表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/45

第20話 俺が“歌みた”って本気かよ?

 イベントが終わると、世界が静かになった気がした。


 STXのストリーマーイベント、そして格ゲーイベント『DivineClashディバインクラッシュ』。どちらも数えきれないほどの刺激があったけれど、終わってしまえば現実はいつもの部屋に戻る。マイクとカメラの前に座り、モニターを見つめる。ああ、これが俺の日常だ。


 けれど──。


 確実に、何かが変わっていた。


「お疲れさまでしたー!」


 ディスコードの通話が切れた後、モニターに映ったチャット欄をぼんやり眺めながら、俺はマグカップを手に取る。今日の配信はFPSだった。斬波きりなみレイナ、そして他の「ぶいれいど」のメンツとチームを組んで、終始賑やかに遊んだ。


 一人じゃない。今は、そういう時間が増えている。


 ガデアリ3の配信では、空劫ユエやコーチのNokutoさんと熱い対戦を繰り広げた。幻肢社の九条レムや神代ユズリハとも、イベント後に何度か交流を持った。アークン、シオン・グレイウッド、花菱フィーナ──あの日あの場所で出会った面々とも、気づけば配信で一緒に遊ぶことが増えていた。


「……すげえな、俺」


 思わず苦笑する。元々、他人との距離感に不器用なはずだった俺が、こんなふうに誰かと過ごす時間を自然に楽しんでる。イベントを通じて何かが変わった、というより、誰かによって変えられてしまった……そんな気がする。


 その“誰か”の名前を、口に出さずとも思い浮かべていた。


 星灯ミラ。


 忘れもしない。FPSイベントでの炎上騒ぎ。あのとき、彼女に助けられた。

 『Vtuberカルチャー講座』を見て、知らなかった世界に興味を持ち、気づけば俺はその文化にどっぷり浸かっていた。


 STXイベントでは五億の借金を背負って、ミラの歌を聴くためだけにラーメン屋ロールプレイまでやった。

 ガデアリ3では、彼女に真剣勝負を挑んだ。勝ち負けではない。あのとき俺が賭けたのは、感謝の気持ちそのものだった。


「思えば、ずっとどこかにミラがいたんだよな……」


 呟く声が、自分でも驚くほど静かだった。


 一区切りついた、と思っていた。

 真剣勝負の末に、きちんと礼を伝えて、終わった……はずだったのに。


 ──『私、昔からタカアキさんの古参リスナーだったんですよー』


 ふと、脳裏に焼きついていたミラの声が蘇る。


 あれは、DivineClashのインタビューだった。試合前、彼女は笑顔でそう言った。

 リスナー?俺の?古参って……いつからだよ?


「ネットで話題になっててもおかしくなかったよな、あれ」


 だが実際は、ミラの圧倒的な活躍によって、その発言はほとんど注目されることはなかった。

 忘れられた、というより、かき消された。それでも、俺の中では引っかかり続けている。


 ──誰だよ、お前。


 心の中で思わず問いかける。


 アーカイブを見返し、昔のコメント欄を遡ってみても、それらしいリスナーの名前は当然ながら見つかるはずがない。

「ガチで誰なんだよ……」


 もやもやが、喉の奥でひっかかる。


 そんなとき、ディスコードの通知音が鳴った。


 差出人は、斬波レイナ。


『ブレイド+αで“歌ってみた”やらない?タカアキもどう?』


 歌?俺が?いやいや無理だろ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ