表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

第21話 -ERRORの向こう側

 まさか、自分が歌ってみた動画を出すことになるなんて。


 斬波きりなみレイナの軽いノリに流されて、気がついたら「ブレイド+α」の名義で、空劫くうごうユエと三人で歌を録ることになっていた。俺が歌?正直、未だに信じられない。


「俺、歌とかやんないって。無理だから」


 そう言った時のレイナとユエの反応は、完全に“想定内”だったんだろうな。レイナは「大丈夫大丈夫〜」なんて気楽な声で言いながら、すでにスタジオの予約まで済ませていた。ユエも「タカアキ、意外と良い声してるよ」と悪びれずに背中を押してくる。


 ――逃げ道が、なかった。


 指定された「ぶいれいど」のスタジオに行っても、当然、二人の姿はない。あくまで“リアルで会えない”がVの掟。俺はプロのエンジニアに囲まれ、孤独にマイクと対峙する羽目になった。


 


 ――そして今日。


 時刻は夜の8時。斬波レイナのYouTubeチャンネルでの生配信。俺とユエもディスコードで通話を繋ぎ、コラボ形式で出演している。


「タカアキ、心の準備できてる?」


「やめろ、こっちは胃が痛いんだ」


 レイナの煽りに、俺はため息混じりに返す。コメント欄は『何の告知だ?』『まさかブレイド解散?』『コラボグッズ?』と予想合戦で騒がしい。


「じゃあ……そろそろ告知、いっちゃいましょうか〜!」


 レイナが溜めに溜めてから、満を持して口を開く。


「なんと! このあと21時からっ! “ブレイド+α”の歌ってみた動画がプレミア公開されます〜!」


 『は???』『え???』『歌?????』


 コメント欄が凍った。見事なまでの硬直っぷりだ。


「しかも歌ったのはあの名曲、『-ERROR』!」


 ざわつくコメント欄。『いや、マジで?』『タカアキさん、歌えたの?』『これドッキリじゃないよね?』


「まあまあ〜、みんな、一回聴いてみてよ? ね、ユエちゃん?」


「うんうん。絶対ビックリすると思うから!」


 どういうテンションでこの場にいていいのか分からない俺は、ただ黙ってコメントを眺めていた。けど、心臓だけはドラムセットのキックみたいにドクドク鳴ってる。


 ――そして、21時。


 プレミア公開が始まる。


 -ERROR、あのnikiさんの名曲。重たくて鋭いトラック、虚無と怒りが混じったボーカロイドの世界。そのイントロが始まった瞬間、コメント欄の空気が一変した。


 『え、タカアキさんこれ!?』『まって、歌上手くない?』『誰だこのイケボ』『いやマジで上手いじゃん』『低音かっこよ……』


 俺のパートが始まった途端、ざわめきがざわめきじゃなくなった。俺の歌に、反応してくれてる。音程も、表現も、全部本気でやった。何より、ユエとレイナとの掛け合いが――予想以上に、いい化学反応を起こしてた。


「ね、ね? 言ったでしょ〜? びっくりしたでしょ〜?」


 レイナがドヤ顔ボイスでコメント欄を煽る。


「タカアキさん、これは隠してましたね〜!」


「……いや、別に隠してたわけじゃ」


「次はオリジナル曲、いっちゃいます?」


「おい。調子に乗るなよ」


 でも、内心は――ちょっと、嬉しかった。


 FPSで叫ぶだけだったこのマイクで。ゲーム実況だけが“俺の表現”だと思ってたこの配信部屋で。まさか、歌で反応もらえる日が来るなんて。


「ま、たまにはこういうのも、悪くねぇな」


 独り言みたいに呟いた俺の声は、配信には乗らなかった。けどきっと、誰かには――伝わってる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ