少し火種にはなってた。
(……ミラ、気にしてないといいけどな)
なんとなく胸がざわついたけど、その日は配信の予定があった。軽く雑談してからゲームの予定だったのに――
「タカアキくんもミラちゃんに歌ってもらえてよかったねw」
「次はタカアキ×ミラコラボかな? 匂わせ返し期待してます」
「また擦られてる気分はどう?」
コメント欄に、いつもと違う“鳩”の影がちらついた。
一瞬、配信画面を見つめてしまう。でも手は止めず、声も平常運転。
(……思い出すな)
過去、俺もやらかしたことがあった。
FPSのイベントで、場を読めない発言をして、空気を凍らせてしまった。Xは荒れ、配信もコメ欄が地獄。
でもそんなときだった。
ミラが、配信で何の前触れもなく言ってくれたのだ。
「えへへ、あの人、ほんとエイムすごかったよねっ」
「私、FPS全然ダメだからさ、あの立ち回りほんと尊敬しちゃった!」
そのときの言葉が、俺を救った。
だから――今、俺がやる番だ。
「そういえばさ」
急に話題を切り替える俺に、視聴者のコメントが一瞬止まる。
「レイナとユエと歌った『-ERROR』、自分で言うのもなんだけどバズってるよな」
「それがきっかけで、最近ボカロ曲も聴くようになってさ」
「で、『+REVERSE』って曲に出会って……まじで好きになった。ガチでぶっ刺さった」
「そしたらさ、その曲をさ、星灯ミラさんが歌ってみた出してくれてて……」
言葉を探しながら、それでも止まらずに喋る。
「まじ推しが神曲の『歌ってみた』リリースするとか、最高以外の何物でもなくね?」
コントローラーを一度置いて、カメラの向こうの視聴者をまっすぐ見る。
「俺は、いいと思ったから、ただそれを言いたかった」
その後、沈黙が一瞬流れたあと、コメント欄がゆっくりと動き出す。
「わかる」「ミラちゃんの歌最高だった」「タカアキくん優しすぎ」
否定の声が、少しずつ薄れていく。
(……これで、少しは楽になるといいけどな)
配信を終え、マイクを切った瞬間、ディスコードにひとつのDMが。
相手は――星灯ミラ。




